6 勇者Lv1
目が覚めたとき、天井は石だった。
冷たい。高い。
血と魔素の匂いが、まだ残っている。
「……ここは……」
声が、軽い。
喉が細い。
起き上がろうとして、違和感に気づく。
胸がある。
腰が軽い。
重心が、違う。
「……っ」
布をめくり、固まった。
「……女……?」
その瞬間、扉が乱暴に開く。
「起きたか、勇者」
立っていたのは、黒角の魔族。
長身。鍛え抜かれた体。
無造作な黒髪。腕を組み、露骨に面倒そうな顔。
「……誰だ……」
「ヴァイレン・ヴァーレス」
ぶっきらぼうに名乗る。
「今日からお前の監督官だ」
顎で示す。
「立て。武官見習いの朝だ」
最初に渡されたのは、剣ではなかった。
水桶。
「持て」
「……は?」
「魔界の見習いは、まず水運びだ」
重い。
持ち上げた瞬間、腕が震える。
「な……っ」
「地上仕様の身体じゃそんなもんだ」
容赦がない。
「ここは兵舎だ。甘えたら死ぬ」
廊下を歩くたび、視線が刺さる。
二本角。一本角。片角。
黒。赤。蒼。濁った色。
どれも大きい。強い。
「勇者だってよ」
「角もねぇのか」
「折れそうだな」
笑い声。
水が揺れ、床にこぼれる。
「止まるな」
ヴァイレンの声が飛ぶ。
「止まったら最初からだ」
昼。
石みたいな黒パンと、味の薄い肉。
「……噛めない……」
「噛め」
「歯が……」
「折れたら生える」
真顔。
泣きそうになりながら噛む。
喉を通らない。
「……こんな……」
「帰りたいか」
唐突に聞かれる。
「……」
答えられない。
ヴァイレンは短く言う。
「帰りたいなら、生き残れ」
一拍。
「生き残れなきゃ、帰る前に死ぬ」
軽くもなく、優しくもない。
ただの事実だった。
勇者のメンタルはメンズのままです。
そのうちラブコメになりますちゃんとはい。




