表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒狼の航路(ブラックルート) ― 魔王戦記  作者: 一場れい
第二部 魔王戦争編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/100

10 継承

 ──黒耀城・軍議室。


 静まり返った卓。


 魔界の立体図が浮かんでいた。


 エルンが口を開いた。


「陛下」


 レイゼンが目を向ける。


「なぜ統一と法にこだわる」

「玉璽で無効にされてしまえば、すべて無に帰す」


 室内がわずかにざわめく。


 レイゼンは動じない。


 ゆっくりと言う。


「今まで魔界が統一されたことは何度もある」


「我らの祖先、ヴァーレスも成し遂げた」


 黒の将たちが黙って聞く。


「だが」


 指が立体図の各地をなぞる。


「氏族を屈服させただけだ」


「土地を従わせただけだ」


「掟も、法も、そのまま残した」


 三つの言葉が、短く刻まれるように置かれた。


 視線が上がり、将たちの顔を見渡す。


「結果は同じだ」


 短く。


「反乱」


「独立」


「再戦」


 沈黙。


「まとまらぬ」


 低い声。


「我らはいつまで経っても、魔族(ヴァルム)という一つになれない」


 空気が重くなる。


 レイゼンが問う。


「勇者はなぜ来る」


 黒の将たちの顔が歪んだ。


 苦々しさと、長年の憤怒が滲むような表情だった。


 しかし誰も答えない。


 エルンがわずかに眉を寄せる。


 レイゼンが続けた。


「魔界が統一されれば」

「平和になれば」

「人口は増える」


「やがて地上へ出る」


 視線が鋭くなる。


「地上はそう考えている」


 静かな声。


「だから教会は勇者を使う」

「我らを魔界に押し込めるために」


「平和を乱す」


 沈黙。


 レイゼンはわずかに息を吐いた。


 それは疲弊ではなく、長い思考の末に辿り着いた地点を確かめるような息だった。


「魔王がいようと、いまいと関係ない」


「勇者は来る」


「我らに平和は与えられぬ」


 言い切った。


「だから」


 指が卓を、静かに、しかし確かな力で叩く。


「人ではなく」

「仕組みで縛る」




 玉璽で消えるものは、いずれ消える」


 視線がエルンに向く。


「だが」


「法として刻めば」


「それは残る」


 低い声。


「個の力ではなく」


「全体の理として残る」


 沈黙。


「魔族を一つにするのは」


「征服ではない」


「法だ」


 短く。


「それがなければ」


「また同じことを繰り返す」


 一拍。


「戦だ」


 静寂。


 そして最後に。


「法のもとにまとまれば」


「魔界は保たれる」


 わずかに間があった。


「それが泰平だ」


 ───


 エルンが問う。

「法……」

「赤の義は、どうやって残すおつもりか」


 室内が静まる。


 レイゼンは間を置いた。


 視線を卓に落とし、ゆっくりと口を開く。


「義は、人に宿る」


 短く。


「だから消える」


 誰も動かない。


「怒りで揺らぐ」

「勝敗で変わる」

「代替わりで失われる」


 視線が上がる。


「だから残らない」


 エルンは黙って聞く。


 レイゼンが続ける。


「残すなら」


「形を変える」


 指が立体図の上をなぞる。


「義を、そのまま書くのではない」


「義が働く条件を、法にする」


 沈黙。


「例えば」


「降伏した敵を殺さぬ」

「民を害した者は、身分に関わらず裁く」

「戦場での略奪を禁ずる」


 低い声。


「それは赤の義だ」


 エルンの目がわずかに動く。


 レイゼンは止まらない。


「だが」


「義として掲げれば守られぬ」


「感情に依るからだ」


 一拍。


「だから罰を与える」


「破れば処罰する」


「例外を作らぬ」


 卓を軽く叩く。


「それで初めて」


「義は残る」


 沈黙。


 将たちの中には、腕を組み直す者や、視線を手元に落とす者がいた。


 拒絶ではない。


 消化しようとしている沈黙だった。


 レイゼンがさらに踏み込む。


「赤の将が死んでも」

「次の世代が知らなくても」

「法が同じ行動を強制する」


 一拍。


 エルンの眉根が寄る。


 レイゼンは静かに言う。


「名を残す必要はない」


「行動が残ればいい」


 短く。


「それが義の継承だ」


 エルンの目が細まる。


 反論の準備ではない。


 真剣に、その言葉の意味を測ろうとしている目だった。


「赤の義は条文になる」


「例外なく適用される」


「それで消えない」


 レイゼンの声は変わらない。


「それが、私のやり方だ」


 ───


 軍議が終わり将たちが去ると、


 広間はひどく静かになった。


 レイゼンとヴァイレンの双子だけが残されていた。


 ヴァイレンが口を開く。


「義の継承と泰平、ね」


 レイゼンは短く返す。


「そうだ」



「一つにまとまり、泰平の世が来れば」


「我らのような写し身は要らなくなる」


「自然な世代の継承が出来る」


「生まれも、生き方も、縛られない」


 ヴァイレンの目が細くなる。片割れの顔をただ静かに見ていた。


「……俺らが、俺ららしく生きられるように、か」


 レイゼンは否定しなかった。


 それだけで十分だった。


 ヴァイレンが鼻を鳴らす。


「だがよ」


「“ご先祖”は、まだどっかに残してあるんだろ」


 レイゼンは視線を外さない。


「我らの代で成し遂げられなければ」


「次へ残す」


 ヴァイレンが肩をすくめる。


「焼き払っちまえば終わるのによ」


 ヴァイレンは短く笑った。


 笑いの中に毒があるのか、諦めがあるのか、あるいはその両方か、本人にしか分からない笑い方だった。

 

 レイゼンは静かに言う。


「それも継承だ」


 沈黙。


 ヴァイレンは小さく息を吐いた。


 燭台の炎が揺れ、二つの影が壁に伸びた。


「……面倒くせぇな」


 諦めと納得の言葉だった。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

面白い、続きが気になると思われた方は、ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】評価&ブックマークで応援をしていただけると嬉しいです。


感想もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ