間話 前夜
金牙関
関内。
焚き火が並ぶ。
酒が回る。
数日後に、五万とぶつかる夜とは思えない静けさ。
ハルドが盃を傾けながら言う。
「そう言えば」
ヴァイレンが肉を噛みながら顔を上げる。
「あ?」
ハルドは何気なく続ける。
「お前、いい人が出来たんだって?」
ヴァイレン。
「ブッ」
吹く。
「はぁー!? ちげぇ!」
周囲がざわつく。
ハルドは眉を上げる。
「いや、だがリュミエラが言いふらしていたぞ」
ヴァイレンの額に青筋。
「あんの女ぁ……」
黒兵がにやにやと割り込む。
「別嬪さんなんだろ? 見せろよ」
ヴァイレンが睨む。
「そういうんじゃ──」
別の兵が笑う。
「この間は落石から身を挺して庇ってましたよな」
どっと笑いが起きる。
ハルドがゆっくり振り向く。
「……ほぉー」
ヴァイレンが睨み回す。
「ちげぇって言ってんだろ!」
黒兵が笑いをこらえきれない。
「いやでも、あれは完全に庇ってましたよねぇ」
「落石」
ヴァイレンの眉が吊り上がる。
「うるせぇ!!」
ハルドが静かに盃を置く。
「お前の信条はどうした」
一拍。
「弱ぇなら前に出るな、だろ?」
周囲が「おお」とざわつく。
ヴァイレンが詰まる。
「そ、それは……」
黒兵が畳みかける。
「完全に前に出てましたよね?」
「しかも自分が下敷き」
「盾兵の仕事じゃないですか?」
笑いが広がる。
ハルドが追撃する。
「守るのは盾兵の仕事、だったか?」
ヴァイレンのこめかみがぴくりと跳ねる。
「……あいつは」
言いかけて止まる。
黒兵がにやにや。
「“あいつ”って呼ぶんだ」
爆笑。
ヴァイレンが立ち上がる。
「お前ら明日全員最前線だ!!」
兵が歓声を上げる。
「やったな!」
「将軍直々だ!」
ハルドがぼそり。
「図星だな」
ヴァイレンが睨む。
だが反論は出ない。
焚き火の火が揺れる。
怒鳴りながらも、
酒を足す手は止まらない。
ヴァイレンは舌打ちする。
「……クソ」
だが、
兵の笑い声は、
少しだけ安心を含んでいた。
差し込み。
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