間話 魔力の扱い
黒耀城・訓練場。
ヴァイレンが顎で示す。
「お前も、そろそろやるか」
セレンが首をかしげる。
「……?」
可愛い。
ヴァイレンは一瞬黙る。
「……俺らの魔力の扱いだ」
セレンの表情が引き締まる。
「魔法を使うな。体に流せ」
セレンは両手を開く。
ぱっと、光が灯る。
淡い輝き。
祝福の力が漏れ、光となって滲む。
「できました」
「ちげぇ」
即否定。
「光を出すな」
「え?」
「魔力だけだ。光を漏らすな」
セレンは目をぱちぱちさせる。
「これは祝福の光では……?」
「違う。とにかく光らせるな」
ヴァイレンは巻藁の前に立つ。
拳を握る。
一瞬、空気が重くなる。
足元の岩床に罅が走る。
──ドン。
巻藁が内側から裂ける。
束ねた繊維が弾け飛び、破片が散る。
光らない。
ただ、砕ける。
セレンが目を丸くする。
「すご……」
「魔力を“載せる”」
ヴァイレンが言う。
「火力も出る。身体も硬くなる」
一歩近づく。
「だが全身に回さねぇと、どっか千切れる」
「千切れる!?」
「腕とか脚とか」
「そんなに!?」
「無駄に散らすな。集中しろ」
セレン、深呼吸。
目を閉じる。
体に魔力を巡らせる。
ふわっと光る。
その瞬間、金のポニーテールがふわりと揺れる。
「……光るな!」
チョップ。
「痛っ」
セレンが両手で頭を押さえる。
「光らせるなって言ってんだろ!」
「が、がんばります!」
ヴァイレンは腕を組んだ。
「こんなん、まだ初歩だ」
セレンがきらきらした目で見上げる。
「すごいです」
ヴァイレンは右手をかざす。
空間がわずかに歪む。
虚空から、丈八蛇矛が現れた。
柄を掴む。
蛇矛の柄に、静かに魔力が流れる。
一瞬。
踏み込みもなく、投げる。
──轟。
蛇矛は一直線に彼方へ消えた。
音が遅れて追いつく。
セレンが固まる。
「……え」
「体と武器に魔力を載せると、こうなる」
平然と言う。
「すご……」
「それだけじゃねぇ」
ヴァイレンはもう一度、手をかざす。
遠くで何かが空気を裂く。
次の瞬間。
蛇矛が一直線に戻る。
ヴァイレンの手へ引かれるように軌道が収束する。
そのまま手の中に収まった。
ピタリと止まる。
「飛ばすのも、戻すのも魔力だ」
セレンが素直に頷く。
「便利ですね」
「便利、で済ますな」
ヴァイレンは鼻を鳴らす。
「武器は手足と同じだ」
軽く蛇矛を回す。
「飛ばしたくねぇもんは、持ってる武器に流し続ける」
「こんな使い方地上では聞いたこともないです」
「魔法のかかった剣とかなら出来るかもしれませんが」
「地上とここは違ぇ」
「魔素が濃い」
当然のように言う。
セレンは自分の剣を見る。
「……私も、できるようになりますか」
ヴァイレンは一瞬、黙る。
それから視線を外す。
「なんとかなんじゃねーの」
セレンが小さく手を挙げる。
「戻らなかったらどうするんですか」
ヴァイレンは、また手をかざす。
空間が揺れる。
そこに、二メートルほどの別の蛇矛が現れる。
「普段から魔力を馴染ませてるから問題ねぇ」
セレンが目を丸くする。
「まずは体からだ」
「はい!」
素直に構え直す。
最終的にヴァイレンの尊厳が削られるようになります。
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