表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒狼の航路(ブラックルート) ― 魔王戦記  作者: 一場れい
第1部勇者動乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/100

34 臨界点

 その瞬間。


 背後で──


「……あ」


 ノアだった。


 膝をついていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる。


 瞳孔の奥で、白い光が脈打つ。


「……消えた」


 小さく、はっきりと。


「……つながりが」


 周囲の魔素密度が跳ね上がる。


 石畳が軋む。


 ノアの足元に、白と黒の光が浮かぶ。


 発光が広がる。


 表面が染まるように。


「……私」


 ゆっくり立ち上がる。


「……自由?」


 その言葉が落ちた瞬間。


 上空の魔素が収束する。


 空気が圧縮される


 石畳が沈む


 肺が押される


 セレンが息を止める。


 ヴァイレンが蛇矛を構え直す。


「……チッ」


 低い舌打ち。


「厄いな」


 ノアの周囲の濁った光が、わずかに広がる。


 静かに。


 確実に。


 ──臨界に近づく。




 黒耀城。広場上空。


 ノアの身体が、ゆっくりと上昇する。


 足が地面を離れる。


 次の瞬間。


 魔界の天井のである地殻が沈む。


 内側へ引き込まれる。


 天蓋が一点へ歪む。


 音が遅れて追いつく。


 衝撃波が広場を押しつぶす。


 大地が沈み、

 隆起し、

 砕ける。


 セレンが膝をつく。


 呼吸が奪われる。


 魔素の流れが乱れる。


 白い聖衣がまだ上昇する。


 ノアは立っていた。


 否、空中に固定されていた。


 背後で黒い亀裂が走る。


 過飽和。


 行き場を失ったエーテルが一点へ強制収束する。


「……いなくなった……」


 収束。


 空気が歪む。




 ヴァイレンが歯を噛みしめる。


「──止まれ!!」


 丈八蛇矛を振りかぶり、投げる。


 四メートルの黒槍が、


 一直線にノアへ向かう。


 だが──


 空間に触れた瞬間。


 穂先が、歪む。


 弾かれたのではない。


 触れた部分から、形が保てなくなる。


 金属が、粒子化する。


 砂のように。


 穂先が消える。


 刃が失われる。


 柄が、途中で途切れる。


 投擲の勢いだけが前へ進み、


 残骸が黒い渦へ吸い込まれる。


「……っ」


 ヴァイレンの目が細くなる。


 当たる以前に、


 存在の形を保てない。


 蛇矛の残骸が、


 静かに落ちる。




 レイゼンは遠くでそれを見る。


 制御不能。


 魔界全域に警鐘が走る。


「退避を急げ」


「観測を続けろ」




 黒い光は、唐突に収束した。


 荒れ狂っていた力が、

 一瞬で内側へ沈む。


 音が消える。


 圧だけが残る。


 ノアは宙にあった。


 否。


 そこに立つ形を保てなくなっていた。


「……あ……」


 掠れた声。


 自分の手を見る。


 指先の輪郭が薄れる。


 表面から粒状に分解していく。


 黒い砂が零れ落ちる。


「……そっか……」


 微笑む。


 これまで見せたことのない顔で。


「……私……いらなかったんだ……」


 腕が肘から粒となって崩れ落ちる。


 肩が欠ける。


 胸が消える。


 痛みはない。


 維持が、止まった。


 黒砂が舞う。


 音はない。




 その瞬間。


 ヴァイレンが動いた。


 考えるより先に。


 セレンの腕を掴み、地へ叩き伏せる。


 自分は半身を被せる。


「伏せろ!!」


 収束したエーテルが臨界を越える。


 衝撃。


 背骨が軋む。


 光が消える。


 一瞬、無音。


 そして音が遅れて爆ぜる。


 建造物が潰れ、

 地盤が沈み、

 魔法陣が砕ける。


 低い衝撃。


 魔界深層まで届く震動。


 天蓋の罅が広がる。


 轟音。


 岩塊が崩落する。


 セレンは言葉を失う。


 天蓋に罅が走る。


 裂け目から外界の光が差す。


 ヴァイレンは拳を握る。


「……クソ……」


 ───


 レイゼンは崩落する天蓋を見上げる。


(想定以上だ)


(これが……災厄か)


 ───


 その頃。


 地上、教会。


 聖堂地下、封印された観測室。


 水晶盤が一斉に罅を走らせる。


 乾いた音。


 ひび割れが広がる。


「な……何が起きた……?」


 枢機卿が後退する。


 祭壇の聖具が黒ずむ。


 光を失う。


 記録官が報告する。


「魔界深層……」


「勇者ブレイド、聖女ノアの識別波形……」


 喉が鳴る。


「……途絶しました」


 沈黙。


 教皇がゆっくりと顔を上げる。


「勇者を失ったか」


 誰も答えない。


 水晶盤の中央。


 新たな波形が現れる。


「……魔界地殻構造に異常」


「巨大な亀裂が……」


 室内の空気が重くなる。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

面白い、続きが気になると思われた方は、ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】評価&ブックマークで応援をしていただけると嬉しいです。


感想もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ