33 勇者ブレイド2
黒曜城 執務室。
八卦盤の指標が、静かに狂う。
流線が乱れ、周囲の魔素量が跳ね上がる。
占術は、すでに兆しを告げていた。
来たか。
──災いの勇者。
レイゼンは視線を上げる。
「黒耀城周辺、退避を開始せよ」
声は低い。
「北西三区画、即時」
命令が走る。
黒耀城、正門広場。
地鳴り。
ヴァイレンが踏み出す。
「……勇者」
低い声。
「ここからは俺だ」
ブレイドが笑う。
「は……はは……絆か!」
大剣を引き抜く。
黒い靄が立ち上る。
空気が沈む。
次の瞬間──
視界から消えた。
踏み込みが、音を追い越す。
爆音。
蛇矛が横薙ぎに走る。
ブレイドが受ける。
衝突。
衝撃波が広場を吹き抜ける。
石畳が一斉に割れる。
セレンの足元まで亀裂が走る。
「……ッ!」
ブレイドが押し返す。
大剣が振り上がる。
縦一閃。
地面が割れ、粉塵が噴き上がる。
ヴァイレンは半歩ずらす。
蛇矛の柄で受け流し、
返しの突き。
轟音。
衝撃波が広場を削ぐ。
ブレイドの鎧が砕ける。
だが止まらない。
魔力圧が地面を押し下げる。
踏み込む。
膝蹴り。
衝撃。
ヴァイレンが後退。
「……はは」
ブレイドの目が光る。
「重いな」
「てめぇもな」
再衝突。
今度は同時。
蛇矛と大剣が噛み合う。
魔素が爆ぜる。
黒と黒。
圧がぶつかり合う。
地面が沈む。
周囲の兵が衝撃波で吹き飛ぶ。
広場中央が、円形に抉れる。
砕けた石が縁に積み上がる。
互いに弾かれ、距離が開く。
傷も浅い。
完全な拮抗。
ブレイドが笑う。
「やっとだ」
ヴァイレンが蛇矛を回す。
「まだ始まったばっかだ」
二人同時に踏み込む。
今度は──
真正面から。
爆音。
衝撃波が天蓋へ走る。
天蓋の砂塵が舞い落ちる。
黒耀城の窓が震えた。
セレンは息を呑む。
足が、動かない。
──格が違う。
戦いは、互角。
どちらも退かない。
どちらも折れない。
ブレイドが大剣を振り下ろす。
地面を叩く。
衝撃が縦に走る。
石畳が一直線に裂け、波のように隆起する。
ヴァイレンは跳ぶ。
衝撃が足元を通過する。
空を裂く軌道。
蛇矛を投げる。
放たれた刃が空気を裂き、一直線に落ちる。
爆音。
広場中央が陥没する。
破砕された石が円形に跳ね上がる。
だが──
ブレイドはそこにいない。
そして──
広場の中心が、完全に陥没する
蛇矛と大剣が、三度ぶつかる。
衝撃。
広場の中央がさらに沈む。
互いに弾かれ、距離が開く。
ブレイドの肩から血が流れる。
ヴァイレンの頬も裂けている。
だが、どちらも倒れない。
「……悪くねぇ」
ヴァイレンが息を吐く。
「だが」
蛇矛を構える。
「押し切る」
踏み込もうとした、その瞬間。
ブレイドが、笑った。
静かに。
どこか、満足したように。
「……なるほど」
大剣を、地面に突き立てる。
ヴァイレンが眉をひそめる。
「何の真似だ」
ブレイドは答えない。
代わりに、自分の胸へと手を伸ばした。
魔力が、一点に集まる。
圧縮。
凝縮。
セレンが息を呑む。
「待って──」
遅い。
ブレイドは、自らの心臓を貫いた。
魔力で。
内側から。
鈍い音。
身体が揺れる。
それでも、目は逸らさない。
ヴァイレンを見たまま。
「壊せば……」
血が溢れる。
「裏切られない」
最後の言葉は、吐息のようだった。
次の瞬間。
胸部から黒い光が噴き出す。
収束していた魔力が限界を越え、外へ押し出される。
轟音。
圧縮された衝撃が円形に拡がる
広場の石が砕け散る。
ヴァイレンが蛇矛で衝撃を受け止める。
黒い衝撃が空へと走る。
そして──
静寂。
ブレイドは、崩れ落ちる。
呼吸はない。
ヴァイレンは舌打ちする。
「チッ……逃げたな」
吐き捨てる。
だがその目は、僅かに険しい。
セレンは、その場に立ち尽くしていた。
拳を握る。
(……また)
(何も、役に立てない……)
風もない。
ただ、破壊された広場だけが残る。
その時。
黒耀城。
レイゼンの指が止まる。
盤面の一点が、消えた。
「……確定したな」
低い声。
わずかに目を細める。
そして、静かに立ち上がった。
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