4 理由
黒耀城、上層。
戦況図と報告書が宙に浮かぶ執務空間。
ヴァイレンは腕を組み、苛立ちを隠さずに言った。
「なぁ兄貴。聞かせろよ」
「なんで勇者を女にした?」
レイゼンは視線を落としたまま答える。
「殺す理由がなかった」
「それは分かる。だが――」
ヴァイレンは言葉を探す。
「わざわざ女にする必要はねぇだろ」
その瞬間、レイゼンの手が止まった。
「ある」
短く、断定。
「……言えよ」
ゆっくりと顔が上がる。
「勇者とは“役割”だ」
「剣の腕でも祝福でもない。物語に守られた存在だ」
ヴァイレンは黙る。
「地上では、挑み、負け、死ぬことで物語が完成する」
「だが魔界では違う」
視線がわずかに遠くなる。
「ここでは、生き続けることが試練だ」
「男のままでは、死ぬ」
「誇りと役割に縛られすぎている」
「剣が折れれば心も折れる。称号を失えば自我を失う」
「三日ともたぬ」
ヴァイレンは舌打ちした。
「……だから女に?」
「そうだ」
「罰ではない。“役割”を壊すためだ」
「女になれば勇者の仮面は外れる」
「守られる存在でなくなったとき、初めて“個”が残る」
ヴァイレンは小さく息を吐く。
「……えげつねぇな」
「死ぬなら、その程度だ」
「生き残ったら?」
レイゼンは、ほんのわずかに笑った。
「それはもう勇者ではない」
「魔界で生きる者だ」
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