31 災い
作戦室
黒耀城・最上層。
暗い室内に、惑星アウレリオスの光図が浮かぶ。
魔界の領域が淡く輝いている。
レイゼンは、盤面の前に立っていた。
指が、ほんのわずかに止まる。
一点。
まだ色のついていない場所。
空気が、揺れる。
静かに。
確かに。
「……来る」
参謀が顔を上げる。
「赤ですか」
「違う」
レイゼンの目が細まる。
一拍。
「災いだ」
説明はない。
ただ、そう断じた。
室内がわずかに重くなる。
ヴァイレンが腕を組む。
「強ぇのか」
「強さでは測れぬ」
レイゼンは視線を盤面に戻す。
「理の外にある」
短い沈黙。
「備えろ」
それだけ。
盤面の一点が、かすかに脈打った。
まだ名はない。
だが確実に──
こちらへ向かっている。
聖王国、大聖堂。
聖堂は静まり返っていた。
祈りは止まり、視線だけが一点に集まる。
教皇が巻物を開く。
「──勇者ブレイド」
男が、ゆっくりと前に出る
鎧は簡素。
聖印もない。
だが、立っているだけで空気が重い。
無数の傷跡。
感情の読めない目。
教皇は淡々と告げる。
「勇者セレン。
魔界に堕ち、魔族に与した半逆の勇者」
ざわめきが走る。
「生死は問わぬ。
連れ帰れ。抵抗するなら──処分せよ」
命令は短い。
ブレイドは頷かない。
ただ、一歩進む。
その背後で鎖が鳴った。
引きずり出される少女。
聖女ノア。
白衣は汚れ、膝は擦り切れ、手首には枷。
ブレイドが鎖を掴む。
金属が軋む。
「行くぞ」
低い声。
ノアは何も言わず立ち上がる。
二人は転移陣へ向かう。
教皇が最後に言う。
「魔界に災いを」
扉が閉まる。
その向こうで、ブレイドは振り返らない。
ノアを引きずったまま、転移陣へと歩いていく。
鎖の音が、石畳に響く。
その音は、
これから魔界に落ちるものの前触れだった。
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