28 異端認定
西方教会・聖王国 大聖堂
長い机を囲み、聖職者たちが沈黙していた。
高い天井。
祈りの声は、今日はない。
代わりにあるのは──焦りだ。
赤は、教会の誘いに応じなかった。
残された勇者は少ない。
「……勇者セレン」
ひとりが口を開く。
「いや」
訂正する。
「悪の使徒セレンは、魔族と絆を結んだ」
空気が凍る。
「聖なる力を、魔族に与えた」
誰も反論しない。
反論できない。
「確認は取れているのか」
「ジャスティスの証言です」
それで十分だった。
勇者の言葉は、教会にとって重い。
「……異端と認定する」
静かな宣告。
書記が、震える手で記す。
「勇者セレンは堕ちた」
「聖性は失われた」
「討伐対象とする」
重い決定が、あっさりと下される。
だが──
奥に座る老いた司祭が、低く言った。
「本当に、それだけで済むのか」
視線が集まる。
「魔王は、勇者を殺さなかった」
「絆を結ばせた」
「そして強化された魔族がいる」
沈黙。
誰もが理解している。
黒は、動いている。
最悪の方向に。
「……あの男を呼ぶしかない」
その名は出ない。
だが、全員が知っている。
緊張が走る。
「ですが……」
若い神官が、恐る恐る口を開く。
「あの方は……」
再び沈黙。
聖堂の空気が、重く沈む。
選択を誤れば、
教会そのものが揺らぐ。
それでも──
「……呼べ」
祈祷長が言った。
「勇者が堕ちた以上、座してはおれぬ」
誰も、異を唱えなかった。
遠く、どこかで鐘が鳴る。
静かな決断だった。
だがそれは、
確実に次の嵐を呼ぶ一手だった。
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