間話 星のない夜
黒耀城、夜の回廊。
天蓋は高い。
遠い。
だが、星はない。
漆黒の空。
セレンは手すりに寄りかかった。
「……帰りたいな」
小さな声。
地上の風を思い出す。
軽くて、柔らかい風。
星。
夜空。
──待ってくれる人はいないけれど。
「は?」
低い声。
振り向くと、ヴァイレンが立っていた。
金の瞳が細い。
「帰る気なのか」
怖い顔。
セレンは息を飲む。
「ち、違います」
少し慌てて首を振る。
「帰るというか……」
言葉を探す。
「ただ、星空が恋しくなって……」
間。
「帰っても、誰も待っていませんし」
正直に言った。
ヴァイレンは、しばらく黙ったままセレンを見る。
不機嫌そうに、眉を寄せる。
「……景色なんか、見ても腹は膨れねぇだろ」
ぶっきらぼう。
それから、視線を逸らす。
「ここで立ってんなら、明日の走り込み増やすぞ」
「えっ」
「夜風に当たる余裕あるならな」
セレンは少しだけ笑った。
「……走ります」
ヴァイレンは鼻を鳴らす。
「帰るなら、強くなってからにしろ」
それだけ言って、踵を返す。
セレンはその背を見つめる。
天蓋の下。
星はない。
けれど──
さっきより、少しだけ寒くなかった。
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