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黒狼の航路(ブラックルート) ― 魔王戦記  作者: 一場れい
第1部勇者動乱編

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27 恐れの先

 ──黒耀城・作戦室


 赤に動きあり。


 赤軍が一万規模で集結。


 報告が届いたのは夜だった。


 今までの小競り合いとは違う。


 魔界の立体図が浮かび上がる。


 正円を四つに分ける領域。


 北に黒、南に赤、東に蒼、西に紫。

 そして中央に金。 


 中央にはヴァーレス分家筋がすでに守備に入っている。


 旧王朝金の領域。


 魔界の中心さらにその南方。


 赤との境界。


 レイゼンは即断する。


「将三名、兵七千を送れ」


 静かな声。


 伝令が走る。


 その横で、ヴァイレンが眉を吊り上げた。


「……なんで俺を出さねぇ」


 噛みつくように言う。


「一気に潰せば終わるだろ」


 レイゼンは視線を上げない。


「まだ勇者は来る」


 一言。


 ヴァイレンの舌打ちが響く。


「チッ」


 沈黙。


 レイゼンは続ける。


「絆の力をもって、勇者を退けよ」


 ヴァイレンの目がわずかに細まる。


「……」


 あの時感じた、湧き上がる莫大な魔力。


 力は芽吹きつつある。




 話題を変えるように、レイゼンが言う。


「蒼が、教会を焚き付けている」


 ヴァイレンが顔を顰める。


「クソ虫どもがよ」


「勇者を送り込ませているのは蒼だ」


 レイゼンは立体図へ指を向けた。


 地殻の内部。


 淡く明滅する、いくつもの点。


短縮門ダンジョンが活性化している」


 冷静な声。


「蒼が、地上と連絡を取り合っている」


 ヴァイレンの眉が跳ねる。


「そして紫も勇者を抱えている」


 視線は一点を外さない。


「だが正面からは来ない」


 一拍。


「紫の勇者が、絆を結んだ報告は──まだ無い」


 ヴァイレンは黙る。


 胸の奥が、わずかにざわつく。


「教会の勇者にも数がある」


「消耗すれば、止まる」


 ヴァイレンが鼻を鳴らす。


「で、赤を下すと」


「そうだ」


 即答。


「蒼はどうすんだ」


「やんのか?」


 レイゼンはわずかに目を細める。


「蒼は正面からは来ぬ」


「おそらく地上と組む」


 ヴァイレンが吐き捨てる。


「滅ぼした方が魔界のためだな」


 その言葉に、レイゼンは静かに首を振る。


「奴らなりの生存戦略だ」


 一拍。


「恐れから選んだ道だ」


「恐れは、いずれ判断を誤らせる」


「その時に取る」


 ヴァイレンは、わずかに首を傾げた。


 理解はしている。


 だが、同じ景色は見えていない。


 兄の視線は、盤面の先を射抜いている。


 俺には見えていない勝ち筋が、


 あいつには、もう見えている。

 


 ───



 ──黒耀城・軍議の間


 金牙関へ向かう魔将。


 参謀が、黒い杭を数本差し出す。


 細く、重い。


 角ばった古代文字や符が刻まれ、淡く脈動している。


 ヴァイレンが顎をしゃくる。


「……あれは?」


 レイゼンが答える。


「杭だ。巫術を施してある」


 巫術とは龍脈、つまり大地を流れる魔素の流れを整える術。


 ヴァイレンの眉が寄る。


「何に使う」


「お前を南へ送れぬ分──」


 視線は魔界の立体図へ落ちる。


「赤と紫を締め上げる」


「杭で?」


 鼻で笑う。


 レイゼンは動じない。


「そうだ」


 指先が西南部をなぞる。


「奴らの南西の湖」


「その水源は、旧金領域だ」


 一拍。


「水源と龍脈を細める」


 空気がわずかに冷える。


「将来的には、我らの土地になる」


 淡々と。


「干上がらせはせぬが──楽はさせぬ」


 土地は細り、乾く。

 

 ヴァイレンが呆れたように息を吐く。


「よくこんな手を思いつくな」


 レイゼンはわずかに口元を上げる。


 魔将が杭を受け取り、頭を下げる。


 戦は、もう始まっている。




最後まで読んでくださりありがとうございます。

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