間話 飾り角
黒耀城──
黒の女性兵たちに囲まれ、セレンは少し困っていた。
「じっとして」
「動かないで」
「大丈夫怖くないから!」
「絶対似合う!」
逃げ場がない。
セレンの体格は、魔族の女性とほぼ変わらない。
並べば違和感もない。
問題は──角がないこと。
「飾り角、つけてみよ?」
小さな箱が開かれる。
黒い金属でできた、細い一本角。
「これ、祭礼用のやつ」
「軽いよ」
「似合うと思う!」
セレンは目を瞬かせる。
「……飾り、ですか?」
「うん」
「痛くないよ」
「ただのオシャレ!」
断る理由が見つからない。
「じゃあ……少しだけ」
ぱちり。
額に、一本角が固定される。
金髪の間から、すっと伸びる細い角。
女性兵たちが息を呑む。
「……」
「……」
「かわいい……」
「かわいい!」
セレンは、はにかむように笑った。
少し照れた、柔らかい微笑み。
その瞬間。
──視界の端で、金の瞳が固まった。
ヴァイレン。
時間が止まる。
雷に撃たれたような衝撃。
(……は?)
思考が追いつかない。
角。
黒。
笑顔。
似合っている。
(……は?)
次の瞬間。
踵を返す。
一直線に柱へ。
ドゴォン。
黒大理石に亀裂が走る。
女性兵たちが振り向く。
「また!?」
「今月何本目!?」
セレンが慌てる。
「ヴァイレン様!?」
ヴァイレンは白目をむいたまま、柱に額を押し付けている。
「……気のせいだ」
ぼそり。
「何でもねぇ」
後ろから女性兵の小声。
「絶対なんかあったよね」
「あるね」
セレンは角を触りながら首をかしげる。
「……変、でしたか?」
ヴァイレン、即答。
「外せ」
「えっ」
「今すぐ外せ!」
兵たちが一斉に抗議する。
「えー!」
「似合ってるのに!」
「ヴァイレン様センスない!」
ヴァイレンが振り向く。
「うるせぇ!」
兵たち、爆笑。
セレンは、少しだけ困った顔で笑った。
飾り角は──その日はそのままだった。
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