間話 柱三本目 黒の常識(?)
回廊の隅。
ひび割れた黒大理石の柱を見上げて、セレンは首を傾げた。
「……あの」
近くにいた工兵に声をかける。
「柱に頭をぶつけるのは、何の修行なんですか?」
一瞬。
工兵①が噴き出した。
「ぶっ――!」
工兵②が慌てて咳払いする。
「んんっ……!」
セレンはきょとんとする。
「……?」
工兵①は目を逸らし、真顔で言った。
「……個人的な趣味かと」
「そうなんですね……」
セレンは感心したように頷く。
「すごいですね……」
その瞬間。
ゴゴゴ……と、低い音。
柱の奥から、嫌な気配が近づいてくる。
「……よぉ」
振り向いた瞬間、工兵たちは直立不動。
ヴァイレンが立っていた。
金眼が、細くなる。
「何してんだ」
空気が凍る。
セレンは少し考えてから、素直に答えた。
「柱に頭をぶつける修行について、教えてもらってました」
沈黙。
ヴァイレンは、ゆっくりと柱を見る。
ひび。
またひび。
「……」
額を押さえる。
「ちげぇ」
低く一言。
「そんなん真似すんな」
「え……?」
「俺の……趣味だ」
工兵たちが一斉に目を逸らした。
「お前は走ってろ」
「はい!」
セレンは即答して駆け出す。
その背中を見送ってから、
ヴァイレンは柱を一度、睨みつけた。
「……クソ」
工兵①が小声で。
「……三本目ですね」
「聞こえてんぞ」
「申し訳ありません、ヴァイレン様」
黒の回廊には、今日も平和な音がしていた。
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