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黒狼の航路(ブラックルート) ― 魔王戦記  作者: 一場れい
第1部勇者動乱編

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23 蒼と紫

 蒼の拠点、蒼央園。


 水鏡の盤面に、黒と光の残滓が映る。


 静かな会議室。


 蒼の当主が、指で水面をなぞった。


「新たな勇者でも黒は揺るがなかった」


「……黒の片割れ、まことの黒狼と成ったか」


 側近が低く言う。


 水面に映るのは、黒い影。


 狼の輪郭。


「力が上がっている」


「原因は」


 わずかな間。


「……絆、か」


 蒼の当主は目を細める。




 紫楼閣──

 紫の陣営、奥座。


 薄暗い室内に、香が焚かれている。


 長衣の男

 イシリス家の幹部は、報告を聞き終えると、静かに頷いた。


「……なるほど」


 指先で顎を撫でる。


「勇者が力を発揮する条件は、絆」


「そしてその絆は──」


 一拍、置いて。


「男女の情交によって、強く結ばれる」


 むしろ、納得した空気が流れる。


「教会が用意した勇者が、女を連れている理由も説明がつく」


「力を引き出すための“環境”だ」


 幹部は、満足そうに息を吐いた。


「ならば、対処は簡単だ」


 側近が一歩進む。


「……勇者バニング、ですね」


「そうだ」


 幹部は即答した。


「女を当てがえ」


 淡々とした指示。


「世話係だ」


「従順で」


「小さくて」


「弱い者を選べ」


 力を与えるのではない。


 縛るために。


「勇者とは、扱いを誤らねば便利な道具だ」


「感情で縛り、依存させる」


 だが勇者とは制御不能の力──

 その理解に至るのは、まだ先の話だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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