2 魔王戦
黒耀城。
魔界の中心にそびえる王の城。
赤との戦を終えたばかりの城内には、まだ血の匂いが残っていた。
その空気が、ふいに揺らぐ。
転移陣の光が弾け、白い輝きが闇を裂く。
現れたのは、ひとりの戦士。
白銀の鎧。青い紋章。握られた剣。
――勇者。
「ここが……魔界」
声は震えていない。
恐怖より、覚悟が勝っている。
玉座の間。
黒曜石の階段の上に、男が立っていた。
レイゼン・ヴァーレス。
王冠はない。鎧もない。
それでも視線を奪う。
黒い二本角。
闇をまとう黒衣。
ただ立っているだけで、空気が変わる。
――美しい。
それが、勇者の最初の感想だった。
「勇者よ。名を名乗れ」
低く、静かな声。
勇者は剣を掲げる。
「我は勇者セレン。神の導きにより、魔王を討ちに来た」
ざわめき。
レイゼンは動じない。
「神、か」
「貴様が地上を脅かしていると聞いた」
「誰からだ」
「……教会だ」
一瞬で、場の温度が落ちる。
レイゼンは小さく頷いた。
「そうか」
階段を降りる。
足音は静かだが、重い。
「問おう。地上は平和か」
答えられない。
「争いは絶えぬか。教会は清廉か」
沈黙。
「貴様は騙されている」
剣先がわずかに揺れる。
「戯言だ!」
「ならば、討て」
距離が縮まる。
圧が、勇者を押す。
「勝てば我が首をくれてやる。負ければ――敗北だ」
「来い」
勇者は踏み込む。
迷いなく剣を振るう。
当たる。
そう思った。
だが。
視界が揺れる。
防がれていない。
弾かれてもいない。
ただ、届かない。
足元が消える。
気づけば、距離が戻っている。
レイゼンは動いていない。
「……なにをした」
「何も」
それだけ。
勇者の指が震える。
怖いのではない。
理解できない。
その瞬間、悟る。
これは力の差ではない。
立っている場所が、違う。
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