20 教会 二度目の沈黙
西方教会、本部。
白い石の聖堂は、今日も変わらない。
祈りは絶えず、香は焚かれ、光は高窓から差し込む。
だが。
空気が、重い。
「……報告は」
祈祷長の声は静かだ。
神官が一歩前に出る。
「勇者バニングより、定期信号の更新がありません」
勇者バニングは帰らない。
祈祷師の報告は変わらぬ。
「転移痕跡、消失」
「魔界内部にて反応途絶」
会議は重い。
そこへ、静かに扉が開く。
蒼い角を生やした使者が入る。
枢機卿の一人が立ち上がる。
「無礼──」
使者は一礼だけする。
「時間が惜しい」
その一言で空気を握る。
法皇が視線を向ける。
「用件は」
蒼の使者は淡々と答える。
「勇者セレンは生きている」
室内が凍る。
「どこだ」
「黒耀城」
一拍。
「黒に保護されている」
「保護だと?」
「そうだ」
「確証は」
「短縮門の反応と我らの観測だ」
「勇者バニングは黒と交戦後、魔界内部で消息を絶った」
「勇者が魔界に留まる」
「教義上、どう扱う」
沈黙。
枢機卿の一人が怒る。
「異端だ!」
───
「蒼は黒の拡張を望まぬ」
「だが単独では抑えきれぬ」
一拍。
「協力を提案する」
法皇の目が細まる。
「何を差し出す」
一枚の地図を広げる。
地中に矢印。
蒼の使者は答える。
「三つ」
指を立てる。
「第一。短縮門の経路一部を共有する」
「第二。黒の軍制配置、魔将の所在」
「第三。東側地殻構造と魔鉱脈の資料」
室内の空気が変わる。
これは軽くない。
「見返りは」
「勇者の派遣」
即答。
「黒を討てとは言わぬ」
「だが黒に戦わせよ」
「勇者が黒と交戦すれば、黒は前線を動かさねばならぬ」
「黒の拡張速度を落とす」
法皇が沈黙する。
蒼の使者は続ける。
「蒼は地上を侵さぬ」
「黒が勢力を伸ばせばいずれ地上に出る」
「十年後、脅威となるのはどちらか」
答えは言わない。
相手に考えさせる。
「選べ」
「勇者を送らぬなら、黒はさらに強くなる」
最後に一言。
「我らは敵ではない」
「今は、まだ」
深く礼をして下がる。
会議室には、
計算と恐怖だけが残る。
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