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黒狼の航路(ブラックルート) ― 魔王戦記  作者: 一場れい
第1部勇者動乱編

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19 普遍のもの

 ──夜、血の匂いのあと


 黒耀城、執務室。


 外ではまだ、捕らえられた暴漢達の処分が終わったばかりだった。


 城門前で暴れた金の残党は、

 ヴァイレンが三振りで沈めた。


 床には、まだ乾ききらぬ血の匂い。


 ヴァイレンは腕を組んだまま、机に向かう兄を見る。


 ⸻


「……なんだよ、その顔」


 露骨に警戒する。


「言っとくけどな。

 俺が殴って解決するのはダメだ、とかいう説教なら聞かねぇぞ」


 レイゼンは顔を上げない。


「説教ではない」


「じゃあ何だよ」


「確認だ」


 筆が止まる。


「私やお前が死んだあと、

 この魔界はどうなる?」


 ヴァイレンは即座に返しかける。


「……知るかよ、そんな──」


 そこで止まる。


 視線を逸らす。


「……ああ。その話か」




 レイゼンは羊皮紙の上に一本、線を引いた。


「再び乱世だ。

 力ある者が奪い、奪われる」


 もう一本、線を重ねる。


「今と同じだ」


 ヴァイレンが歯を鳴らす。


「だったら誰かが殴り続けりゃ――」


「殴れる者が、いなくなったら?」


 短い問い。


 沈黙。




 レイゼンはようやく顔を上げる。


「我々は永遠ではない」


 静かな声。


「力も、命も、いずれ尽きる」


 長命種にも終わりは来る。


 ヴァイレンは低く唸る。


「……法か」


「そうだ」


 即答。




「だが勘違いするな」


 レイゼンの目がわずかに鋭くなる。


「弱者のためだけの法は、魔界を腐らせる」


 指が机を叩く。


「強き者は、強く在れ」


「それを否定せぬ」


 一拍。


「だが、理由なく踏み潰すことは許さぬ」


 ヴァイレンは鼻で笑う。


「めんどくせぇな」


「殴るより、遥かに難しい」


 わずかに、レイゼンが笑う。




「それ、俺が一番縛られるだろ」


「当然だ」


 即答。


「力ある者が従わねば、

 法はただの紙だ」


 沈黙。


 ヴァイレンは壁にもたれ、息を吐いた。


「……兄貴はほんと性格悪ぃな」


「褒め言葉だ」


 レイゼンは筆を走らせる。


 まだ法ではない。


 ただの一文。


 《力は奪うために在らず》


 それだけを書いて、筆を止めた。


 外では、血の匂いが残っている。



最後まで読んでくださりありがとうございます。

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