18 訓練後のひと幕
訓練場の隅。
傾き始めた天道の光が石床を赤く染めている。
セレンは壁に背を預け、
ポニーテールを解き、結び直していた。
腰まで流れる金髪が、さらりと落ちる。
汗で濡れ、
石色の世界の中でひどく目立つ。
「……邪魔だな」
小さく呟き、
髪を高い位置でまとめ直す。
その様子を――
少し離れた位置から、
ヴァイレンが見ていた。
(……)
自覚はない。
ただ、視線が動かなかった。
「……ヴァイレン様」
背後から声。
若い黒兵が、肩を小突いてくる。
「何だ」
「今日、あいつ崩れませんでしたね」
「ああ」
「昨日より、踏み込み深かったです」
「……そうだな」
ぶっきらぼうに返す。
兵は、にやりとした。
「監督官の教え方が良いからじゃないですか?」
「……殴ってるだけだ」
「殴られた方が伸びる、ってやつですか」
「そうだ」
即答。
兵はさらに笑う。
「でも」
一瞬、視線をセレンへ向ける。
「ずっと見てましたよね?」
「は?」
「走り込みの時も」
ヴァイレンの眉間に皺が寄る。
「見てねぇ」
「見てました」
「見てねぇ」
「見てました」
沈黙。
ヴァイレンは、ゆっくりと兵を睨む。
「余計なこと考える暇があるなら走れ」
「え、今からですか?」
「走れ」
兵は慌てて離れる。
その背中から、くすくす笑いが漏れる。
(……何だ)
ヴァイレンは舌打ちした。
視線を戻す。
セレンは結び終え、
軽く首を振る。
ポニーテールが跳ねる。
それだけで――
胸の奥が、わずかにざわつく。
(……魔素の流れか?)
理屈を探す。
(いや、疲労だ)
視線を逸らす。
その瞬間。
セレンがこちらを見た。
目が合う。
「……何か?」
首を傾げる。
ヴァイレンは即座に言った。
「構えが低い」
「え?」
「踏み込みが浅い」
「あ……はい」
セレンは素直に頷く。
それだけで、
少しだけ嬉しそうな顔をする。
(……何でだ)
ヴァイレンは、眉を寄せた。
(別に、褒めてねぇ)
だが、
さっきの兵の視線が頭をよぎる。
遠くでまた、くすくす笑い。
「……うるせぇ」
誰に言うでもなく呟く。
だが――
蛇矛を握る指先に、
わずかに力が入った。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
面白い、続きが気になると思われた方は、ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】評価&ブックマークで応援をしていただけると嬉しいです。
感想もお待ちしております!




