リナの復帰
アルケディア王国の城、謁見の間。
そこに俺とリナは招かれた。
天井には巨大なシャンデリアが吊り下げられ、壁には歴代国王の肖像画が並ぶ。
磨き上げられた大理石の床は、窓から差し込む陽光を反射し、神々しく輝いている。
玉座へと続く通路には、貴族や側近が立ち並び、国王の周辺は近衛騎士がずらりと並んでいる。
その視線が、俺とリナに注がれている。
玉座に座る国王は、白髪交じりの髭を蓄え、深い皺が刻まれた顔には威厳が漂っている。
しかしその瞳は穏やかで、俺たちを温かく見つめていた。
「ウォールド・ブルームよ、良くぞデーモンの脅威から国を守ってくれた」
「はっ! ありがたきお言葉、光栄に存じます」
「そしてリナ・ノーマリアよ、そなたの魔法は実に見事であった」
「み、身に余るもったいなきお言葉でございます」
リナは緊張して、声が震えている。膝が小刻みに揺れているのが分かる。
「国への貢献と献身を称え、ふたりに褒美を与える」
「「ありがとうございます」」
「ウォールド・ブルーム、前へ」
近衛騎士の声が謁見の間に響く。俺は一歩一歩、玉座へと近づき、王の前で跪く。
「汝を伯爵とし、ヘルグラント領全土の正式な領主とする」
領主という言葉に、物凄い重圧を感じる。背中に冷や汗が流れた。
「リナ・ノーマリア、前へ」
リナが俺の隣に跪く。その横顔は強張っている。
「汝の女神セレナ寺院への再入門を許可し、指導者としての地位を与える」
リナは息を呑む。そして目に涙を浮かべる。
かつて追い出された場所に、指導者として戻れる。その意味をリナは噛み締めているのだろう。
「ウォールドよ……。そなたの手腕を余に見せてほしい。期待しているぞ」
「おっ、お任せ下さいませ!」
緊張して違和感のある返事をしてしまったが、気持ちは本気だ。
俺は故郷を発展させ、国王への恩を返すと心に誓った。
◆◆◆
そしてリナは女神セレナ寺院への復帰となったのだが。
その結果は恐ろしいことになってしまった……。
リナは顔のことについて、過去に子供を怖がらせたトラウマがあった。
そのことから、リナは魔法の仮面を付けたまま寺院に通っている。
寺院の大広間。高い天井にはステンドグラスが嵌め込まれ、色とりどりの光が床に模様を描いている。
その中央に、リナが立った瞬間――
「おおおおっ! 女神様が降臨なされた……」
僧侶たちの反応は凄かった。
床に額をこすりつけ、涙を流しながらひれ伏している。
そりゃそうなるだろう。ファブが女神セレナと同じ顔に作ったのだから、あまりの神々しさに、ひれ伏さずには居られない。
リナも最初のうちは戸惑っていたが、今ではすっかり馴染んで治療も行っている。
しかし……。
◆◆◆
「えっ? リナが授かった祝福? あっ! そうだ。女神セレナが言っていたっけ」
ファブはリナがヒールで見せる力について話し始めた。
「リナは色々な罵声を多く浴びたけど、それで心や体も強くなった。だから罵声の祝福を与えたらしいよ」
「えっ? 罵声? 励ますんじゃないの?」
リナが目を丸くする。
「励ますのは大切だよね。やりすぎると罵声になるのかな?」
そう言いながら、ファブはこめかみに指を当てて首を傾げている。
◆◆◆
リナはそれを真に受けてしまい、指導者として言葉の力を伝授している。
寺院の治療室。白い壁に囲まれた清潔な空間のはずが、今や戦場のような熱気に包まれている。
担架で運び込まれる重傷の冒険者たち。その周りを僧侶たちが取り囲む。
「負けるな! お前はもっと戦える! 根性を見せろ!」
「気合だ! 気合が足りん!」
「お前なら出来る! 死ぬ気で頑張れ!」
今日も僧侶たちの熱血ヒールがこだまする。
眩いほどの光が治療室を包み、汗だくの僧侶たちが拳を握りしめながら魔法を唱えている。
しかも本当に効果が現れ、担ぎ込まれた瀕死の冒険者がピンピンして帰ってゆく。
そして、女神セレナの寺院は、ハードヒーラーの館と呼ばれるようになった。
「みんな今日も気合を入れて! 治療しまくるわよ!」
「おおーっ!」
女神の微笑みと鬼のような荒療治は、治療を受けた冒険者の心に深く刻まれた。
寺院を出る冒険者たちの顔には、感謝と恐怖が入り混じっている。
傷は治った。しかし何か別のものを植え付けられた気がする……と、彼らは口を揃えて言うのだった。




