神の怒り
ようやく現れたな! パンデム!
よくも僕の大切な友人を悲しませたな!
よくも僕に、父親を見捨てさせたな!
お前が出て来るのを、どれほど悔しい思いで待っていたか!
待っていろ! お前が滅ぶさまを見届けてやる!
◆◆◆
コロシアムで俺は父を刺してしまった。
そして、パンデムの巨大で禍々しい腕が、魂を喰らうために父さんへと迫る。
俺はその手が触れようとする直前、斬業の剣で切りつけた。
「ぐあっ! 何だその剣は、実に不快だ!」
切られた腕から光の粒子が漏れ、天へと昇ってゆく。
「忌々しい剣だ、この俺様を傷つけるとは。せっかくの魂が漏れてしまった」
「まあいい、その男の魂は、待っていればいずれ昇ってくる」
「それまでの間、お前をいたぶってやろう」
そう言うとパンデムは再び異空間へと隠れた。
そして背後に違和感を感じた時には、空間の亀裂から手が伸び、体の中に入り込んでいた。
強烈な不快感と痛み。命を刈り取られる感覚が全身を走る。
「ぐがあああっ!」
俺は悲鳴を上げ、斬業の剣を落としてしまった。
「ウォールド! 私に任せて!」
リナは飛ぶように剣を掴むと、パンデムの腕を切りつける。
リナは腕の周囲を回転するように跳ね、何度も攻撃を繰り返す。そしてついに、パンデムの腕を切り落とした。
落ちた腕は粒子となって天へと昇ってゆく。
パンデムの体は、奴隷たちの魂を材料にしていたのだ。
「おのれ、邪魔をしおって!」
パンデムは残った腕を振り回し、リナを追い詰めようと身を乗り出す。
「リナ! こっちだ!」
呼び声に応え、リナが走ってくる。
そして手を掴むと、リナは俺の腕にかかとを乗せる。
そのまま振り回し、パンデムの顔面めがけて飛ばす!
リナは回転しながら手を伸ばし、パンデムの顔を切りつけた。
「グギャアアアア!」
パンデムが絶叫する。よし行ける。このまま倒す!
だが次の瞬間。
「などと言うと思ったか?」
そう言うと、切りつけた傷口がふさがり始めた。
そして切り落とした腕も修復されてゆく。
異空間から上半身を出し、バカにしたように笑っている。
俺とリナは呆然としながら見ている。
「その剣は実に不快だ。だが、不快なだけだ」
斬業の剣では滅ぼせないのか?
父さんが命がけで残してくれたチャンスなのに、いったいどうすれば……。
「さあ、そろそろ来る頃だ……」
パンデムは父さんに目を向けた。すると……。
父さんの体から光る粒子が漏れ出し、パンデムの元へと流れてゆく。
「この魂を喰らい、俺様はさらに強大な存在となる。次はお前たちの魂を喰らう」
パンデムが大口を開き、舐めるように父さんの魂を喰らい始める。
「させない!」
リナが父さんの元へと駆け寄り、ヒールの魔法を発動する。
淡い光が父さんの体を包み込む。
「ヒールだと? 無駄なことだ。味が落ちるからやめろ!」
パンデムがリナへと手を伸ばす。俺はそれを切りつけてリナを守る。
リナは必死でヒールを続ける。その光は魂を掴み、抑え込んでいるように見えた。
パンデムは、なおも手を伸ばし続ける。しかしその手は、リナから父の魂へと伸びている。
斬業の剣でパンデムの腕を切りつける。
しかしその腕は、魂を引きずり出そうと修復を繰り返す。
リナとパンデムの魂の奪い合い。そしてパンデムを阻止せんと切りつけられる剣撃。
一進一退の攻防が繰り返される。
リナの魔力が限界を迎え始める。鼻血を流し、歯を食いしばりながらヒールを続けている。
そしてパンデムは先に動いた。
「面倒だ、二人まとめて食ってやる!」
パンデムが異空間から飛び出し、向かってくる。
巨大な体が空を覆い、影が俺たちを飲み込む。
俺は咄嗟に前へと突進し、パンデムの口に向かって剣を投げた。
そして斬業の剣がパンデムの舌に突き刺さった瞬間。
キィーン!
何かを叩く音。
魔法陣が展開され、ファブがパンデムの前に現れた。
その手には錬成の槌を持ち、パンデムと斬業の剣を打ち据えている。
「うぎゃあああああっ!」
パンデムに斬業の剣が融合してゆく。その不快さに、パンデムはのたうち回っている。
「ようやく捕まえた。これでお前は、異空間には逃げられない。剣と融合したからね」
ファブが来てくれた。この瞬間を待ち構えるように……。
「パンデム、お前は僕を本気で怒らせた。味わいたいなら、神の怒りをじっくり味わうといい」
ファブは今まで見たこともないような険しい表情で、パンデムを見据えていた。




