↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/47

激闘

 リナは俺がぶつかったせいで、気を失ってしまった。

 剣と盾も弾き飛ばされた。取りに行く暇はない。

 リナの意識が戻るまで、何とか時間を稼ぐしかない。


 来い! 父さん。俺に剣撃が効かないことを見せてやる!


 俺は腰を低くして腕を重ね、突進に備える。


「……何の真似だ?」

 父さんは怪訝な目で俺を見つめている。何かに警戒しているのか?


「見せてやるよ、俺に剣は効かないってな」


「……剣を取れ」


「かかってこいよ」


「剣を取れと言ってる!」


「俺に剣はいらない!」

 そして俺のほうから突進し、顔面へ向かって殴りかかる。


 ガシィン!


 頭に被った兜が吹き飛ぶ。そして顔が晒された。

 そこにあったのは……


 強くて優しい父さんの顔だった。

 傷だらけで、無精髭が伸びている。でも間違いない。

 そうか、これで分かった……。

 父さんは何も変わってはいない。優しいままだ。

 今も守ろうとしている。


「どうして切らなかったの?」


「……」

 何も言わない。これで分かった。父さんは俺に倒されるつもりだ。


「いいか、よく聞け……」

「俺に家族はいない。身代わりなどいない!」

 そしてまた殴り飛ばされる。

 砂埃が舞い上がり、観客席からどよめきが起こる。


 そうか、父さんが守っていたもの。俺たち、家族だ……。

 パンデムから隠していたんだ。

 そしてようやくパンデムを滅ぼす剣を見つけた。


「俺は終わらせる! この呪われた契約を!」

「お前は何をしに来た! 俺を倒してパンデムをおびき出すんだろう!」

 俺は掴み上げられ、飛ばされた剣に向かって放り投げられた。


「剣を取れ! 覚悟を決めろ!」

 俺は剣を取り立ち上がる。

 ファブが言っていた覚悟の意味がようやく分かった……しかし……。


 俺は父さんに向かって剣を振り上げる。


「うおおおおおっ!」


 その刹那、母さんの顔が浮かんでくる。あの頃の悲しそうな顔。

 もう二度と見たくない。


「バカやろおおおっ!」

 渾身の頭突きを食らわせる。

 今度は父さんが吹き飛んでゆく。


「いてええええっ!」

 額から血が吹き出る。そうだった、バリアウォールは相手の攻撃にしか発動しない。

 父さんも額から血を流し、フラつきながら立ち上がる。


 ◆◆◆


 そこからは泥試合だ。お互いに拳で殴り合う。

 ただし、俺にはバリアウォールが発動し、ダメージを受けることはない。

 だが父さんはボロボロになってゆく。そして俺の拳も皮膚が裂け、血だらけになる。


 父さんのタフさは異常だ。本当に人間離れしている。

 何度殴っても倒れない。何度吹き飛ばしても立ち上がる。


 しかし、互いの拳が同時に交差した瞬間、カウンターリフレクションが発動した。

 三倍威力のパンチが父さんの顔面に炸裂する。


「がはぁっ!」


 父さんは吹き飛び、そのまま動かなくなった。

 殺してしまったかと思って動揺していると、もうフラフラになりながらも立ち上がり始めた。


「やるな、とんでもなく痛かった……」

 口の端から血を流しながら、父さんは笑った。


「なんで起き上がるんだよ! 自分一人で守るなよ!」


「守るってのは痛い、苦しい、でも、笑顔を守れる……そうだろ?」

「お前は……お前にしか守れない者を守れ! 俺は守る! 死んでも守る! そう誓った!」

「思い出せ、何のために俺の前に立っている。剣を取れ!」


 そう言うと、父さんは斬業の剣を拾い上げる。

 俺も言われるまま、剣を手にする。


「今ここで決断しろ……」


「ああ、分かった……」

 そして俺は剣を捨てる。


「甘ったれるなあ!」

 父さんは俺をリナに向かって蹴り飛ばす。そして……


「お前の大切な人を、守って見せろお!」

 リナに向かって剣を突き立てた。


 そして気がついた時には……

 俺の血塗られた拳は、リナの剣を手に取り……

 父さんの胸を刺し貫いていた。


 観客席から悲鳴が聞こえる。あれは母さんの声だ……

 来ていたんだ……。


「ウォールド!」

 背後からリナの声が聞こえる。どうやら無事だ、良かった。

 父さんは、わざと外したんだな……。


 ◆◆◆


 父さんの大きな手が俺の体を抱きしめる。

 でも少し小さく感じる。いや、俺のほうが大きくなったんだ……


「よくやった」

 優しい声だ。父さんの優しい声が聞こえる……


「倒されるのがお前で良かった。辛いことをさせて済まなかった」

 ひどい父親だ。俺にこんな事をさせるなんて……


「母さんやエミリーのことを頼む……俺のことは話さないでくれ」

 もうバレてるよ。母さんの声が聞こえなかったのかよ……


「奴が来る……この剣を頼む……お前なら出来る……」

 父さんは斬業の剣を俺に押し付けるように渡した。

 ああ、受け取った。必ず倒してやる!


 父さんの体から光る鎖が浮き出る。そして鎖は砕け散り、粒子となって消えてゆく。

 これはきっと契約の鎖だ。父さんはやり遂げたんだ……。


「最後にお前に会えた……強くなったな……俺の自慢の息子……」

 最後って言うな! 俺は嫌だ!


 父さんから力が抜ける。抱きしめていた手がほどけてゆく。

 ああ、ファブ、お願いだ。父さんを助けて……


 しかし、ファブの声は返ってこなかった。


 ◆◆◆


『ようやく喰える。極上の魂だ。この時をどれほど待ち望んだか……』


 不気味な声がコロシアムにこだまする。

 観客たちがざわめき、悲鳴が上がる。


 頭上の空間が歪み、亀裂が走る。

 まるで世界そのものが引き裂かれるように、黒い裂け目が広がってゆく。

 そしてその中から、禍々しい気配が漏れ出す。


 亀裂から長く醜い爪が、指と共に這い出してくる。

 指は空間を押し広げ、そして遂に顔を覗かせた。

 人の顔のようで、人ではない。歪んだ笑みを浮かべた悪魔の顔。


 パンデムは舌なめずりしながら父の魂へと手を伸ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。