トーナメント予選
コロシアムでのトーナメント。しかしそれは名ばかりの殺し合い。
それは分かっている。しかし相手は奴隷。
彼らは生きるために戦う。名誉のためでもなく、富や自由も得られない。
ただ命を消費し、その魂はパンデムの餌となる。
心底胸糞が悪い。
そんな場所に母さんやエミリーを来させる訳にはいかない。
俺は黙ってコロシアムへと向かった。
隣にはリナがいる。俺のかわりに攻撃を担当する。
そしてファブは、コロシアムを調べると言って消えてしまった。
トーナメント予選のルールは単純だ。相手を戦闘不能にすること。
手段は選ばない。相手が死んでも関係ない。
そして、最後のパーティが残るまで終わらない。
俺がやることは一つ。最後までリナを守り抜くこと。
そして奴隷を殺さないこと。
◆◆◆
コロシアム内は熱気に包まれている。
残酷な殺戮ショーを期待する貴族や冒険者達が観客席を埋める。
そこには、修羅ギルドのメンバーも少なくない。
彼らは俺の活躍を見に来ている。無様な姿は見せられない。
今、俺は仮面を付けてはいない。修羅ギルドのマスターとして立っている。
彼らに見せる、俺の意志を。
俺の周りには、無数の奴隷が鎧に身を包み、盾や剣を構えて立っている。
そして弓や槍、魔法の杖を持つ奴隷もいる。
おそらく元は冒険者だ。油断する訳にはいかない。
彼らは戦闘の経験者だ。
俺は一際高い位置にある観客席を見上げる。
そこには、王座と思われる豪華な椅子と周囲に側近の座る椅子が並んでいる。
しかしそこには、ヘーゲラ以外は居ない。予選に王は現れないということらしい。
あるいは、ヘーゲラがコロシアムの支配者ということか?
トーナメント開始のファンファーレが鳴り響く。
そして解説の声が高らかに響き渡る。
『ようやくこの日がやって来た! 血湧き肉踊るトーナメント!』
『この日、生き残ったパーティは、決勝へと進み、アイゼンとの対戦権を得る!』
『不敗伝説を誇るアイゼンを、倒すことが出来るのか!』
『さあー! 死にたくなければ戦え! 血の海を泳いで辿り着け! そして伝説となるのだ!』
ドーン!
開始の号砲が鳴る。
「うおおおおおっ!」
叫び声とともに奴隷たちが一斉に襲いかかってくる。
「リナ、退避だ!」
指示を飛ばすとリナは素早く後方へと下がる。
無数の剣が振り下ろされる。しかし俺には傷一つ付かない。
バリアウォールが全ての攻撃を無効化する。
俺は拳を振りかぶり、地面に向かって叩きつける。
ドーン!
カウンターリフレクションの三倍攻撃。
轟音と共に地面が割れ、激しい衝撃波が広がる。そして周囲の奴隷は怯んだ。
「リナ!」
そしてリナが近づき、薬を撒き散らす。
シーフの使う眠り薬だ。社交パーティの会場でも使っていた物だ。
俺は薬を吸わないように、口元に布を上げる。
しばらくして奴隷たちが膝をつく。そして次々に倒れてゆく。
「気をつけろ! 薬を使ってくるぞ!」
短剣を装備した奴隷が声を上げる。おそらくシーフだ。リナの薬に警戒している。
その声に、周囲でお互いに戦っていた奴隷たちの視線が一斉にリナへと向く。
その瞬間、リナは俺の肩を足場にして空中に飛び上がった。
そして仮面を外し、口元を隠す布を下げる。
女神のような輝く顔が晒される。
フードがはだけ、艶めかしい肉体に流れるような美しい金髪が揺れる。
その場にいる全ての奴隷達、その目が釘付けになる。
リナは着地と同時に素早く俺のマントに隠れる。
そして俺は周囲を睨みつけながら叫ぶ。
「俺の女だ! 手を出すな!」
嫉妬、欲望、妬み、怒り……あらゆる感情が俺に向かって突進してくる。
あいつから奪ってやると顔に書いている。
「欲しければ奪ってみろ!」
元々は欲深い連中だ。だから簡単に騙され、奴隷に落ちた。
俺も本当ならあっち側だったかも知れない。
いや、そもそも生きてはいないか。
俺に足りなかったのは欲望なのかも知れない。
しかし……。
「リナ! 今だ!」
俺はリナを放り投げるように腕を上げる。そして腕を足場にして空へと舞い上がる。
その姿は、地上へと舞い降りた女神のように輝いていた。
俺はそんな姿のリナよりも、仮面を取った顔のほうが好きだ。
やっぱり俺は欲が足りない。リナ、あとは任せた。
「トールパンチ!」
俺は全力で地面を叩く。
凄まじい振動とともに電撃が広がってゆく。
そして俺の意識は途絶えた。
倒れる瞬間、空中でリナは仮面を外して俺を見ていた。
◆◆◆
目が覚めると、全てが終わっていた。
周囲の奴隷は全て倒れ、リナだけが立っている。
「大丈夫? ウォールドのお陰で残りは楽勝だったよ。殺してないから安心して」
口元を隠したリナは、俺の大好きな顔に戻っていた。
『こっ、これは、早くも決着した? 一体何が……』
解説の声は戸惑っていたが、しばらくして結果を宣言する。
『勝者、修羅ギルドマスターパーティ!』
会場の一部から割れんばかりの喝采が送られる。全員修羅ギルドのメンバーだ。
しかし多くの者は見た光景に困惑していた。
「あれは魔法か? 顔が変わったぞ?」
たしかに魔法だ。ファブのとんでもない魔法の仮面だ。
『明日は遂に決勝戦だ! ついに新たな伝説が生まれるのか? 心して待て!』
ヘーゲラは観覧席から俺を睨みつけている。
「残念だったな。魂はおあずけだ」
奴隷商元締め、ヘーゲラ・ファンカルト。お前の好きにはさせない。
あとはパンデムだ。奴を引きずり出して滅ぼす。
そのためには、斬業の剣が必要だ。
そして取り返さなくては、鎧の男から。




