スキルを試す
きっかけは、リナの何気ない一言だった。
「ねぇ、ウォールド……あの時どうして平気だったの?」
あの時とは、リナが罪人として捕らえられ、奴隷商に売り渡された時だ。
俺はあの時、剣の直撃を頭で受けた。
普通は即死だ。しかし俺にはバリアウォールのスキルがある。
あらゆる攻撃を無効化するチートスキルだ。
転んで怪我でもしない限り、俺には傷一つ付けられない。
リナには詳しく話してはいなかったので、今になって疑問に感じたようだ。
俺とリナはこれからコロシアムに向かい、場合によっては殺し合いに参加する事となる。
ましてや、パンデムとかいうデーモンと相対することになる。
戦力を知っておくことは、お互いに重要だ。
「そういえば、ウォールドは使っていないスキルが沢山あるね。説明しておこうか?」
ファブがテーブルでお茶を飲みながら話す。
最近は執務室へ遊びに来ることが多く、エミリーにお茶を入れてもらっては嬉しそうに飲んでいる。
「えっ? スキルカードって一体、何枚あったんだ?」
「十枚かな。今まで使ったのは四つのスキルだよね」
ファブは指を折りながら数えている。
「バリアウォール、カウンターリフレクション、グルームハンド、ロマンリキッド」
リナは不思議そうな顔で、ファブの話を聞いている。
「じゃあ、残りは何が残ってるんだ?」
「試してみるかい?」
「ああ、頼む!」
俺は心を踊らせながらファブの顔を見る。
するとファブの目は、斜め下方向へと向けられていた。
「まぁ、ウォールドならなんとかなるよね……」
何だその言い方は。
「それじゃあ、時間停止のスキルから……」
「えっ? 時間停止? それって凄いじゃないか! どうやるんだ?」
「タイムクラッシュと唱えると発動するよ」
そう言いながら、ファブはカップにお茶を注ぐ。
「タイムクラッシュ!」
すると全員の動きが停止した。
何もかもが停止している。誰も動かない。
カップに注がれているお茶も空中で止まっている。
そして俺も……。
意識はあるが、まるで動けない。
なるほど、ボツで返されたスキルだった。
しばらくすると、時間が動き出した。
「うん、良く分かった。確かに時間が止まったよ」
「えっ? 時間を止めたの? も、もしかして、私に何かした?」
リナが何かを警戒している。
「時間が止まっただけだった……俺の時間も止まった」
俺の言葉にリナは困惑し、ファブは困ったような顔をした。
「他のを試させて……」
「じゃあ、超鑑定をしてみようか」
「鑑定できるのか? 凄いじゃないか! 相手の弱点とかも分かるのか?」
俺は期待に胸を膨らませ、リナを鑑定してみた。
「超鑑定!」
するとリナの体に数字が現れた。
「おお! これは……」
『B 90 / W 58 / H 90(cm)』
「ファブ……これ以外の数字は?」
「異世界の冒険者に頼まれて作ったんだけど、女神様がボツだって言ってね……」
異世界の冒険者ってどんな奴なんだよ……。
リナは意外と胸が膨らんでた……。
「ねぇ! どうだった? 私を鑑定して何が分かったの?」
リナが興味津々で聞いてくる。
「何と言うか……凄い攻撃力だった」
リナは不思議そうにしていたが、まんざらでもない様子だった。
「ファブ……何か攻撃系で使えそうなのは無い?」
俺が質問すると、ファブは得意げに答える。
「あるよ……必殺技が。ただし、かなり強力だから、使い方に注意する必要がある」
「ああ、外で試そうか!」
必殺技! 何とも甘美な響きだ。俺にもついにその時が来た!
俺達は修羅ギルドの裏にある訓練場へと足を運んだ。
そして的に向かって立つ。
「よし、教えてくれ。それからみんな下がって」
「良い判断だね。それじゃあ、トールパンチと唱えながら的を攻撃して」
「本当に大丈夫か? このあたりに大きな被害が出るとか無いよな……」
俺は少し不安になりながらファブに確認する。
「全力を出さなければ、的が吹き飛ぶくらいかな?」
ファブは片目をつぶって指を振っている。
「トールパンチ!」
俺は軽くパンチを撃つ。
拳に魔力が集まり、雷の力が纏う。そして激しい稲妻とともに、的は木っ端微塵に粉砕された。
そしてその周囲には電撃が走り、俺は痺れて動けなくなった。
パタン!
そのまま倒れて意識を失っていたようで、目が覚めるとリナとファブが覗き込んでいた。
「やっぱり自分の攻撃にはバリアウォールは発動しないのか……なるほど」
ファブは結果に納得した様子だが、俺は納得したくても無理だった。
リナはホッとした表情で俺を見ている。
もうスキルに期待するのは止めようと思った。
「よし、残り三つだ!」
もはや、修行のような境地に達していた。
「イカロスウィングと唱えると、空を飛べるよ」
「マジか! それって凄いじゃないか!」
俺は期待に……とりあえず、やってみよう。
「イカロスウィング!」
すると足が地面を離れ、空中に浮遊した。
「「おおっ!」」
俺と同時に、リナも声を上げる。二人とも目が輝いている。
そして俺は、空中を飛行する。
自由に飛べる! これは凄い! もっと早く教えてほしかった。
俺は高度を上げ大空へと舞い上がる……。
ことは無く、割と低い高さを自由に飛んでいる。
人の背丈くらいしか上昇出来ない。
ファブは満足そうに俺を眺め、声をかけてくる。
「異世界の冒険者は高いところが怖いらしくて、低めに設定したら返されたんだ」
異世界め!
「もっと高く飛びたかった……」
俺はしょんぼりしながらファブに訴える。
するとファブは得意げな顔で話し始める。
「ペガサス召喚と唱えてみて。空を飛べる魔獣を呼び出せるから」
おお、今度こそ空を飛べる!
「ペガサス召喚!」
すると天に魔法陣が現れ、そこから翼の生えた白馬が現れた。
頭には氷のような角を持ち、滑るように滑空している。
そして目の前へと降り立つと、前足を上げていななく。
「うわあ、綺麗な馬……」
リナはうっとりとした目でペガサスを見ている。
俺はゆっくりとペガサスに近づき、首に触れようとする。
パカーン!
突然蹴られて吹き飛ぶ。
ドカン! バキン! ズサー!
壁にぶつかり跳ね返った俺に、ファブが話しかけてきた。
「一応、魔獣だから気をつけてね」
「どうすればいいの?」
バリアウォールのおかげで平気だが、リナの前で醜態を晒している。精神的ダメージが大きい。
「頭を撫でればテイムできるよ。シフォンと同じようにね」
ファブはこともなげに言う。しかし、どうやって近づけば……。
その時、リナの姿が目に入った。ペガサスがリナに近づいている。
俺は慌てて起き上がり、リナに向かって走る。
「危ない! 逃げるんだ!」
俺はリナを守ろうと手を伸ばす。しかし……。
ペガサスはリナに顔を擦り付けて懐いていた。
ズザー! パカーン!
ずっこけた俺は再び蹴り飛ばされた。
俺はそのまま馬屋へ飛ばされ、馬の餌入れに頭から突っ込んだ。
かぐわしい香りと濃厚な旨味が口に広がる。馬の餌ってこんなに旨かったのか?
近くからファブの声が聞こえてくる。
「最後のスキルは神の舌と言ってね。何でも美味しく食べられるスキルなんだ」
ああ、そうか。あのペガサスもシフォンもオスの魔獣だ……。
男を乗せたくない気持ちは理解できた。




