レオン再会
俺はリナと一緒に、王都へと出かけた。
もちろん一緒に街を歩いて観光したり、食事をしたり、会話を楽しんだり。
手を繋いだりしたい!
ああ認める! 俺はデートしたい!
しかし一緒に歩いている女性は、リナではない。
そう、魔法の仮面で顔を変えた姿。あくまでも潜入が目的なのだ。
そして名前もリイナと呼ぶことにした。
間違えてリナと呼んでしまっても、怪しまれない名だ。
うん、我ながら良いアイデアだ……。
「あの……リイナさん……」
「はっ……はい、ピグマ様……」
ぎこちない……。顔が変わっただけなのに、別の人と歩いているみたいだ……。
そもそも、前回とは顔が違う。
前の仮面も絶世の美女だったが、今回は何と言うか……女神だった。
「この仮面は美の女神ルミエラ様の顔になるんだ。ちゃんと許可も取ったから大丈夫、天罰とか無いから安心して」
ファブはこう言っていた。まるで知り合いのような言い方だ。本当は神様なんじゃないかと思ってしまう。
透き通るような白い肌に美しく流れる金髪、長いまつ毛の奥には宝石のような瞳が輝いている。そこから流れる控えめな鼻は、果実のように艷やかな唇へと目を誘う。
もう、美しすぎて輝いて見える。やりすぎだろ。
リナも鏡を見てドン引きしていたくらいだ。
「それじゃあ、冒険者ギルド本部に入りますよ……」
「はい、いただきます……」
リナは俺のイケメン顔を初めて見た時から、会話が成立しないレベルで緊張している。
「えっと、その顔で入ると、とんでもないことになるので、できるだけ顔を隠しましょう」
「はい、行ってきます……」
俺は用意していた布で口を隠す。そしてリナも同様に口を隠した。
そしてフードを被り、目だけが見える状態にした。
「行くぞリイナ」
「了解よピグマ」
顔が見えないと、お互い絶好調だ。
ドアを開き、ギルド本部へと入る。本部と言っても、ただのデカいギルドだ。
修羅ギルドとシステムは変わらない。裏でやっていること以外はな。
俺は掲示板へと近づく。そしてそこに貼られた依頼を一つずつ確認する。
リナは奥で談笑する冒険者達に聞き耳を立てている。
怪しい依頼は見つからない。しかし、その中に一際目立つ広告が貼られていた。
『トーナメント予選、パーティ人数制限4名、会場コロシアム』
「これは……」
「定期的に開催されている殲滅戦よ。トーナメントなんて名ばかりの殺し合い」
リナが小声で説明する。
「ほぼ全員が死亡している、ただの公開処刑よ」
「そんなの誰も参加しないだろう」
「知らずに参加する冒険者も稀にいる」
「そもそも人数が集まらなくて開催できないはずだ」
「そう、だから奴隷を参加させている……」
「予選で死ぬことはないわ。でも、本戦は真剣勝負よ」
「運よく助かっても、再起不能になる。長くは生きられないわ」
「これを開催しているのは……」
広告の上に、仰々しい文字で書かれている文字を見る。
『王国主催、総監、財務大臣ヘーゲラ・ファンカルト』
「恐れ入った、堂々と名前を出している」
「こういう人たちは、肩書をひけらかすのが大好きなの」
「悪いと思っていないから盛大に誇示する。だから見つけやすいわ」
「じゃあ、なぜ奴隷ギルドの黒幕はわからないんだ?」
「悪いことだと、わかっているからでしょうね」
納得だった。リナは王都での生活が長い。思うところも多かったのだろう。
他にめぼしい情報もなさそうなので、奥の酒場に向かって歩き出す。
◆◆◆
その時だった。酒場がやけに騒がしい。
「おい! 何だこの酒は、ヌルいじゃないか! もっと冷えたのをもってこい!」
ガシャーン!
ああ……この声、よく知っている。あいつだ……。
レオン、以前、俺をクビにした男だ。
俺は声のする方へ近づいてゆく。
「あうっ! 申し訳ありませんニャ……すぐに新しい物をお持ちするニャ……」
片付ける途中の皿が割れる。
首輪が付いている……。獣人の奴隷だ。
仕事が体格に合っていない。給仕をするには小さすぎる……。
「床を汚してんじゃねぇよ、この獣野郎! 俺の靴が汚れるだろうが!」
「すっ、すぐに片付けるニャ……」
「酒のほうが先に決まってんだろ!」
ドカッ!
「ふぎゃっ!」
俺は蹴られて飛んできた獣人を受け止める。
毛皮で覆われていて、見た目よりも細くて軽い。
俺はあえて怒りを隠す。怒るのは、今ではない……。
「あーっ、このスープ、毛が入ってるぅー」
派手なギャルメイクの魔法使い。ミラだ。
「酒場に獣がいるなんて、臭くて食べられなくなっちゃう」
銀髪ロングのクール美女。エリシアだ。
「……私の視界から消え失せろ」
エルフ特有の美貌と、見下すような目。シルフィアだ。
執拗なほどに冷たい視線が獣人へと向けられる。
「ニャニャッ! ごめんなさいニャ」
そう言うと、慌てて俺の手から離れ、厨房へと走り去ってしまった。
かつての初期メンバーとの再会。
しかし俺は懐かしい気分にはなれなかった。
あのころの俺も、獣人と同じような目で見られていたからだ。
そもそも、相変わらずのクズっぷりだ。
何を食ったらこんな人間に育つのだろう……。
こればかりは、きっと神様でもわからないだろう。
「ピグマ、関わっちゃダメよ」
俺の背中でリナが小さく話す。
「彼の名はレオン、ギルドでもトップクラスのパーティよ。ギルドマスターの身内だから目を付けられると厄介よ」
なるほど、納得だ。小さい頃から食事が豪華すぎたんだな……。
「よく知っているよ……。やつの名前がレオンハルトっていうのを知ってるくらいには」
俺はそのまま豪華な食事の並んだテーブルに近づいてゆく。
「でも、知らなかったよ。ギルドマスター、ヴィクトールの身内ってのまではね……」
「あん? なんか用か?」
レオンの目が俺を捉える。しかし中身がウォールドだとは知る由もない。あの頃とは、顔だけでなく体格も変わっている。
俺がレオンを見据えると、周りの女どもの目が輝き出す。
興味をむき出しにして俺を見ている。
「あの奴隷って何処で売っている?」
「何だ? ペットにでもするのか? それとも魔獣の餌か? そんなもん奴隷商に聞けよ」
「その奴隷商の元締めに会いたいんだが、何か知らないか?」
レオンの目つきが変わる。ただし、俺に対してではない。
俺の後ろにいるリナを見ている。
「……そうだな、教えてやってもいいだろう……ただし、条件がある」
まあ、何を言い出すかはわかっている。問題は、本当に知っているかどうかだ。
「後ろの女の顔を見せろ」
その言葉と同時に、俺の背後から殺気を感じる。
俺は手を横に広げ、リナを制止する。
「紹介してくれるなら、顔を見せても良い。驚くぜ、そこにいる女どもが霞むくらいの美人だ」
ここは本心だ。最も見せるだけだがな。
「ちょっとレオン、なにか言ってやってよ!」
ミラが不満そうに声を上げる。
「ふっ、レオンの目は厳しいわよ」
エリシアが冷静を装う。
「……きっと大したことないわ」
シルフィアが鼻で笑う。
「いや! 見せなくてもいい。教えてやるよ」
レオンの言葉に女どもはホッとしている。
「ただし、その女が俺のパーティに入ったならな!」
女どもの視線が、一斉にレオンに向く。
「残念だったな、他を当たるよ。じゃあな」
俺はそう言ってテーブルを後にする。
「待てよ!」
かかったな。レオンがあの宝石のような瞳を諦められるわけがない。
「俺達のパーティと勝負しないか? 討伐勝負だ」
「どっちがより強い魔物を討伐できるか勝負しようぜ」
「俺が勝ったらその女を貰う」
レオンは俺よりもリナに向かって話している。
リナは俺を見ているが、俺は片目をつぶって合図する。
「なるほど、俺が勝ったら紹介してもらえるんだな?」
「話が早いじゃねぇか」
「ダメだね。割に合わん!」
俺は少し考えるフリをする。
「……いいだろう、特別に見せてやるよ」
俺はリナに目配せをする。
リナは何も言わずに頷く。俺のことを信頼してくれている。
フードを外し、口を隠す布を取る。
そして顔をレオンに見せた。
その瞬間、酒場が静まり返った。
光り輝く美しさ。透き通るような白い肌。宝石のような瞳。
まるで、女神がそこに降臨したかのようだった。
「……う、嘘でしょ……」
ミラが呆然と呟く。自慢のギャルメイクが、安っぽく見えてしまう。
「……これは……」
エリシアの冷静な仮面が剥がれ落ちる。初めて見る動揺した表情だった。
「……あり得ない……」
シルフィアのエルフとしてのプライドが、音を立てて崩れていく。
百二十年生きてきて、これほどの美貌を見たことがないのだろう。
三人とも、自分たちの美しさに絶対の自信を持っていた。
その自信が、今、粉々に砕け散っている。
そして――レオンの反応は、もっと分かりやすかった。
レオンは完全に固まってしまっている。
口が半開きになり、瞬きすら忘れている。
うん、わかる。俺もそうなった。この顔はヤバい。本物の女神と同じ顔と言っても嘘ではないくらいの美しさだ。
しばらくして、リナは顔を隠して俺の背後に隠れた。
そして俺は、間髪入れずに言い放つ。
「勝負したければ、今すぐ名前を言え!」
「ヘーゲラ……ヘーゲラ・ファンカルトだ」
王国の財務大臣。奴が奴隷商の元締め? 思った以上にデカい魚が釣れた。
ということは、次の行動は決まった。
だがその前に……。
レオンを見ると、催眠術にでもかかったみたいに放心している。
今のうちに畳み掛けるか。
「俺が勝ったら、お前は修羅ギルドに移籍しろ!」
「ああ、わかった……。問題ない……」
即答した。本当にわかっているのか? 少し心配になる。
「おまたせしたニャ。新しいお酒、持ってきたニャ」
獣人がやって来て酒をテーブルに置く。
「ああ、ありがとう……」
普通にお礼を言っている。
さあ次は討伐勝負だ。レオンで肩慣らしと行こうか。




