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【Chaotic Earth】  作者: 音屋
8/21

【第8話 ジークフリード・オルターとクリストファー・ホワイト】

いつもご覧頂きありがとうございます。


第8話投下致します。


第9話は6月10日投下予定ですのでよろしくお願い致します。


「ウィレル、準備はできたのか?」


豪奢な赤みがかった金髪を簡単な髪飾りで纏めた男前。


歳の頃は30前後で背は高く存在感も申し分も無い。


細身に見えるが筋肉はしっかりと付いているボクサー体型である。


彼こそが新帝国皇帝、ジークフリード・オルターだ。


「オルターちゃん、準備完了よ〜」


ウィレルと呼ばれた金ピカ男は、ウインクなのだろうか?


目をパチパチとしているのだが上手く片目だけを閉じることができずに醜く顔が歪んでいた。


皇帝をオルターと呼べるのは、新帝国広しと言えどもウィレルとアレクセイのみである。


摩天楼領主であったオルターは、美都領主のアレクセイとの関係を主従ではなく客人として迎えていた。


「オルディン、奴は古き帝国の暗部そのものだ。


ウィレル、今度こそ暗黒の歴史に決着を着けるぞ!」


「は〜い、オルターちゃんも出るのよね?」


「ああ、長年我等を謀ったのだ。


私自身の手で奴に引導を渡さなければ気がすまん!


たとえ最古の筆頭重臣であろうとも、皇帝陛下の御心を操っていたなど断じて赦せぬ!」


「もう、オルターちゃんてばマジメなんだから〜」


ふざけているようなウィレルだが瞳は笑っていない。


深い哀しみだろうか。


顔には出さないがウィレルにも思うところがあるのだろう。


オルディンという人物。


彼の正体を暴き出したのは他ならぬウィレルである。


オルディンは皇帝のアルティメットコアを創り出した発案者であり、計画の責任者でもあった。


名実共に旧帝国最高幹部の一人である。


コアの力を使用せずに魔粒子から魔法を組成できる数少ない本物の魔導師でもある。


ウィレルが探り当てた情報とは、アルティメットコアが原初からの精神支配を受ける構造になっていたという事実である。


正に寝耳に水である。


長きに渡る皇帝の歴史は、オルディンの支配を受けたものであったのだ。


晩年、人が変わった様に滅びを求めた皇帝。


彼こそがオルディンの支配から脱却した本物のユーラシア皇帝である。


当時、皇帝の筆頭近衛騎士(ガーディアンナイト)であったオルターは、交友があって信頼できるウィレルに皇帝の様変わりの原因を調査して欲しいと相談を持ち掛けた。


その後、ウィレルは300年の歳月をかけて真実を暴き出す事に成功したのである。


「でも、オルディンちゃんは原初のコアでしょ?


プロトのあたし達で勝てるのかしら?」


「ヤマトとの戦いで消耗した騎士連中は敵にもなるまい。


オルディンの原初が厄介なのは確かだが、アレは不安定なコアだからな。


勝機はあるはずだ」


「不安定ってどういうことなの?」


小首を傾げても可愛くはないウィレル。


「原初は魔粒子の自然結晶そのものだ。


通常のコアの様に調整されていないから色が無い。


どんな色にも染まりどんな魔法でも使用できるのだが、特定の色に染まった時点で原初では無くなる」


「つまり無色透明な水みたいなものってことね?」


「まあ、そんなところだな」


「うーん、それが不安定なの?」


「原初はオルディンですら表面上しか制御できんのだ。


暴走させたら何が起こるか見当も付かん。


ある意味ではアルティメットより怖いモノだ」


「そんなの相手にしてどうするつもりなの?」


「私の専用魔法を忘れたのか?」


「あっ!」


「そういうことだ」


ジークフリード・オルターはプロトタイプカスパーの生体を使用している。


専用魔法はχ(カイ)とτ(タウ)。


χ(カイ)の効果は全ての停止。


範囲内では生命も運動も時間も止めてしまう禁断の停止魔法だ。


ただ、作用範囲が狭く止めていられる時間は最大で1分程度。


ジンが持つ加速の対極に位置する魔法である。


τ(タウ)は肉体と魂を分離する魔法だ。


一度分離された魂と肉体はオルターが再び結合させなければ分離したままになる。


「留守はライアンに任せる。


ウィレルは敵兵団を戦闘不能にしてくれ」


「かしこまりました」


ライアンと呼ばれた黒づくめの騎士が膝をついて畏まる。


「了解したわ。


久しぶりに最大パワーで魅了しちゃうわね♪」


こんな趣味の悪いおっさんに魅了されるとか絶対にごめんだな。


新帝国に於けるオルターの治世は非常に人気が高い。


非人道的な振る舞いを奴隷貴族の差別無しに裁くなど、ユーラシア帝国時代では考えられなかった政治を行なっている。


当然、貴族や騎士の反発は大きく、度々の衝突を繰り返し袂を分かった者達も多い。


彼等の殆どがオルディンの元へと去った。


こういった事情により旧帝国派は白王国へ、オルター率いる新時代派は新帝国へと分かれることとなった。


表面上は元帝国幹部同士として同盟という体裁を取り繕ってはいたが、本音ではいつ戦端が開かれてもおかしくはない関係である。


「今度こそオルディンに引導を渡すぞ!


ウィレル、ワルター、ロスヴァント、アルフレッド!」


【闇騎士(ダークナイト)】ライアン・リンクス


【近衛騎士(ガーディアンナイト)】ワルター・ローゼン


【聖騎士(パラディン)】ロスヴァント・ニールセン


【魔導騎士(ソーサリアン)】アルフレッド・ティンバーレイク


全員、新帝国屈指の実力者達である。




「動きおったか、オルターの小僧め」


皺の多い初老の顔。


白髪の容姿は王というより科学者といった風である。


年齢不詳で何年生きているのかすら分からない妖怪のような人物。


彼が白王クリストファー・ホワイト。


白王と呼ばれる理由は彼の本名が由来だ。


オルディンとは北欧領主としての偽名であり本名では無い。


彼が歴史に初めて登場するのは魔導暦1995年。


初代魔導コア研究所所長としてだ。


原初のコアを発見した彼は、自己の身体を実験体として魔導コアの開発に成功。


以来、様々な研究の末にアルティメットコアを完成させて帝国最高幹部の地位に上り詰めた。


「だが、儂も老いたのでな。


この戦の勝利は貴様にくれてやろう」


ニヤリと不気味な笑顔を見せるオルディン。


「オルターよ、貴様には儂の手伝いをしてもらうぞ。


クックックックックックッ」


オルディン以外誰も居ない玉座の間。


立ち上がったオルディンが何事か呟くとその姿は跡形もなく消え去った。




コツコツコツコツ…


石造りの階段を登るオルディン。


古い神殿だろうか?


あちらこちらが崩れており今にも天井が崩落しそうな雰囲気だ。


祭壇の中央では紅玉の瞳を埋め込まれた巨大な狼の石像が此方を見下ろしている。


「魔狼よ、久しいな。


もう暫くだ…」


紅い瞳を見つめ返したオルディンは両手を石像に触れた。


「原初の理りに於いて白の王が命ずる。


猫の足音・女の髭・岩の根・熊の腱・魚の息・鳥の唾液よ。


封印の理りを破棄し原初に回帰せよ!」


オルディンの両手から眩いばかりの閃光が放たれる。


光は石像を包み込んだ後、両の紅玉へと吸い込まれていった。


「これ以上は持たぬか…」


膝をついたオルディンは力の解放を中断して紅い瞳を見上げる。


「待っていろ、もうすぐ自由になれる…」


不気味な紅い光が紅玉に宿り、オルディンの顔には老獪な笑みが浮かんでいた。




数日後、戦いは新帝国が圧倒。


白王軍はさしたる抵抗もできぬままに無力化されていった。


「久しいな、オルディン!」


「小僧が生意気を言うようになったではないか?」


玉座の間で対峙する二人。


「貴様の部下は既に戦力外だ。


残るは貴様のみ!」


「小便臭い小僧に儂が負けるわけなかろう!」


「戯言を!」


《Crios stop(チェストップ)》


遊んでいる暇は無い。


オルディンの周囲を囲い停止を発動する。


「クックックックッ。


かかったなオルター!」


「何故だ!


どうして止まらない!?」


訳がわからないという体で焦るオルター。


「カスパーを作ったのは儂だぞ?


停止干渉する為には作用条件が必要なのだ。


対策もせずにそんな危険な魔法を容認するわけがなかろう?」


やはり、プロトタイプを作ったのは皇帝ではなくオルディンだったのだ。


ウィレルが危惧していた通りの結果である。


「貴様っ!


やはり陛下を!」


「今更だな、オルターよ。


皇帝はただの操り人形でしかない。


お前はそれを知ったから儂に仕掛けてきたのであろう?」


嘲笑を浮かべるオルディン。


「愚か者め。


お前は止めねばならぬモノを止めず、止めてはならぬモノを止めたのだ。


クックックックック…」


「舐めるなっ!」


《Scaradh(スカード)》


オルターの右手がオルディンへ向かって突き出される。


魂を吹き飛ばす衝撃波がオルディンを襲った。


ニヤリと嗤うオルディン。


「感謝するオルターよ。


これで儂はこの呪われた身体から離れることができるわ!」


肉体から吹き飛ばされたオルディンの幽体が満面の笑みを浮かべる。


「なんだとっ!?」


「原初の理りを以て白の王が解放する。


神々の憂いよ!


顕現せよ!


砕けよ原初!


滅せよ理り!


黄昏の時は今!」


オルディンの身体の中心から虹色の輝きが膨れあがったかと思うと玉座の間が消失した。


崩れたわけではない。


消えたのだ。


壁が、天井が、床が、玉座が。


オルターは落下することもなく虹色の空間に浮かんでいる。


眼前で起きたことが信じられぬといった顔だ。


「ご苦労であったオルターよ。


褒美にこの地はお前にくれてやる。


クックックックックック…


その目で世界を確かめてみるがいい。


儂の理想が具現化した世界をな」


「貴様…


幽体のみで魔法行使などあり得ぬ!


何をしたっ!?」


「さっき言ったであろう?


貴様は止めてはならぬモノを止めたのだ。


原初の封印を止めてくれたおかげで、原初の中に封じられていたモノを解放できたのだ。


世界は変わる。


パンドラの箱は開けられたのだ。


希望と絶望、そして新しい世界を楽しむが良い。


クックックックック…」


幽体化していたオルディンがだんだんと薄らいで消えてゆく。


「さらばだ。


また別の姿で会うこともあろう」


「おのれっ!」


悔しさに顔が歪むオルター。


オルディンが消えていった空間をいつまでも睨みつけていた…




二人が戦っていた頃のヤマトでは…


「ソラ!


聞きたいことがある!」


「そない大きい声出さんでも聞こえとるわ。


紫はんのことやろ?」


討伐ミッションを終えて居間でのんびり和菓子とお茶を楽しんでいたソラ。


そこにジンが血相を変えて詰め寄った。


「どういうことだ?


アレはどう見ても普通じゃないぞ?」


「隠してたわけやないんやけどな。


紫はんのコアは量産型プロトタイプの試作品やねん」


なんだと!?


「Mearcair(メアーコイル)にはコア開発研究所があったんやけどな。


そこに転がっとったプロトゼロってコードのコアや」


またまた爆弾発言である。


ソラの持ってる爆弾の多さには呆れるしかないな。


しかも研究所の所長は噂のオルディンだったそうだ。


衛星落下前に自領へ転移脱出したらしい。


これでデュアルコアの件についても確信が持てる。


奴はコア研究という分野で第一人者だったということだ。


プロトゼロは処理能力不足により3次元空間範囲指定ができない失敗作のようだが、自分自身の身体指定と2次元平面範囲指定はできるそうだ。


さらに、特化型プロトコアと違って汎用型に作られており様々な魔法が使用できるらしい。


こんなところにJoker(ジョーカー)があったとは予想外である。


「噂をすればやな。


紫はん、ジンが紫はんに興味あるそうやで」


おい、その言い方だとあらぬ誤解を招くのだが…


「あら、あらあらあら…」


お茶のおかわりを持ってきたであろう紫さんが顔を真っ赤にしている。


やはり誤解しているではないか。


しかも反応が妙に可愛いぞ?


「紫さん、あの魔法は一体?」


「えっ!?


あら、そのことなのですね」


紫さん紫さん、なんで残念そうなんだ?


「あの魔法は切っ尖の延長線上に10メートル程の結合分離面を作っただけなのです」


「結合分離面?」


「簡単に申しますと、なんでも切ってしまう長い剣を作る魔法ですね」


ふむ、この人もどこかネジが緩んでいるな。


「魔粒子分の厚さしかありませんので、剣と言うのもおかしな表現なのですが…」


「紫さん、他にはどんな魔法が?」


「他ですか?


粒子平面作用できるものでしたら大体はできると思います」


ぐぬぬぬぬぬ。


わからん…


「あとは自分自身に作用するものでしたら…」


「ってことはまさか自己加速も?」


「ツクヨミ様ほどではありませんが、10倍ぐらいまででしたら加速できると思います」


ちょっと何この人?


怖すぎる…


「しかも重力制御で飛行可能?」


「自分が飛ぶだけでしたら可能です」


「まさかとは思うが精神干渉は?」


「他人を指定した魔法は使えませんので精神干渉は…


とても残念なのですが」


その間は何かな紫さん。


かなり危険な匂いがする間なんだが。


「あ、でも自分にバーサークとかでしたら出来ますよ?」


やらなくて宜しい。


というかやらないでください。


「紫はんはヘヴンズフィールドも使えるんやで」


「ヘヴンズフィールド?」


「範囲指定した平面フィールド上やったらどこでも瞬間移動できるんや。


ちなみにうちは範囲指定した空間フィールドやったらどこでも瞬間移動できるねん」


出たよドヤ顔。


ソラが同系統を使えるってことはπ(パイ)系か。


「瞬間移動は転移とは違うのか?」


「全然ちゃうわっ!


転移は簡易魔法陣と移動先の座標さえあったらどこへでも飛べる。


逆に言えばや、行ったことある所か座標提供された場所にしか飛べんのと、簡易魔法陣の展開が必須なのが転移や。


瞬間移動は移動先の座標も魔法陣もいらん。


そやけど移動先が自分で展開しとるフィールド内やないとあかん。


フィールド内を魔法陣無しで自由自在に移動できるんが瞬間移動や」


なるほど、瞬間移動か。


敵に回すと相当厄介な魔法だな。


こいつはかなりの加速をかけないと瞬殺されそうな感じだ。


とりあえず、紫さんが想像以上にオーバースペックなのは理解できたので良しとしよう。


「ところで上総さんは?」


「上総は普通の上級貴族用コアのはずやで」


「いや、そうではなくて今どこで何をしてるかなんだが?」


ため息を吐くジン。


「なんやつまらん。


上総は上でバーテンやってるはずや」


つまらんとか、上総さんに失礼では?


それよりバーテンってなんだ?


「バーテンって、あのバーテン?」


「なんや、知らんかったんかいな?


この時期は週末だけ屋上のスカイガーデンでオープンバーやっとるんや」


初耳である。


「ビアガーデンみたいなもんやけど、簡単なカクテルも出しとるし結構評判ええで」


「なんで誰も教えてくれないんだ?」


「お子ちゃまだからやないか?」


「誰がお子ちゃまだ?」


「ジンちゃんが」


「アラフォーなんだが?」


「見た目お子ちゃまやししょーがないわ」


ふっ、何故か寂しい。


「行くぞソラ?」


「何処へや?」


「わかった、一人で行く」


「冗談や、冗談。


せっかくやし紫はんも行こか」


「宜しいのですか?」


「かまへんかまへん。


上総のカッコええとこ見たいやろ?」


「そそそそそそんなことはありましぇっ!」


「噛んだな」


[噛みましたね]


そういうことか。


紫さんって案外分かりやすいな。




「おや?


皆様方お揃いで。


いらっしゃいませ」


バーテン姿の上総もシブい!


シェイカーを振る動作も違和感なく綺麗な8の字を描く一段振りだ。


ついマティーニとか言ってしまいそうになる。


「皆様、何にさないますか?」


「サムライで」


「ヴァイオレットフィズをお願いします」


「村雨や」


なんて濃い注文だ。


「かしこまりました」


作れるのか!?


やっぱり侮れない上総である。


三人でのんびりと呑んでいるとアインとクリフに加えてドワーフのブレンまで参加してどんちゃん騒ぎになった。


酔った勢いでアインにひん剥かれたクリフが泣き叫び、笑い上戸なのか紫さんが派手に笑いだして収拾がつかない。


ソラはソラで火に油を注いではゲラゲラ笑っている。


もう勝手にやってくれ…




序章終了といった感じです。


9話からは世界が大きく変化します。


読んで頂けますと幸いでございます。


これまでお読み頂いた皆様、ありがとうございました。

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