【第3話 出雲 天と神皇アマテラス】
予定通り4連投で様子見します。
アマテラスより指示された転移先は、和風建築の武家屋敷といった風情の建物だった。
こちらの世界へ来てさほど時間が経ったわけでもないが、どこか懐かしさにホッとする。
こういうところはやっぱり日本人なのだと思ってしまうな。
中庭に転移したのだが何故か土蔵の入り口に大きな岩が置いてある。
まさか…な。
ジョークだと思うことにしよう。
「よくぞお越しくださいました。
それでは皆様こちらへどうぞ。
ご案内致します」
ガラガラっと開けられた土間から女中さんといった感じの方が現れ屋敷の中に案内された。
和服ってやっぱり落ち着くよな。
座敷に案内された使節団一行。
エイリスは俺の記憶から作法を学んでいたようだ。
座布団にキチンと正座して翼人達の模範となっている。
数分経っただろうか、上座に転移反応が起こり二十代後半ぐらいの絶世の美女が唐突に現れた。
艶のある黒髪ロングに吸い付きたくなるような紅い唇。
見る者を唖然とさせる程の圧倒の美貌。
「よー来たなあ。
まあ、膝崩して楽にしてや。
慣れてへんかったらしんどいやろ?」
関西弁だと!?
「セラムはんからは返礼使節やっちゅうことやったけど。
そんだけやなさそうやね」
三つ指ついて頭を下げたエイリスを見て少し訝しむように目を細めるアマテラス。
「化かし合いは好かんのや。
お前、プロトやな?」
[お初にお目にかかります。
Iúpatar管理者のジン・エイリスでございます]
「面を上げや、話しにくいわ」
[かしこまりました]
「ここでは話せへんか?」
[いえ、供の者には私が管理者だということは説明してありますので問題ありません]
「なら、うちの正体もバレとうってことでええな?」
少し長めに息を吐くと、傍に置いてあった扇子を取り出しパタパタと扇ぎ始める。
[Mearcairの管理者様でお間違えないでしょうか?]
「体はな。
うちは異世界人や。
そない言うてもわからんやろうけどな」
[やはりですね。
ジン、交代しますよ]
「いきなりかよっ!」
微妙な間を挟んだせいか、なんて切り出そうか悩む。
心の準備ぐらいさせてほしかったんだが…
「アマテラス陛下には、ラ・ピュタで楽しんでいただけたようで何よりです」
キョトンとした後、数回の瞬きを繰り返してからガッと目を見開き膝立ちになるアマテラス。
「お前、日本人か!?」
かなり衝撃を受けたようだ。
「片桐 仁だ、日本人で正解」
それを聞いて腰を落としたアマテラスは大声で笑い出す。
「アハハハハハッ。
こんなことってあるんやなあ。
うちは出雲 天。
せやからアマテラスや。
中二ちゃうからな。
勘違いすんなや?」
いや、どう見ても中二だろ。
目が泳いでるぞ。
天の岩戸がある時点で確定事項だ。
「ともかく、積もる話は後や後。
晩飯食いながら話そうや。
うちも色々と忙しゅうてな。
和食、久しぶりやろ?」
異世界で和食とか。
こいつは超楽しみである。
「天ぷらあるか?」
「おっけーや、まかしとき!」
親指立てて笑顔になるアマテラス。
ヤバい、美女の笑顔とか破壊力ありすぎだろ!
まあ、見た目は親子ほど離れてるが…
「ほな、一旦失礼するで。
また後でな〜」
アマテラスは嬉しそうに、微笑みながら転移を発動した。
その後、控え室に移った使節団はヨウカンと日本茶をいただきつつ、女中さん達と色々情報交換をする事になった。
俺はというと、露天風呂があるというのでお言葉に甘えて至高のひと時をおくっていた。
お酒は出してもらえなかったが…
火照った体に肌触りの良い浴衣を羽織り、縁側で風に当たる俺。
最高だ。
もう帰れなくてもいいかもしれない…
イヤイヤイヤイヤ!
そういうわけにもいかないだろう!
ここに来てからどうも調子が狂うな。
いかん、ウトウトする。
[こんなところで寝たら冷えてしまいます]
寝落ちしたジンとチェンジしたエイリスは控え室へと戻っていった。
寝起きのような意識が戻ってくると現実なのか夢なのか判断がつかない。
どうやらここは女風呂で女中さん達に体を洗われているようだ。
「なに!?」
[ジン、起きましたか?]
「バッ、バカな!」
「はい、泡が入るよ、ジッとして」
眼前で揺れ動くアレ。
なんの罰ゲームだ、コレは?
いや、ご褒美なのか?
大昔、大金を払ってこういったサービスを受けた記憶もあるが…って何言わせる!
まあ、大人の余裕ってやつだな。
風呂から上がった時には夕食の準備もできたようである。
そうだな、夢だったということにしよう。
それがいい、そうするべきだ!
とりあえず、幸福を運ぶてんぷらが俺を待っている!
夕食の献立は、白身魚、大葉、椎茸、ししとう、かき揚げの天ぷらに、大根おろしと湯豆腐、ほうれん草の胡麻和えに筑前煮の小鉢。
「いただきます」
「よーできとうやろ?
どうしても妥協できんでな。
試行錯誤を繰り返して和食再現したんや」
食堂に入ってくるなりドヤ顔を見せるアマテラス。
「うちはあっちで調理師やってな。
食堂で働いとってん」
美味しそうに天ぷらを頬張るソラ。
油のついた唇が妙に艶かしい。
「さてと、こっちも紹介しとこか。
チェンジや」
下を向いて目を瞑るソラ。
顔を上げると表情というものが失われて人形のようになっていた。
「Mearcairプロトタイプのアニエスです。
どうぞよろしくお願い致します」
無表情で淡々と語るアニエス。
「お知りになりたい事があればお答えさせていただきます」
食事を進めようとするアニエスだったが、どうやらソラから抗議されたらしい。
「味音痴に食わせるわけないやん。
もったいないわ」
「味音痴?」
それは初耳だ。
「待てよ?
エイリス、お前も味がわからないのか?」
[わからないということはありませんが美味しいという感覚はありません]
雑炊もちゃんと味付けされて普通に美味かったぞ?
「こいつら味もデータとして捉えるんや。
再現はできるんやけどな。
美味い不味いはわからへんねん」
そうなのか?
「ホムンクルス用の生体維持食は食ったことないか?
甘ったるいゼリーみたいなやつや」
「見たことないな。
そんなのがあるのか?」
「それ食ってれば確かに死なんけど、生きてる気せーへん」
同意である。
「人間な、美味い物食って、おもろいことやってはじめて生きとうって言うんや。
ダラダラと時間過ごすだけやったら死んだようなもんや。
せやろ?」
「ソラさん!」
俺は思わず立ち上がり、感動を伝えようとして食卓の足を蹴飛ばしてしまった。
右足の小指から悲鳴があがる。
「ぐはあっ!!」
「そないあわてんでも逃げたりせーへんわ」
呆れた風で筑前煮に箸を伸ばすソラ。
「アマテラスさんはどれくらいこの世界に?」
涙を堪えて座り直したジンは、お茶碗を手に白飯を頬張る。
「うちの時はソラでええで。
せやな、もうすぐ260年になるわ」
郷愁を感じさせる目だ。
どこか遠くを見ているような。
「長い…な。
帰ろうとは思わなかったのか?」
「最初はな、帰りたいって思ったわ。
せやけど方法が見つからん」
ため息を吐くと、湯豆腐をすくって美味そうに食べる。
「Mearcair落下のエネルギーつこうてパス繋げたろ思たんやけどな。
失敗したんや」
「失敗?」
「うちらがこっちに飛ばされたんはパスが繋がったからやっちゅうのんはしっとうな?
逆転の発想やとパスが繋がったタイミングで生体移行すれば帰れるはずなんや」
ほう、年の功と言うのだろうか?
本人に言えば地雷確定だな。
「あん時確かにパス繋げて生体移行させたんやけどな。
やり方が悪かったんか、なんでか戻れへんかったんや。
生体移行だけやったら条件成立せーへんのかもしれんわ」
記憶を一つ一つ思い出すようにゆっくりと話すソラ。
「それからは歴史通りや。
帰ることもできんと色々あがいとる」
「しかし、Mearcair堕としたのはやりすぎなんじゃ?」
苦い物でも食べたような渋い顔になるソラ。
地雷踏んじまったか?
「色々あったんは事実やけどな。
うちが来た時、この世界はほんま酷いもんやった。
皇帝、貴族、騎士、奴隷しかおらんかったんや。
平民階級が無いんや。
世界中どこ行っても奴隷しかおらん。
貴族や騎士からしたらいつでも殺して換えのきくモノでしかあらへん。
あいつらは量産型コアっちゅうもんつこうとってな、殺してもコア回収されたら新しい体で戻ってくるんや。
反乱なんて起こそうもんなら関係ないもんまで皆殺しや」
そこまで言うと、女中にお茶を持ってくるように合図する。
まさかここまでヘビーな話しになるとは思っていなかった。
「この世界の日本がどうなっとったか?
あそこはほんまこの世の地獄やったわ。
屍の山や。
どこ見ても死体しかあらへん。
極東領主に怪我させたって理由でな、民族皆殺しや。
なんとか生きとったもん集めて、2万人ぐらいは助けることができたんやけど…」
ソラは、届いたお茶を一口含むと話しを続けた。
「それでや、帰る前にこの世界少しはまともにしてやりたいなーって思ったんや。
協力者もおったし、うちが使える魔法いうんはとんでもないもんやったしな」
「とんでもないと言うと?」
「γとπとθや、わかるか?」
「γとθは、πって?」
「πは天国創造や。
θで指定された範囲を天国に作り変える魔法でな。
もちろんアルティメットやで」
かなり嬉しそうだ。
ニヤけているのが丸分かりなんだが。
「天国言うても死んだ人間が行くところちゃうで。
指定された空間を自由に作り変えるってことや。
空間内に素材さえあればなんでも造れるぶっ飛んだ創造魔法なんよ」
そいつは便利そうだな、かなり…
「Mearcairの奴隷1万人と、日本人奴隷2万人。
大型の船作って転移しながらここまで連れてきたんや。
うちの血と涙と汗の結晶やねん。
褒めたって〜な」
ウルウルした瞳で見つめられるとどうも気まずい。
「帝都には奴隷おらへんかったしな。
貴族と騎士しか住めんとこやったし。
せやけど、あそこまで被害大きくなるとは思えへんかって本気で焦ったわ〜」
いや、Mearcair落とせばそうなるよな?
アジアのほとんどが海の底になってるぞ!?
「まあ、終わった事グダグダ言っても始まらんし。
ええよね?」
いや、よくないと思うが…
言うと後が怖いな。
「まあ、終わった事だしな」
見よ!
これが本音と建前使い分ける社会人の魔法だ。
若人よ、刮目せよ!
「まあ実際、うちは世界支配なんて考えとらん。
うちらの世界と一緒や。
地域地域でコミュニティ作って、人間らしく生きれればそれでええと思うんや」
意外としっかり考えているようだ。
「セラムんとこ行ったんも、どんなつもりか気になったからや。
平和に暮らしたい言うんやったらなんの問題もあらへん。
空に放り出されたんはワロタけどな〜」
やっぱりやりやがったのか…
ソラが飛べなかったら大惨事だったな。
「場所変えよか。
あ、その前に風呂入ってくるわ。
居間で待っとって」
「ご馳走さまでした」
「お粗末さまや」
全然粗末じゃなかったがね。
ビバシュッ!
ジンは痛恨の一撃を受けた。
ジンは死んでしまった。
死んでないわっ!
だが、衝撃のあまり顔が真っ赤になっているだろう。
それほどに湯上りのソラがヤバい。
浴衣の隙間から見える肌がほのかにピンク色に染まっており、濡れた髪が精神的な凶器のように迫ってくる。
気だるげな表情がまたなんとも言えない雰囲気を醸し出していて、男ならプツッといきそうだ。
残念ながら男じゃない体なんだが…
オヤッ?
そういえば俺の体は性別無いよな。
なのにどう見てもアマテラスは女だ。
「エイリス、どういうことだ?」
[プロトタイプに性別はありませんが、生体組成時に性別情報を書き込めば見た目の性別は変更できます]
なるほど、何度も生体組成を行なっているだろうアマテラスならってことか。
「あー、サッパリしたわ〜」
喋ると残念感がハンパ無いな。
おかげで緊張しなくて助かるが。
「ジン、これからどうするつもりなん?
うちに会いに来たってことは帰りたいんやろ?」
正直、ここに来るまでは帰りたい気持ちが勝っていた。
だが、ここに来てその気持ちが薄れている。
ソラのせいだな。
自分と同じ境遇なのに、自分にも他人にも負けずに気が遠くなる程の時間を生きてきたソラ。
どうしてそんなに強くいられるのだろう。
一人きりで世界から放り出されて寂しくなかったなんて嘘だろう。
それに比べて俺はテンパってバカやって情けない。
そうだな。
帰る道を探す。
その道は変わらないが、自分にできることを探してみるか。
ソラのように。
天照とはよく言ったものだ。
ソラの照らす世界を見てみたい。
「ソラ、できるなら俺もここに居ていいか?
ソラが生きてきた世界を見てみたい」
飯も美味いし風呂もある。
そちらが本音に見えるのは気のせいということにしておいてくれ。
「うちはかまへんけど…
そっちは大丈夫なん?
ガーディアン不在になってまうで。
転移あれば問題あらへんか?」
[問題ありません]
「エイリスは大丈夫だそうだ。
これからよろしくな、ソラ」
満面の笑顔でソラが歩み寄ってくる。
「よろしくや、ジン!」
手を取ってブンブン振り回すソラ。
痛いんだが…
「ほな景気付けや、今晩は一緒に寝よか。
ついでに酒呑もうや」
このタイミングで核弾頭だと!?
子供に酒進めるって大丈夫なんか?
いかん!
焦って関西弁が移っとる!
「心配せんでもプロトには年齢なんて関係あらへん。
なんぼ呑んでも軽く酔うだけや」
コラコラコラ!
俺は見た目通りの子供じゃないんだがっ!
「ほな部屋行くで〜
団体さん送るんは明日でええやろ」
後ろからガシッと両腕を捕獲されてズルズルと引きずられていく俺。
本当に寝かしてもらえるか、神のみぞ知る。
あ、神皇ではないぞ。
そして、長い夜が始まったのである…
お読みいただきありがとうございました。




