【第2話 天空の城と翼人の国】
連投テストを兼ねて投下します。
「おぐっあ!!
おがあああああああああちゃーーーーーーんんん!!」
正解は、スカイダイビングだっ!
街への転移魔法陣と言われて乗った結果、何故か大空へ放り出された俺。
雲一つ無い青空、眼下に広がる広大な太平洋。
圧倒されるほどに美しい眺めの中、涙と泡とフリーフォール。
傍目には子供なのだが、中の俺がアラウンドフォーティかと思うとあまりにもよろしくない。
俺が幸せだったのはわずか5秒で意識を手放したことだろうか。
[ふふっ、先程のお返しです]
どうみてもSだな!
ありがとうございました!
《Éan》
発音すると同時に飛行魔法が発動する。
そういえば最後に飛んだのはいつだっただろうか?
少なくとも前生体100年の記憶には無い。
管理業務以外で部屋を出ることもほぼ無く翼人達との交流も100年は無かったはずだ。
かつて世界中を支配した魔導帝国ユーラシア。
その遺物たるガーディアンホムンクルス。
ヒューマノイド型生体の寿命は100年程度だがコアが破壊されない限り何度でも生体交換が可能だ。
エイリスのコアはコピータイプの量産型コアとは違い、プロトコアと呼ばれるカスタムメイドの特殊コアである。
ユーラシアでは星の名前を冠する主要都市にプロトコア型ガーディアンホムンクルスを配置していた。
彼等は総じてこう呼称される。
プロトタイプと。
美都、Véineas(金星)
摩天楼、Mars(火星)
天空城、Iúpatar(木星)
魔都、Satarn(土星)
現存している都市はこの4つ。
帝都Sun(太陽)は衛星城Mearcair(水星)落下の関係で跡形も無い。
[この街もしばらく見ない間に大きくなりましたね]
記憶にある翼人の街は500人程度のもの。
今は0が一つ増えていそうな感じだ。
魔導大戦後の荒廃した時代に故郷を奪われた翼人達へ一般区画を開放したのだが、彼等が同族達を受け入れたのだろう。
帝国時代は最大で1万人程住んでいたこともありキャパシティは十分だ。
「羽無しのお嬢ちゃん、どこから来たんだい?」
やはり翼の無い者は目立つみたいだ。
中年期といった感じの翼人に声をかけられてしまった。
[管理区域からですが、セラムは何処に居ますか?]
「セラムって、まさかラファト・セラム国王陛下のことかい?」
[国王陛下?]
どうやら管理区域に引きこもっている間に街の事情も大きく変化した様である。
「セラム陛下なら中央階段を上がった白い王宮に居られるが、お嬢ちゃんは何者なんだい?」
子供とはいえ国王を呼び捨てにしたのだ。
警戒されて当然だろう。
中央階段の上の白い建物なら覚えがある。
要人などを招く迎賓館だ。
[この城塞の管理者です。
教えてくださってありがとうございます]
お礼の挨拶を済まして踵を返すとさっさと中央階段へ向かう。
背後ではポカンと口を開けた翼人がこちらを見つめていた。
「これは天国への階段なのか?」
気を失っていたジンが目覚めたようだ。
[寝ボケたことを言ってないで少し大人しくしていてください。
これから古い知り合いに会いますので]
起きた途端にコレだ。
俺の扱い酷くないか?
[ちょっとした手違いがあったようで、小さな街が小さな国になったみたいです]
「…どんな手違いがあれば街が国になるんだ?」
[知りません!
それを今から聞きに行くところなのですから!]
えらくピリピリしているな。
アノ日なのか?
そんなわけないな。
「…スイマセン」
俺、なんで謝っているんだろう?
何故かいわれのない理不尽さを感じるんだが。
[ちょっと引きこもっただけで変わるものですね]
「ちょっとってどれくらい?」
[100年ぐらい?]
「100年ってちょっとか?」
[ちょっとです]
そんなおバカな会話をしている間に階段が終わり、迎賓館到着である。
玄関の両脇には若い翼人が控えており、視線だけでこちらを観察しているようだ。
怪しいよな。
それはもう。
とびきりに。
[セラム国王陛下にお取次ぎをお願い致します。
管理者が会いに来たと告げれば許されるでしょう]
怪訝な顔を浮かべながらも一人の翼人が中に入り、待つこと5分。
国王自ら側近と一緒に飛び出てくる。
若い翼人は目の前の出来事が理解できないといった風だ。
「管理者様、お久しぶりでございます!」
膝をつき畏るセラム。
それを見た側近達も慌てて真似ていた。
「そのお姿は?」
[詳しくは中で話しましょう。
宜しいでしょうか?]
「もちろんでございます。
さあ、こちらへ」
セラムは開いていた翼を折りたたむと応接間へと歩みを始める。
取り残された翼人は、信じられないものを見たという体でそのまま膝から崩れてしまった。
「管理者様、先ずは我らに安住の地をくださったこと厚く御礼申し上げる」
部屋に入るなり頭を下げるセラム。
「ありがとうございます」
傍には側近が2人控えているが、セラムが視線を切ることで退室した。
[問題ありません。
どうせ廃棄された城塞ですので、生きている者が有効に活用するべきでしょう]
「管理者様にそう仰って頂けると、住まわせてもらっている身としては恐悦至極でございます」
[セラム、エイリスと呼んでください。
その言い回しどうにかなりませんか?
昔の貴方はもっと普通に話していたでしょう?]
「若気の至りというやつでしたな。
ですが、お望みなら善処しましょう」
軽く息を吐くセラム。
「本当にお久しぶりですね。
100年ぶりでしょうか?」
以前はエネルギッシュな若者だったセラムだが、今は落ち着いた中年紳士だ。
翼人達はだいたい300年ほど生きるので人間でいうところの40歳〜50歳ぐらいだろう。
似合いもしない髭は国王としての威厳を出す為だろうか?
金髪に少し白髪が混ざり始めている髪は、背中の中央あたりで一つに束ねて流されている。
[そうなりますね]
「ところで、今日は一体どういった要件なんです?」
[手違いについて聞きにきました]
「手違い?」
まあ、その反応がデフォルトだな。
[街が国になっている手違いのことです]
少し潤ませた瞳で小首を傾げるエイリス。
どう考えても狙ってないか?
「ああ、この100年に色々あってな。
気付けば俺も陛下なんて呼ばれてる」
[NE…、いえ、私が管理区域にひき…、出なかった間に何があったのでしょうか?]
NEETって言いかけたよな?
ついでにひきこもりって言いそうになってたよな?
エイリスの奴、人間臭いにも程がある。
いや、人間臭いというかキャラ臭い?
「以前エイリスと会った後に仲間達を世界中に散らしてな。
虐げられる同族を助けたりここの存在を知らせて回ったのさ」
予想通りである。
「で、いつのまにか大所帯になってたって訳だ」
[所帯が大きくなると大黒柱が必要になって、それをセラムが押し付けられたということ?]
「正解だ」
苦笑するセラム。
[国の名は?]
「Edenだ」
飛べる者しかたどり着けない天空の城。
彼等にとっては正に楽園なのだろう。
250年ほど前、魔導大戦により絶対支配者であった帝国が失われ地上は覇権を競い合う様々な国が乱立している。
帝国により苦しめられた人々が各地で新国家を樹立した為だ。
空にあるIúpatarは廃棄されその住人の全てがMarsに移された。
帝国残党はMarsに集い、新帝国ユーラシアとして新たなる覇権を求めてその牙を研いでいる。
Satarnでは亜人奴隷達の反乱が起こり、彼等による新たなる国が起こっている。
真王国ユーラシアというらしいが紛らわしいのでやめてもらいたい。
現在は狼王と呼ばれる獣人が国王だ。
Véineasの領主はガーディアンホムンクルスであったが、Marsへ移動していた。
その結果、都市防衛機能が停止したVéineasはヤマトに陥落させられたのである。
失われた帝都はチベットのラサ付近であったので、日本を含む中央アジアから東は大地が崩壊して海となってしまった。
アフリカ、北米、南米地域は小国家乱立状態である。
ヤマトとはこちらの世界での日本のことで、Mearcairを帝都に堕とした大戦の元凶でもある。
神皇アマテラスという絶対君主が統治しているようだが、真犯人は間違いなくコイツだ。
何故分かったかというとだな、堕とす前に堕とすぞと宣言したからだ。
この250年、死んだという話が無いことから衛星城のプロトタイプではないかと推測される。
しかも神皇アマテラスって。
この中二臭さはどう見ても異世界人っぽいな。
日本に住まう者達はどこかに避難させてから堕としたという噂もある。
整理しよう。
英国島に神皇國ヤマト。
欧州に新帝国ユーラシア。
黒海周辺に真王国ユーラシア。
こんな感じの勢力図だ。
欧州中心に三つ巴である。
少なくとも100年前はそんな感じだった。
[100年前と今で大きく変わったことって?]
現状把握は大切である。
「勢力図的には大きな変化は無いが、新帝国が北欧を除く欧州全土に版図を拡げている。
ただ、エデンが大きくなり過ぎた為各国もこちらを無視できぬものになってきている様だ」
数はそれほど多くないとはいえ飛行戦力だ。
確かに不安視されてもおかしくはないな。
「うちは基本的に中立だと言い張ってはいるんだがな…
同盟だの不可侵だの申し出てくる国も多くて最近うんざりしていている」
[どう対応されているのです?]
「どうって言われてもなあ。
普通に追い返してるぜ?」
[普通、ですか?]
「ああ、空に放り出す。
普通だろ?」
[なるほど、普通ですね]
ほんとうに普通か!?
翼人にとっては普通なのか!?
自力で飛べない使者だったらどうするんだ!
「そういえばアマテラスってのは自分で来たな。
よく分からんが、ラ・ピュタだって感激して走り回ってたぜ」
…間違いなく俺と同じ世界の住人だな。
[あ、ジンのことすっかり忘れていましたね]
「どうせそんなことだろうと思っていたよ」
[セラム、突然なのですが私の中にいるもう1人がご挨拶したいと言っているのでちょっと交代しますね]
「ほう、アマテラスと同じことを言うんだな?」
サラッと爆弾投下したな、コイツ…
「はじめまして、片桐 仁と言います。
無作法で申し訳ございませんがジンと呼んでください。
セラム陛下でよろしいでしょうか?」
「セラムで構わない。
私もジンと呼ばせてもらうので言葉遣いも気にするな」
「アマテラスと同じことって、アマテラスにも二人の人間が入っていたということでしょうか?」
「入っていたのか二重人格なのかは分からんが、人格は二つだったな」
[厄介なことになりましたね。
この世界にジン以外にも異世界人がいるとは…]
「どちらがどっちなのか分からんが、お前達のような雰囲気だったぞ」
[異世界人ならジンと同じく帰還について調べているかもしれませんね]
「可能性は高いと思うぞ」
[そのアマテラスという人物に一度会った方が良さそうですね]
「引きこもってなくて良いのか?」
[私を弄っている暇があるならチェンジしてもらえますか?
頭の中で私にキスしてください]
なんだと!?
[自分の顔を思い浮かべてキスすれば良いだけです]
どんなナルシストだ!
難易度高すぎるぞ!
[鏡にキスしてもチェンジできますが?]
いや、それは…もっと難易度上がってないか?
そもそも鏡なんて…あるな。
入り口の脇に鏡がかけてある。
「どうしたんだ?
顔色が真っ青になっているぞ?」
そうか!
イメージにキスでいいなら、鏡に映った自分にキスするイメージでいいはずだな。
実際に鏡に顔付ける必要は無い!
抵抗は無駄だろうし仕方ない!
本当に仕方がないからだ!
そう、自分の子供にキスするイメージだ!
けっしてワイセツなものじゃない!
変態認定はさせん!
[セラム、アマテラスには会える?]
「エイリスか。
エデンからの交流使節だと言えば会えるんじゃないか?」
[アマテラスに聞きたい事があるから、お願いできる?]
「それは構わないが…
こちらを離れても大丈夫なのか?
管理者なのだろう?」
[自動防衛施設が動かなくなるだけだから大丈夫。
Véineasと同じ]
「そういえばそうだったな。
ここには俺達もいるし攻めて来れるようなのは居ないだろう」
空の上でもあるしな。
「使節団の名目だが、アマテラス陛下直々のご挨拶に対する返礼ということにしよう。
適当に同行する翼人と返礼品を見繕っておく」
[ありがとうございます]
「何、エイリスのおかげで今の我々がある。
気遣い無用だ」
[出立はいつ頃になりそうでしょう?]
「丸一日だな。
明日の午後あたりだと思ってほしい。
それまでは大きくなった街を楽しんでくれ」
[わかりました]
「部屋を一つ用意させよう。
今晩はそこに泊まるといい」
[食事もお願いします]
「ふふふ、抜かりは無い。
楽しみにしているといい」
[少し外を見て回りたいので失礼しますね]
「玄関まで送ろう。
先程の様な失礼があっては困るしな」
[お言葉に甘えます]
外に出ると若い翼人が敬礼をしてきた。
詳細を聞いたのだろう。
軽く会釈を返してから早足で階段を降りていった。
街では色々な店を巡ったのだが、念のために雑貨屋で手鏡を買っておいてもらった。
お金?
迎賓館を出る時にエデン通貨をセラムから貰ったのだ。
服も買おうと思ったのだが、翼人の服は背中部分が開いておりスースーして落ち着かないのでやめた。
夕食はクリームシチューをメインに木の実や野菜の前菜といった感じだ。
翼人は肉を食べないらしく、少し物足りない感があったが味付けは良かった。
食べたのはもちろんジンである。
食後にいただいた紅茶がジンの世界のものと全く同じだったので驚いたぐらいだ。
夕食後セラムに色々この世界についてレクチャーを受けた。
相談の結果、俺は今後ジン・エイリスという名前を名乗ることになる。
アマテラスにはセラムから明日の午後に伺うと連絡済みだ。
どうやらエイリスの転移魔法により一瞬で移動可能らしい。
使節団は俺を含めて5人。
どんな奴なのか気になるが、アマテラスと言うだけにかなり不安である。
そんな事を考えながら怒涛の一日を終えるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




