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【Chaotic Earth】  作者: 音屋
16/21

【第16話 ソラの時間】

いつもありがとうございます。


第16話投下致します。


第17話は8月5日0時に投下予定です。


「ソラちゃん、白衣の君来とるで〜」


中年の叔母さんの視線が店の入り口へ向けられていた。


昼時が過ぎたこの時間、店内は疎らで席は確保しやすい。


出雲食堂看板娘は、厨房の中からチラリと目線を向けた。


大阪中央区のビジネス街外れにある出雲食堂。


昼食時はいつも満員でかなり忙しい。


いつも昼時を外して食べに来る白衣の男。


たまに数人の同僚と一緒に来ることもある。


「玉子焼き紅生姜入りで」


ぶっきらぼうな物言いでいつもと変わらぬ注文をすると、いくつかのお惣菜をトレイに取って会計を済ます。


銀縁丸眼鏡の奥の目が物悲しそうに見えるのは気のせいだろうか?


ジュッとフライパンに卵と紅生姜を入れて手際よく巻いていくソラ。


「お待たせしました、玉子焼き紅生姜入りでございます」


忙しい時間帯のオーダー品はカウンターまで取りにこさせるのだが、今のような落ち着いた時間は席まで持っていくことにしている。


「いつもありがとう」


なんというか、少し照れているのか頭を掻きながら玉子焼きを受け取る男。


「こちらこそ、いつも来ていただいてありがとうございます」


1年程前だろうか?


転勤で東京から越して来たそうで、近くのワンルームマンションに住んでいるそうだ。


何故かよく目が合うので一度聞いた事がある。


仕事は誤魔化して教えてもらえなかったが、白衣から何かの薬品の匂いがするのである程度の想像はつく。


その事を言うと医者では無いよと頭を掻いていた。


「美人に見られていると食べ難いから仕事に戻ってくれ」


これもお決まりのセリフだ。


この一年に何度聞いたことか。


看板娘というだけあってソラはかなりの美人である。


長身でモデルかと思わせる雰囲気と美貌は、この店の繁盛の理由でもあるのだろう。


「おっけーや♪」


手をヒラヒラさせながら関西弁で返すのもお決まりになっている。


振り向いたソラの後ろでは、口元の弛んだ男が箸で焼きたての玉子焼きを割いていた。


そういえば、男が初めて店に来た時にソラはかなり驚いた。


見ず知らずの他人から名前を間違わずに呼ばれたのは生まれて初めてだったからだ。


名札には読み仮名は振っていない。


漢字で出雲天と書かれた名札を読まれた時にはかなり驚いた。


見た感じ三十路に見える男とはなんの接点も無かった筈。


まあ、それでも深く気にしないのがソラの良いところだ。


知り合いに同じ名前の人でも居たのかもしれない。


関西人なのに関西弁じゃないと驚かれたのが何故か印象に残っている。


サービス業たる者、接客用語ぐらいは標準語を使ってもおかしくはないのだけれど。


ソラ、26歳の春の頃の出来事だった。




「ん〜


また変な夢見てもうたな〜」


寝起きのソラは大きく手足を伸ばしてセクシーショット。


誰も見ていないと思うと油断全開である。


「叔母ちゃん元気にしとんかな?」


欠伸を済ますと鏡台へ移動するソラ。


長い髪を櫛で解く。


一体何度こうして来たのだろうか?


あの夢の後、GW休業時に石垣島へ旅行に行った。


ダイビング中に何かが足に絡まって溺れた事も覚えている。


気を失ったソラが再び目覚めた世界、それが此処だった。


Mearcair(メアーコイル)のアニエスの中で目覚めたソラ。


鏡に映る自分を見つめていると、自分であるはずの姿がどうしても自分だとは思えない。


プロトタイプのアニエスであるのだから、自分という表現がおかしいのかもしれないが。


「アニー、色々あったなあ…」


[ええ、ありましたね…


開口一番、ドコやココ!?


でしたしね]


「死んだ思てな。


ホンマ天国かと思たわ」


[天国は貴女が創るものですよ?]


「ちゃうちゃう、死んだ後の世界のことや。


つい思ってしまうねん。


現実ではうち死んでるんやないやろかって…


溺れたんは事実やしな〜」


思い出せる限りでは、大量の海水を飲んだ記憶がある。


「何の因果なんやろか?」


答えなどない事をソラは知っている。


それでも求めずにはいられない。


[因果は巡り、時間は閉じた輪の中あります。


ただそれだけが答えです]


「そんな漠然とした答えいらんわ…」


考え込むソラ。


「マッタやアニー。


時間が閉じた輪の中言うたな?


その話の根拠は?」


[時間加速の行き着く先が世界の原始だからです]


「なんやって!?」


[どれ程の輪なのか不明ですが、世界の終わりと始まりは繋がっています。


厳密に言えば球体然としたモノだと考えられるそうです。


閉じられた無数の世界が常に回転して交差している球体を想像していただければ理解しやすいかと]


無数の閉じられた世界がリングを重ねる様に交差していると?


「ほな、うちらがこっちに来たんは…」


[交差点からだと思われます。


仮に世界同士に時間的な交差点があるとすれば、交差した時間にパスを通す事で自由に行き来できるという仮説が成り立ちます]


「アニー、その情報の出処は何処や?」


かつてのアニエスが知らなかった事だ。


何処からか仕入れたに違いない。


[パイモンからです。


彼女はこういった事象の専門家のようです]


「なるほどや、ジンちゃんのお手柄っちゅうわけやな」


[彼がルシファー達を説得してくれたおかげですので]


「せやけど、これで少しは前進した気がするわ」


鏡の中のアニーに微笑みかけるソラ。


[貴女と居る事が常となっています。


帰られたら寂しくなりますね]


「心配せんでも今度はアニーも連れて帰るから問題ナッシングや」


[…………


すみませんが理解不能です。


私が其方に行けるとは思えませんが?]


感情が見えない筈のアニーに少し狼狽の色が感じられる。


これはかなりレアだ。


「ええか?


うちらが来れたんやから、アニーらが世界を移動するのも可能な筈や。


今回別世界から悪魔やら魔獣やらぎょーさんやってきたやろ?


理由はわからんけど、今までの世界と違うってことや。


だからこの世界から違う世界に移動することもできるんやないかって思うんやわ」


[しかし、私達はコアにプログラムされた擬似人格(ゴースト)でしかありません。


どうやって異世界に移動させるつもりなのですか?]


「そんなんうちが考えることちゃうし…」


出たよ丸投げ…


ソラらしいというか何というか…


「まあ、今は可能性ってことやから、方法とかはこれから探せばええんとちゃう?」


[わかりました]


まさかホムンクルスごと持っていくわけにもいくまい。


ソラならやりかねんが…


コンコンコンコン!


「アマテラス様、宜しいでしょうか?」


「上総?


かまへんから入ってええよ」


寝巻きの上から軽くガウンを羽織るソラ。


上総に失礼の無いようにだ。


「失礼致します。


取り急ぎ報告が御座いまして」


何時も通りに落ち着いてはいるのだが、どこか焦っているようにも見える。


上総にしては珍しい。


「かまへんから手短で簡潔にお願いや」


デスクの水差しからグラスに注いだ液体に口を付けるソラ。


「かしこまりました、それでは…


ドーバー海峡に巨大な氷の橋が架かり、魔狼どもが侵攻してきた由でございます」


ブーーーーーーーーーーーー!!!!!


勢いよく水を吹き出すソラ。


「まさかのこっちかいな!?


ジークのとこちゃうんかいな!?」


魔狼のクセに省エネ作戦とか笑わせる。


北海固めて直線ルートで来ると予想していた同盟諸国。


そのため戦力をDún(デュ) Éideann(エイディン)に集めていたのが仇となった様である。


「緊急通信で同盟各国へ通達や!


魔狼はドーバーを超えてVéineas(ヴェイナス)へ侵攻。


至急援軍をよーこーせーって!」


調査隊に送ったアインやクリフ達はDún(デュ) Éideann(エイディン)にに駐留している為、Véineas(ヴェイナス)は手薄なのである。


「かしこまりました。


とりあえず取り急ぎメッドウェイ川沿いに防衛線を張りますので宜しいでしょうか?」


いきなり本丸のVéineas(ヴェイナス)で防衛戦というわけにもいかないので妥当な線だと思われる。


「上総のええように!


うちはとりあえず空から様子見てくるわ!


紫はんは?」


「護衛準備させて広間で待機させております」


流石の上総。


「ほな紫はんとちょっと見てくるわ。


あと頼んだで〜」


言うや否や駆け出すソラ。


ドアを飛び出したところで自分の服装を思い出したのだろう。


照れ笑いの後、着替えるために隣室へ移動した。


そちらで軽装に着替えたソラは、紫さんを連れてドーバー方面へ飛んで行くのだった。




「なかなか予想通りとはいきませんね…」


難しい顔のライル。


「まあ、世の中なんでも思い通りになったら面白く無いしな。


今回は敵さんに一本取られたってことだな」


緊急通信を受けて緊急会議中のジン達。


「やはりライルの予想通り伏兵が居たな。


シェラン島の主力に動きが無かったので油断していた。


第一派は数的に大した事なさそうだが、本隊もドーバー向いて移動を開始したそうだ。


本隊到着まではしばらくかかるだろうが、それまでに此方も準備を整えなくてはな」


「ジン殿、少し良いか?」


「ああアザゼル、構わないので何かあれば言ってくれ」


この会議にはゲストのルシファー達も参加してもらっているのだ。


「ならば、我々には前回助けられた借りがある。


早速なのだがその借りを返させて欲しい」


その申し出は正直嬉しいのだが…


「ルシファーは構わないのか?」


「構わない。


借りたままも色々面倒だからな。


返せる時には返しておくさ」


協力者として対等であるには借りは無い方が都合が良いからな。


俺は申し出を受けてルシファー達を第一陣として援軍派遣することにした。


敵の本隊が到着するタイミングには自分も出るつもりである。


新帝国からは、駐留していたアインやクリフ達調査隊メンバーが援軍第一陣として派遣されたらしい。


あちらも敵本隊到着時には主力を回してくれる段取りになっている。


こういった点ではジークは信用できそうだ。


って事で、第一次魔狼戦争突入なのである。

いつもお読み頂きありがとうございます。


第18話投下予定の8月12日は、父親の初盆で多忙な為休載させていただきます。


誠に申し訳ございませんが、第18話は8月19日に投下予定とさせて頂きます。


よろしくお願い申し上げます。

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