第8話 初めての商談②
「ふふふ、わかっちゃう? やっぱわかっちゃうかぁ」
カサンドラのおべんちゃらに有頂天になった和樹はだらしなく顔を緩ませる。
実際は異世界ドアと言うチートで地球世界のその辺のスーパーで入手できるものをそれっぽい袋に入れて持ってきただけなのだが、それでも文明レベルの違うこの世界にとっては暗黒大陸からそこそこの量の高級品を持ってきた貿易商と見分けはつかない。
「そ、それでこの石鹸と胡椒、どれくらい量があるん? もしかしてそのけったいなリュック一杯に入っていたり!?」
「ご明察。このリュックのほとんどは石鹸と胡椒だよ」
「おひょぉぉぉおお♪」
「で、一部がこれ」
和樹の前でぴょんぴょんは寝ながら胸を揺らすカサンドラの胸を凝視しながら、和樹は最後の商品を取り出す。
ウイスキーだ。
胡椒と石鹸でこれだけの反応なのだ、ウイスキーだともっと反応があるだろうと和樹は期待する。
「……ん? 最後のこれは何や?」
「ウイスキー」
「ウイスキーかぁ、暗黒大陸にもあるんや?」
しかし、カサンドラの反応は、先ほどの胡椒と石鹸の時とは打って変わって微妙なものだった。
「(あれ?)あぁ。こっちにもあるのかい?」
「あるも何も、このニューモンの街の名産は蒸留酒やで? 近くに良質の泥炭地があってな? ちなみにこれは何年物?」
(スーパーでペットボトル入りで売ってるやつに何年物とかねーんだよなぁ)
「うーん。ブレンデットだから何年とかはないかなぁ」
「混ぜ酒かぁー……でも暗黒大陸産やしなぁ……試飲はしてもええ?」
「あぁいいよ」
そう言って和樹はテーブルにあった木製のコップにウイスキーを注ぎ、カサンドラに渡す。
「ほな……………………うーん……暗黒大陸、噂通り酒はだめなんやなぁ」
香りをかいで一口含むなり、微妙な顔でカサンドラはコップをテーブルに置く。
「そんなに?(まあ不味いことで有名なウイスキーもどきだけど)」
「商談終わったらどこかテキトーな飯屋に入ってウイスキー頼んでみ? 多分これよりは美味いで」
「そっかぁ」
「それより石鹸と胡椒や!! 今持ってきたリュックの三分の一は胡椒でもう三分の一は石鹸なんやろ!! ウチが全部買うたるさかい! ちょっと重さを計ってもええか!?」
「あぁいいよ」
「おおきに!!」
和樹が同意するとカサンドラは部屋の端にあった大きめの天秤をテーブルの上に置き、せっせと胡椒、続いて石鹸の重さをはかり始めた。
「胡椒が4キロ、石鹸が30個で2550グラムやね」
和樹に軽量結果を伝え、そのままカサンドラは腰に差していたそろばんをはじき始める。
(この世界キログラム単位なのかよ! しかもろそばんもあるし)
「ほなら胡椒が金貨5枚、石鹸が15枚でどうや!?」
カサンドラはそういうと皮袋を取り出し、テーブルの上に10円玉くらいの大きさの金貨を並べる。
「ちょっと重さを計ってもいい?」
中世だし金貨が同じ重さにそろってるとも限らないよなと踏んでいた和樹はカサンドラに確認する。
「え、えぇよ?」
「じゃあ失礼して」
カサンドラの許可が出たので、和樹は持ってきた電子計量器で和樹は金貨の重さをがかりだす。
多少のばらつきはあるものの、金貨は1枚12グラムくらいだった。
(えっとたしか金1グラムは2万円くらいだったはず)
金相場を思い出しつつ、和樹は日本円換算の計算を行う。
12グラム×20枚×2万円=480万。
これらの品々の仕入れには数万円もかかっていない。
ボロ儲けもいいところだった。
「……オーケーいいだろう。テーブルにあるその金貨で、胡椒と石鹸を譲ろう」
「ほんま!? やったぁああああっ!! 商談成立やで!!」
和樹がうなずいた瞬間、カサンドラは目にも留まらぬ速さで、テーブルの上の石鹸と胡椒を掻っ攫うように自らの大袋に詰めだす。
「ウチはこれで!! ほななー!!」
そしてまるで逃げるようにそのまま部屋から出ていった。
「…………」
静寂が戻った商談室。
テーブルの上には、商品代金の金貨20枚、そしてリュックには売れ残ったウイスキー。
「……えーっと」
「よし。とりあえず、今日は帰ってこの金貨を換金する方法を考えよう」
和樹はそのままジャージのポケットに金貨をねじ込み、商談室を出た。




