第55話 和樹の高級流浪生活①
ドバイでの目くるめくバカンスから一週間。
日本に戻った和樹の行動は有り余る現金で早速FIRE生活への準備に取り掛かった。
「まず、拠点だな。もうクソ高い家賃のマンションはポイーで」
ネットで無償譲渡案件の不動産サイトを開き、過疎地にある古屋を見繕って手早くよさげな物件を見繕う和樹。
画面には、全国各地の「あげます」物件がずらりと並んでいる。持ち主が管理しきれなくなった古い家や土地を、タダで引き取ってくれる人を探すサイトだ。
「ほー、世の中にはあるもんだな……。ええと、条件は……とりあえず古屋付きならいいか」
「タダなんか? 家がタダなんて、そんなうまい話あらへんで。絶対、裏がある」
和樹が物件を漁る中、後ろからカス子とエリーニュスが画面をのぞき込んできた。
「ところがあるんだな、これが。固定資産税が負担だとか、マンションとかだと修繕積立金が重いとかな。俺が探してるのは土地付き一軒家だから精々年間数万だけど、住まない人にはそれでも重いからな。ま、今の俺なら誤差だよ誤差」
そう言って和樹はにやける。
和樹にとってはどうせ住まない家。
それで今の十万近い家賃から年数万になるのだ。メリットしかない。
「あ、こことかいいな。長野の山の中。築六十年か」
「はえー周り森一杯でええとこやん」
「別に住むわけじゃないからな?」
そう、和樹が田舎の無償譲渡物件を入手したいのはあくまで住所の確保のため。
今の家の荷物もほとんど処分する気なので、ほぼほぼ住所描くほと車の車庫証明のためにしか使う気は無かった。
「じゃ、申し込むかな」
通販並みの気軽な手つきで和樹は譲渡希望のボタンを押す。
数日後に売主から連絡が来たので適当に探した司法書士に丸投げし、売買契約を締結。
それと同時に新古車ディーラーに乗り込み、最高級ミニバンを現金一括で購入。
半月後には、ぴかぴかのミニバンの前で、感慨深げに腕を組む和樹の姿があった。
「住所の変更も完了。今の家の家具は全部引き取りに出したし、これで高級流浪生活が開始できるぜ」
「ほー……これ、目の前の道によーけはしってるやつやんな? カズキはんも動かせるんけ?」
「こっちでは免許持ってるやつは誰でも動かせるぞ。ほら、さっそく今月滞在する温泉街に行くぞ。のったのった」
「あ、では私はご主人様の隣の席に...」
「ま、まってや! うち! うちがそこ乗る!」
「おうエリーニュスが助手席な。カス子は後ろでゆっくりすればいいんじゃね?」
「~~~~~!!」
助手席にエリーニュス、後席にカス子をのせ、和樹は車のエンジンをかける。
ゆっくりとディーラーから車道に出た車が向かうのは、熱海温泉だった。




