第54話 エリーニュスの目論見②
しかしエリーニュスが先ほどまで街ごと滅ぼす算段をしていたのは事実。
カス子は警戒心を緩めないままエリーニュスを睨む。
「そんなに睨まないでよ。もう私は無害よ? なんなら、貴女の目的に協力してもいいわよ?」
そんなカス子を面白そうに見ながら、エリーニュスは一つの提案をしてきた。
「……なんの話や」
カス子の肩が、ぴくりと震えた。
「白エルフの里にいた頃、風の噂で聞いたわよ? ダークエルフの里が、そろそろやばいかもって」
エリーニュスの言葉で部屋の空気が変わる。
ピリッと張り詰めた空気になるのを気にもせず、エリーニュスは淡々と続けた。
「ダークエルフの里は魔王軍と人類勢力の真ん中だものねぇー。いつか踏みつぶされる運命だけど、そろそろかなって感じ? まあ実際は白エルフの里が先だったわけだけど」
「……っ」
「貴女、それを何とかしたくて商人なんてやってたんでしょ? 急いで急いで、とにかく早くお金を集めて、どこでもいいから騎士の爵位さえ買えれば私たちは荒地でも森を作って生きていけるものね? ま、私たちは商売なんて慣れてないから、派手に失敗したみたいだけど」
「な、なんで、そこまで知っとるんや?」
「エフペケの館にいたとき、元商人のダークエルフの話が耳に入ったもの。あの館の連中は口が軽いわね。あとはダークエルフの里がやばいって情報と合わせてカマかけただけ」
エリーニュスは、そこで言葉を区切ると、少しだけ首をかしげた。
「仲間を助けるためか……私にはよくわからないけど、貴女にとっては大事なんでしょ?」
一方のカス子の顔からは、血の気が引いていた。
カス子は現状の認識を正しくしていた。
いま、カス子自身はひたすら和樹に媚びることによってある程度気に入られている自覚は、ある。
しかし同時に、信用はまだまだ得れていないとも思っていた。
それでも身体を重ねた可愛い美少女の願いなら聞き届けてくれるのでは?と見込んで、カズキが帰ってきたらおねだりをしようと思っていたのだ。
しかしそこに現れたのが、エリーニュス。
『エリーニュスがいるならばカス子の方は別に放逐してもいいか?』
そう和樹が考える可能性まで、カス子は行きついていた。
「貴女だけだと叶えるのが面倒そうって思われて終わりかもだけど、可愛い奴隷二人にお願いされたら叶えてくれるんじゃない?」
絶体絶命の状況にたらされた蜘蛛の糸。
そこに縋ろうかどうか悩んでいるうちに、奥から和樹が起きた音がした。
そしてすぐに寝ぼけ眼の和樹がリビングに入ってきた。
「ご主人様、お疲れではないですか? もう少し寝てらしてもよかったのに」
先ほどまでの寒気のする笑顔はどこへやら、甘ったるい声色で和樹の腕に抱き着くエリーニュス。
「か、和樹はんっ! きょうはこのあと、どーするんや!?」
エリーニュスの提案は一旦置いておいて、これ以上カズキの気を引かれてはたまらないとばかりに、もう片方の腕にカス子は抱き着いた。
「お、おお……両手に花だなぁ。うぇひひひひ」
一方の何も知らない和樹はだらしなく鼻を伸ばす。
こいつ本当に変なところで運がいいな、痛い目に早くあえ。




