第5話 ナーロッパと言えば胡椒と石鹸
「さーて、異世界に行けるとなったら、やることは一つだよな」
ナーロッパ(仮称)から帰った和樹はさっそく緻密な計画(笑)を策定し、実行に移すことにする。
「胡椒と石鹸と酒で大儲け!!」
そう、異世界貿易である。
和樹はスマホを手に取り、財布をジャージのポケットに突っ込むと、近所の大型スーパーへと向かった。
向かう先は、スパイスコーナーと日用品コーナーだ。
「ナーロッパなら、間違いなく胡椒が金と同等の価値を持つはず。だってナーロッパだから」
まったく根拠になっていない根拠をつぶやきながら、和樹はスーパーのスパイスコーナにあるミルタイプのホワイトペッパーとブラックペッパーまとめて買い物かごに放り込んでいく。
「次は……『石鹸』だな」
そのまま適当に日用品コーナーで石鹸を買い物かごに放り込み、リカーコーナーでプライベートブランドの4リットル3千円のウイスキーも調達。
「これでどれだけのリターンがあるか……ふふふ」
和樹はニヤニヤしながらスーパーを出る。
そしてその足で、今度は百円均一ショップへと向かった。
「買ってきた商品を日本語がデカデカと書かれたパッケージのまま持っていくわけにはいかないからな……」
百均で麻袋や、コルク栓のついた無地のガラス小瓶、そして石鹸を包むための茶色いクラフト紙を大量に購入する和樹。
そして帰宅後、和樹はせっせと内職作業を始めた。
胡椒の粒を小瓶や小さな麻袋に詰め替え、石鹸はパッケージから出して木箱に入れ替え、ウイスキーは無地のガラス瓶に入れ替えてコルクで蓋をする。
「おお……なんかそれっぽい。それっぽいぞ!」
二時間ほどのDIY作業を経て、和樹の目の前にはいかにも現地産っぽい交易品の山が完成していた。
その交易品をリュックサックに詰め、背負った和樹は誰に言うでもなく宣言する。
「いざ、ナーロッパ交易!」
◇
再び薄暗い路地裏に降り立った和樹は、ドアから鍵を引き抜いてステルスモードにし、意気揚々と表通りに足を進める。
「さて、まずは情報の整理と、取引先を見つけることだな」
完全に好奇心が上位になり、ファンタジー世界に来たことへの高揚感で注意力散漫な和樹。
きょろきょろとおのぼりさん感満載で看板を見ながら歩いていると目的の建物を見つけたようだ。
広場の中心にひときわ大きくて立派な石造りの建物。
建物の正面に掲げられた大きな看板には、推定異世界スキルの翻訳機能によってバッチリとこう書かれていた。
『港町ニューモン・交易ギルド』
「ここが貿易商のHouseね」
おそらく和樹のような個人の貿易商を相手にする互助組合のようなものだろう。
そう推測した和樹は、意を決してギルドの重厚な木の扉を押し開けた。
「おぉーギルドだ」
ギルドの内部は、まるで大昔の銀行の窓口と証券取引所を足して二で割ったような、熱気と活気に満ち溢れていた。
広いホールのあちこちに大きな掲示板があり、そこには様々な物資の相場らしき数字が書かれた紙が貼り出されている。
ホールの中央には長机がいくつも並べられ、商人らしき男たちが羊皮紙と羽ペンを手に、顔を突き合わせて激しい交渉を繰り広げていた。
『おい、小麦の値段がまた上がってるぞ! 帝国の北で凶作だって話はマジらしい!』
『塩だ! ノシリオ産の岩塩の在庫を持ってる奴はいないか!?』
怒号にも似た商談の声。
ツンと鼻を突くインクの匂いに汗。
その熱気に和樹は思わず息を呑んだ。
商人たちの雰囲気に気圧されつつも、和樹は物資の相場の掲示板を見る。
だが、あいにくとそこには胡椒や石鹸の相場は書いていなかった。
恐らく穀物や塩などの主要商品のみ掲示してあるのだろう。
「よし……まずは受付っぽいところで、どうやって商品を売ればいいのか聞いてみるか」
商品が満載のリュックサックを背負い直し、奥にあるカウンターの方へと歩き出そうとする和樹。
「あらお兄さん、商談相手をさがしてはるん?」
すると、不意に誰かが和樹の肩を後ろからポンと叩く。
「ん?」
振り返ると、そこにはすっごい美少女が立っていた。




