第4話 ペロッ……これはナーロッパ!
「ふぅ……よし。完全に法則は理解したぞ」
数分後。すっかり冷静さを取り戻した和樹は、路地裏で『ドアの出し入れ実験』を繰り返していた。
結果、そこそこ法則が分かってきた。
・実験結果その1:鍵をドアノブから抜くと、ドアはすぐスゥーッと消滅して右手にタトゥーが現れる。
・実験結果その2:タトゥーをフリック操作すると近くの壁に鍵とドアが再POPする。
・実験結果その3:家側でタトゥーを三本フリックすると購入時の状態(ドア無し)でPOPする。
「つまりタトゥーの状態なら散策中にドアがPOPし続けることもない。自動隠密仕様って感じか」
異世界ドア(仮称)の仕様を確認できた和樹の意識は次なる好奇心、表通りの方向に向く。
「……せっかく異世界(仮)に来たんだ。じゃあ次に行くのは町の中だよなぁ?」
ここが異世界ではなく、治安の悪いどこかの都市やクソみたいな倫理観の中世ヨーロッパだったらどうするんだという考えは和樹には浮かばなかった。
特に根拠のない、何とかなるだろうという直感に基づいて、和樹は人通りの見える、路地の先へと足を進める。
「……おぉー!」
路地を抜け、表の大通りに出た瞬間、和樹は思わず口を半開きにして立ち尽くした。
目の前を横切る大通りは、綺麗に整備された石畳で舗装されており、左右には木骨造りや石造りの西欧風の建物。
それだけなら中世ヨーロッパ風の街並みだが、そこを行きかう人が、異常だった。
筋骨隆々なでかいトカゲみたいな生物が荷馬車を引いている。
その荷馬車を引くのは尖った耳を持つエルフのような女性。
視線を移すと緑色のムキムキなおっさんが店の前で串焼き売っており、その店の前で買いたてと思われる串焼きを頬張っている二人の子供、の頭にはピコピコと動く、獣の耳。犬耳と、猫耳だ。
ふと遠くに視線をやると、大通りのずっと先、街の向こう側に、広大な青い海が広がっているのが見えた。
そこには、巨大な木造の帆船――ガレオン船のような船が何隻も停泊しており、小さい人型の生き物がカモメの代わりに空中でふわふわと浮いていた。
どうやらここは、かなり規模の大きな『港町』らしい。
「ファンタジーで、中世ヨーロッパ風で、亜人(?)がいて、港町……」
和樹は状況を脳内で整理していく。
そうしていると、和樹は一つの違和感に気づく。
『ほらほら、安いよ! 新鮮な魚だよ!』
『ちょっとアンタ、この布いくらだい?』
『おい気をつけろ、荷車が通るぞ!』
「……日本語、だ」
聞こえてくる言葉は、異世界の未知の言語ではなく、極めて流暢で自然な日本語だった。
(もしかして!)
何かを思いついた和樹は未知の両脇にある商店の看板を適当に見る。
――■■■■ボタ・クーリ魔法具店
――■■■■ヨクキーク薬局
――■■■■飯屋ゲ・ローマズ
店の看板は視界に入るなり、スマホのカメラ翻訳のような感じで現地の文字に上書きされているかのような見た目で日本語が見える。
明らかに和樹自身に何らかの干渉が入っていることは明らかだった。
中世ヨーロッパ風の世界観。
エルフやドワーフや獣人。
剣や魔法が存在しそうな雰囲気。
状況を脳内で整理し終えた和樹はふと親指をなめてひとり小声で呟いた。
「――ぺろっ……これはナーロッパ!」




