第3話 マニュアル読まない系の人種
「ドア、あるじゃん……どういうことなの??」
翌朝。
若干の二日酔いが残る和樹が起きると、そこには昨日酔っぱらって付けたドアが寝落ちする時そのままの状態で鎮座していた。
「いやいやいや……待て待て待て……マジ?」
昨日は泥酔していたから幻覚かと思ったが、一晩寝てもまだそこにある謎ドアに、和樹は現実を受け入れることにする。
あるものはあるのだ、どうしようもない。
君が付けたドアでしょ? 認知して?
和樹は恐る恐る、壁とPOPしたドアのノブに手を伸ばす。
ごくりと唾を飲み込み、ノブをゆっくりと下に回すと、ギィィィ……という鈍い音と共に、ドアが壁の向こう側に開いた。
そして空いたドアの隙間から、マンションの部屋の匂いとは全く違う、埃っぽく、石と土が混ざったような……どこか生臭い風が吹き込んできた。
「マジで……異世界のドア、なのか……?」
呟きながら、向こう見ずな若者代表であるところの和樹は好奇心が恐怖心を上回り、ドアの向こうに足を踏み入れることをにした。
玄関からいそいそと靴を取ってきて、一応、そう、一応本当に異世界だった時のために、ドアと一緒に買ったっぽい数枚のメイプルリーフ金貨を携えて。
そうしてドアの向こうに踏み込んだ和樹。
「マジかよ……」
ドアの向こうは隣の部屋……ではなくゴツゴツとした不均一な硬さ――言うなれば、乱雑に敷き詰められた石畳。
和樹は、半ば呆然としながら、ぐるりと周囲を見渡した。
左右を高い石造りの壁に挟まれた、薄暗い路地裏。
見上げれば、建物と建物の間から見える狭い空。
そして一周グルーっと回転した後には、和樹がたった今くぐり抜けてきたアンティークな扉。
時代的には合致しているのだろうが、路地裏にしてはやたら豪華な扉になってしまっているので違和感が凄い。
「……えっと、整理しよう」
和樹は自分の頬をペチペチと叩いた。痛い。夢じゃない。
酔いは完全に冷めていた。
いや、むしろ脳内麻薬がドバドバと分泌されて、視界が異様にクリアになっている。
「フリマアプリで買った胡散臭いドアノブを壁に押し当てたら、本物のドアが出現した。で、そのドアを開けたら、どこぞの石造りの路地裏に繋がっていた……と」
声に出して現状を確認してみるが、やっぱり意味が分からない。
「そういや、この鍵……どうなってんだ?」
和樹は何気なく、ドアノブに刺さったままの鍵をつまみ、ガチャリと回して――そのまま、スッと引き抜いてみた。
そして同時にスゥーっと消えていくドアと鍵。
「!?」
あとに残されたのは、薄暗い路地裏の風景だけ。
「…………は?」
和樹は、鍵を持った手を宙に浮かせたまま、完全に硬直した。
思考が停止する。
え? 消えた? ドアが?
いやいやいや、待て待て待て待て。
「ちょ、おま……嘘だろ!?」
和樹は慌てて、先ほどまでドアがあった空間を手でまさぐった。
「ドア何処!?」
そこになければないですね。
和樹は慌てふためいて辺りを見回すも、あるのは先ほどと同じ風景。
そこに元々なかったドアが消滅しているだけである。
パニックになりながら服のどこかに鍵が移転してないかと探す和樹。
すると、ほどなくして手のひらに先ほど持っていた鍵と同じようなタトゥーがあることに気が付く。
直感的にスマホのアプリを操作するかのように手のタトゥーをタップしたりスワイプしたりして見る和樹。
すると、フリック操作を行うことでタトゥーが消えてどこからともなく鍵が出てき、それと共にドアも出現することを見つける和樹。
「あ、危なかったー……」
ドアが再POPするや否や、和樹はへなへなとその場に座り込んでしまう。
なお、この鍵を抜くと手に移る仕様はドアノブと一緒に同封されていた冊子――つまりマニュアルに記載されているのだが、和樹の知るところではない。
マニュアルを読まない系の人種。それが和樹であった。
馬鹿にわかるようにマニュアルを書いてもバカは読まないというのはこういうことなのだろう。




