第43話 ドバイへのフライト
「……よし、これで憂いはなくなった」
扉をくぐり、日本の自宅マンションへと帰還する和樹。
ギルドの受付に金貨が入った袋を預けた和樹は身軽だった。
比は既に落ちており、スマホを見ると六時くらい。
成田からドバイへの直行便は深夜便なので、成田空港へ向かうにはちょうどいい時間だった。
パスポートと着替えの入ったボストンバッグ。
長距離旅行にしてはあまりにも身軽な恰好で、和樹は迎車に来た大型ミニバンの空港定額タクシーに乗り込む。
「ドバイか……。まさか俺の人生で、こんなVIPな海外旅行をする日が来るとはな」
適当にスマホをいじりつつ1時間が経つ頃には成田空港第二ターミナルへとタクシーは到着し下車すると、和樹はそのままファーストクラスのカウンターでチェックインを済ませた。
和樹が勝ったチケットはドバイ行きの直行便、しかもUAEのフラッグ・キャリアのファーストクラスである。
航空券だけで往復数ン十万円というバカ高な金額だったが、警察にマークされる前に積みあがった和樹の預金残高からすれば払えない額ではない。
「現地で換金できれば、こんなの端金だからな」
和樹の中では、既に日本の銀行口座の千数百万円と言う預金残高はつなぎ資金でしかなかった。
そしてドバイでチーレム金貨を現金にしてしまえばこっちの物。
国税に補足されないように、身分証なしの決済手段で生活する腹積もりであった。
(今のマンションは引き払ってぼろ家がタダでもらえるサイトで買った物件に住所を移せばいいだろ。これからはホテル暮らしじゃいウエッヘッヘッヘ。あとはプリペイドクレカで生活だな)
もちろんニコニコ現金払い生活なんてする気は和樹にはない。
身分証なしで購入できる使い捨てSMS付きのデータSIMとプリペイドクレジットカードを駆使してきちんとキャッシュレス生活を謳歌する計画だった。
間近に迫った目くるめくFIRE生活に目を輝かせながら保安検査場をあっさりと通り抜け、ラウンジでシャンパンとビーフステーキに舌鼓を打つ。
「シャンパンは普通だな……」
異世界貿易を開始する前の酒かす生活で微妙に酒についての舌が肥えている和樹はそんな感想を漏らすが、ラウンジのシャンパンはスパークリングワインではなく。そこそこお値段が張る1本1万円弱のシャンパンである。
贅沢をいうな(怒)。
「お、そろそろ搭乗時間か」
そうしているうちに和樹がほろ酔い状態になったところでラウンジのモニターにドバイ行便の搭乗開始を知らせる文字が躍る。
「うおっ……すげぇ……」
機内に入った和樹は、思わず感嘆の声を漏らした。
ファーストクラスの座席は……いや座席かこれ?というレベルで、完全にプライベートが保たれた半個室。
目の前にはクソデカモニター、ひじ掛けにある収納スペースには何種類もの飲み物が並び、中東系っぽいCAがふぇるかむドリンクを伺いにくる。
『【シャンパンをお願いするわ】』とネイティヴなアラビア語で返した和樹に驚きつつドリンクを用意するCAを尻目に視線を足元に移すと、謎に床までLED照明で星みたいな装飾がされている。
(さすがアラブ、金キラゴージャスだなぁ。あ、このシャンパンはうっめぇ)
CAから受け取ったシャンパンに満足しつつ、和樹はふかふかのシートに深く腰を沈めた。
「……あぁーいいねぇ、人生始まってきたわ。いやこれが俺の標準の生活だわ。戻ってきたわ」
和樹がこの生活水準にあったことは一瞬もない。たわ言である。
しかし情人では思い浮かばないような傲慢極まる順応をすぐしてしまうのが和樹の和樹たる所以だった。
キャビアの前菜をつまみ、極上のステーキを堪能し、機内のシャワーを浴びてから、フルフラットの座席で眠りにつく。
和樹は、上空1万メートルで初めてのファーストクラス長期渡航を全力で楽しんでいた。
なお、この際『カス子にもちょっとこの快適なフライトを分けてやりたかったな』などは微塵も思い浮かばない。
和樹はカス子のことをカスカスいうが、こいつはこいつでクズである。クズ樹といったところだろうか。




