第42話 カス子の預け先②
「魔法契約が切れていようが、法的には奴隷が売り渡した権利は所有者の財産だ。魔法奴隷契約で基本それを反故にできないが、なんかの理由で反故にできれば自由? そんなうまい話あるわけないだろ? 逃亡奴隷は原則として所有者の落とし物扱い、つまり物扱いに格下げになる」
「うぇ!? そんなんあるん!?」
「あー魔法に頼ってばかりじゃなくて法律でも拘束があるんですね」
「そういうこった。和樹、お前こいつが逃げたあとにエフペケんところにクレーム入れに行ったろ? で、アイツはお前の抗議はかわしつつ、きちんと逃亡奴隷としての回覧は回したわけだ。契約瑕疵がないとはいえ、そういう手続きをきちんとしないと信用にかかわるからな」
(きちんとカス子の件でも仕事はしてたんだなエフペケ)
「で、その状態でこいつがフラフラ出歩いていたらどうなると思う?」
「とっ捕まえて俺に謝礼を求める奴らが出る?」
「そういうのもあるが、ぶっ壊してもいい前提で売っぱらちまうのが一番儲かるんだなぁーこれが」
「(何その落とし物転売したら儲かるみたいなカスのライフハック)いやこれ俺の……」
抗議の声を上げる和樹を無視し、リチャードは説明を続ける。
「特にこいつは今まで騙して恨みを買ってた新人貿易商たちがここんところ血眼になって探してたからな。恨み骨髄のそいつらが紛失物としてカサンドラを確保したら、どうすると思う? まー多分外道な実験してる魔法使い行きだろうな。尊厳と言う尊厳を奪われて、鉱山での無制限娼婦が天国に思える展開になること請け合いだ」
「ひぃっ!?」
鉱山娼婦が天国に見えるとかいうハードコアエロ同人みたいな未来予想図に悲鳴を上げるカサンドラ。
「それこの街の法律的にOKなのか? こいつの所有権そのものは俺だろ?」
一方の和樹は自分が被る被害ではないので冷静にツッコミをする。
「言ったろ? 落とし物。物だって。故意に壊したとしても、慰謝料含めてお前が買った時の二割増し程度、つまり金を払えば済む話なんだよ。で、こいつを恨んでる貿易商の中には成功した奴もおおいからな。金で解決できるなら、喜んで払う連中は何人もいるな」
「うわぁ……(こいつ、そのレベルで恨まれてるのかよ)」
リチャードのナーロッパ残酷法制度よりも、カス子が予想以上にあちこちに恨みを買っていた事実の方にドン引きする和樹。
そんな和樹を面白そうに見つつ、「そもそも」と、リチャードは付け加えた。
「なんせな、カサンドラがお前に身売りする原因になった小麦相場だって、カサンドラを嵌めるためにそいつらが一致団結してカサンドラの取引に逆張りした結果だしな。こいつはそういう相場を動かせるレベルの奴の恨みも買ってるって訳さ」
「え? は!? はぁぁぁああ!?」
カス子追証の背景を暴露するリチャードに、今度はカス子が大声を上げる。
「なんなん!? つーとあれけ? うちが追証寸前になったのは運が悪かったんやなくて……」
「お前が小麦の信用取引に全財産を突っ込んだ情報を掴んだ新人貿易商らが、結託して空売りを仕掛けて、一時的に相場を凹ませたってわけだ」
「そこまでする!?」
「駆け出しの時のチーレム金貨一枚は成功した後のチーレム金貨100枚より貴重なんだよ。採算度外視でお前を嵌めたいと思うくらいの事をしてたって自覚、今回を機会にした方がいいぞ? ま、そういうわけで、回覧の撤回の手続きが済むまではカサンドラ、お前はこの街で一人でいる=死よりきつい未来って認識しといたほうがいいな」
リチャードの目は言外に『暗黒大陸に置いといたほうがいいんじゃね?』と言っていた。
リチャード的にはカス子はどうでも良いが、これ以上ニューモンの街で和樹が損をするとほかの街にとられかねないので仕事としてアドバイスしているという状態だった。
「それまで安全な方法ってないっすかね?」
(最悪日本に戻ってカス子はお留守番やむなしかなぁ)
そんなリチャードの意図を読み取りつつ、ダメ元で和樹はリチャードに聞く。
「こいつを暗黒大陸においとくのが嫌ってのは分かるが……」
「あーそうじゃなくてこの後すぐに俺一人で行かなきゃいけない商談があるんで連れて帰る時間が惜しいんですよ。9日間くらいでいいんで何とかなる方法ないです?」
「ん-……9日か。それならギルドの裏方仕事……書類整理や帳簿の計算の手伝いとして預かるならギルド内で完結するし、ギルドで預かってる奴隷をさらうアホは貿易商には居ないからなんとかなるが……仕事はしてもらうが報酬は出さんぞ?」
「そ、それでええ! きちんと働くさかい9日囲って!!」
「カス子もこういってるから俺はそれでいいです。お願いできます?」
「そうか。おーいクラリス、一週間くらい人手が増えるぞー」
「ほんとうですか!?」
和樹とカス子がOKを出した途端、リチャードはクラリスに声をかけ、仕事が軽くなる気配を察知したクラリスがすっとんんできた。
そしてそのままカス子をカウンターへと案内しだしたので、和樹はそのまま席を立つ。
「じゃあ迎えに来るまできっちり働けよカス子」
「尊厳かかっとるさかいきっちりやるで~」
「あ、ちなみに二週間以上和樹が迎えに来なかったり、きちんと働かなかったりしたらニュービーたちに引き渡すからな」
安全地帯を確保してほんわかもーどになるカス子に、リチャードは無慈悲な条件を突きつけた。
「カズキはん! ちゃんと9日後に迎えに来るの信じてるで! まっとるさかいな!? 9日目の夜は今まで以上に熱い夜にするさかい! な!?」
リチャードの無慈悲な言葉で必死に和樹にアピールするカス子を尻目に、和樹はそのままカス子を預けてギルドを後にした。




