第41話 カス子の預け先①
時は進んで1週間。ドバイ渡航日当日。
もうすぐ夕暮れという時間に和樹は動き出した。
まずは、先週一旦ナーロッパに赴いて『二か月後に前回の十倍程度の石鹸を持ち込む』と予告したメインの取引先商会に、カゴ台車二台分の石鹸を持ち込みチーレム金貨を換金。
「おお! カズキ殿! これはまた凄まじい量ですな!」
「ええ、かき集めてきましたから」
「しかし飛び石商人でこの量を輸送するのは大層ご苦労なされたでしょう?」
「えぇ、ちょっと何回もはやりたくないですね」
主にやりたくないのは石畳でカゴ台車を商会まで引いてくのが面倒なのと、日本での換金がもう出来なくなっていることが理由なのだが、和樹はしれっと苦労話のように商会長に語る。
「それではこちらが代金のチーレム金貨1145枚とナデポ銀貨14枚になります。本当に為替でなくてよいのですか?」
「えぇ、暗黒大陸の方でちょっと入用でして。ではこれで……カス子、行くぞ」
「ほなまたなー商会長はん」
適当にごまかしてカス子と共に商会を出る和樹。
取引の結果、和樹のリュックサックには、千枚以上ものチーレム金貨がずっしりと詰め込まれていた。
重量にして10キロ以上、現金換算で数億円。
これだけの純金となれば、もはやリュック一つで運ぶのも限界に近い重さである。
(重っ……! でも、これがドバイで数億円分に化けるんだからな。FIREの重みってやつだな!)
商会を出た和樹は、肩に食い込むリュックの重みに耐えながら、交易ギルドへと足を向けた。
ドバイへの渡航中、一時的にナーロッパに待機させるカス子の処遇について、案内役のリチャードにアドバイスをもらうためである。
(お、いたいた、いつもの席だな)
「リチャードさんお久です。ちょっと相談があるんだけど」
ギルドのいつもの席で昼間からエールを飲んでいるリチャードに、和樹は声をかけた。
「あん? あぁ、カズキか。随分と機嫌が良さそうじゃねえか。……ってカサンドラもいるじゃねえか。お前カズキのとこから逃げたんじゃねえのか? エフペケから回覧まわってたぞ?」
「何ゆーとるんリチャードはん、チョーっとした行き違いはあったけど、うちはカズキはんの奴隷のままやで? ずっといっしょにおってんもん、なー?」
怪訝な顔をするリチャードに対し、カス子は今までの経緯をぶんなげて和樹に媚びを売りつつリチャードにウインクをする。
「本当か?」
「まあ、そうっすね」
「なるほどな、ニューモンの街には居なかったってことか」
和樹の同意に、リチャードは何かが腑に落ちた顔をする。
「お前さんは本当に詰むかどうかの所で何とか挽回する謎の運を持ってるなあカサンドラ。お前さんを嵌めた、お前さんにぼられた元初心者貿易商たちが見たら悔しがるだろうな」
「どういうことやリチャードはん?」
「カサンドラ、お前さん自分がどれだけヤバい橋を渡ってたか理解してないみてぇだな……逃亡奴隷の扱いって知ってるか?」
「え? たまに懸賞金かかっとる逃亡奴隷がいるのはしっとるけど……ほかになにかあるんけ?」
リチャードの言わんとしていることにピンとこないカス子。
それに対し、リチャードはニヤニヤとしながら続けた。




