第38話 警察の搦手
『平素は当社買取をご利用いただき誠にありがとうございます。
佐藤様より査定のご依頼を頂いております金コインにつきまして、この度のお取引は前回よりも多くの貴金属をお送りいただいておりますため、査定部門の指摘により、追加の書類が必要となってしまいました。
当社社内規定によりお手数をおかけしてしまい申し訳ございませんが、追加で以下の書類につきましてご提出お願い申し上げます。
・貴金属の購入証明(領収書、レシート)
※贈与等で入手された場合は経緯の分かる書類(贈与契約等)
・携帯品・別送品申告書の写し
※海外でのご購入の場合
期日までにご提出いただけない場合、誠に勝手ながらお買取りを辞退させていただき、着払いにて返送させていただきます。』
和樹の悪い予感は見事に当たった。
丁寧な文面ではあるものの、要は『どうやって入手したのか分からないと買い取れないよメンゴ♪』というもの。
(購入履歴とかネーヨ! ナーロッパ産なんだぞこれ!)
和樹は舌打ちをした。
「くっそ、いいよもう!レートがいいから贔屓にしてたけどお前もう使ってやんねー買取財宝本舗!」
独り言を吐き捨てつつ、そのメールに『購入履歴は出さないからすぐ返送してくれ』と言う旨のテキストを打つ和樹。
「別の業者、どこがレート良かったかな……」
買取財宝本舗にメールを送りブラウザを立ち上げようとする和樹。
ポコン♪
ポコン♪
そんな和樹にまた追加の追い打ちが襲い掛かってくる。
『【重要】お品物の買い取りに関して追加書類ご提出のお願い』
『【重要】お品物の査定結果およびご返却についてのご連絡』
「……マジかよ」
和樹はタイミング悪く連続で来たメールの文面に絶句する。
そこに書いてあったのは買取財宝本舗と同じような文面、もう片方の買取店に至っては、『成分検査が必要なので当店の設備では買取ができない』という意味不明な文言。
オブラートに包んでいるが、明らかに何か問題が生じているのは明らかだった。
慌てて、和樹は昼間に名刺をもらった弁護士事務所の番号に電話をかけた。
『あ、佐藤さん。どうなされました?』
「先生! なんか、買取業者から一斉に購入履歴求められたり、買取拒否されたりし始めたんですけど!? これってどういうことなんでしょう!?」
『どういうメールですか? 転送できます?』
「今転送します!」
和樹は電話をつないだまま、弁護士のメールアドレスに今来たばかりの貴金属買取店たちのメールを転送する。
『……ああ、なるほど。多分回覧回りましたね』
「かいらん?」
状況が良くわかっていない和樹に対し、弁護士は警察の搦手を解説しだす。
『警察はあなたを別件逮捕や起訴に持ち込む確たる証拠は掴めていないものの、その金貨が盗品か犯罪収益か、はたまた消費税法違反かは分かりませんが違法性のあるものと認識しているのでしょう。だから貴方が最初に売った純金コインについて情報提供を求める通知を周辺を含む管轄の貴金属古物商に回したんでしょう』
「えっと、それと買取拒否や購入履歴照会に何の関連が?」
『古物商、特に貴金属を取り扱う質屋などは、警察からのそういう周知には極めて敏感ですから、買取に及び腰になるか、きちっと履歴が追える状態でないと買い取りができないという方針になったんでしょう』
「どうにかできないんですか!? こんなのおかしいじゃないですか!」
『そうは言いましても、文面を見るとあくまで貴金属店は自社の基準に則って提示をお願いしていたり、自社設備の都合での買取辞退を申し出ていますので……そこを突っ込んでもやっぱり買い取ります、とはならないかと』
「そんな……」
『あと、佐藤さんはおそらくやらないとは思いますが……履歴を捏造したりするのはダメですよ? それこそ私文書偽造などになりますので警察の逮捕の口実になってしまいます』
「そう、ですね……(くっそ! 一回だけなら大丈夫かと思ったけど無理か!)」
『お力になれず申し訳ありません』
「いえ、ありがとうございます……」
――プッ。
電話を切ると、和樹はスマホを持ったまま呆然と立ち尽くした。
日本円にして数千万円、いや、次の一回を含めれば数億円にもなるはずだった、和樹のFIRE資金。
それが、日本の古物営業法と警察の周知と言う名の圧力という、チートも魔法も通用しない分厚い現実の壁によって、完全に塞がれてしまった。




