第33話 弁護士に相談だ!
「……というわけで、昨日は警察から任意同行を求められまして」
「それは災難でしたね……」
「とりあえず黙秘して帰ってきたんですが、今後また面倒なことになったら嫌だなと思いまして、相談に伺いました」
某ターミナル駅からほど近いオフィスビルの一角にある弁護士事務所。
和樹は、応接室のソファに深々と腰掛け、対面に座るスーツ姿の弁護士に昨日の顛末を説明していた。
なお、流石にコンビニで買ったリハ着のままのカス子を同席させるのは怪しすぎるため、カス子1回の喫茶店で待機させていた。
(ま、逃げるかもだけどその時はもう知らん)
和樹はカス子のことは一旦の片隅に放り投げ、和樹は弁護士の方を見る。
「なるほど。インターネットの貴金属買取店に大量の純金コインを送り、それがマネーロンダリング等にあたるのではないかと警察から疑われた、ということですね」
我好きの相談を整理する温厚そうな雰囲気の若い弁護士は、手元のメモ帳にペンを走らせながら静かに頷いた。
「はい。でも、誓って言いますが、盗品でも何かの犯罪で得た金でもありません! 俺が正当な取引で手に入れた、俺の完全な私物なんです!」
「その『正当な取引』の具体的な内容や仕入先について、警察にはお話しにならなかったのですか?」
「言えるわけ……げふんげふん、ちょっと特殊な入手ルートでして、ほら警察の不祥事とか聞くじゃないですか。なので黙秘を貫いた感じでして」
弁護士の疑問に、和樹は苦笑いしながら誤魔化した。
和樹の返答に弁護士は少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「結論から申し上げますと、あくまで法的な解釈の話になりますが、佐藤さんが『正当な取引』で入手されたその純金コインが盗品でも犯罪収益でも密輸でもない、つまり『警察が違法性を立証する客観的な証拠を絶対に見つけられない』というのであれば、警察はあなたを起訴することはできません」
「おっ! やっぱり!」
「警察もそれは分かっていますので容疑者の供述などの矛盾を突いて、そのほころびから証拠を固めるなどの手段を取りますね」
弁護士の補足情報に和樹は膝を叩いた。
やっぱりあの任意聴取の『経路が分かっている』というのははったりだったわけだ。
「逮捕令状を請求するにしても、それなりの疎明資料、つまり犯罪を疑うに足ると類推できるものが必要です。例えば直近の盗難事件で盗まれた金と成分の一部が一致している、海外からの輸送履歴と一致する、渡航歴と売却時期が一致するなどですね。失礼ですが最近海外に渡航などは?」
「生まれてこの方海外とか言ったことないです。パスポートは持ってるんですけど」
「と、すると警察は、裁判所から令状を取得するのはほぼ無理ですね。したがって、現時点では過度に恐れる必要はありません」
「ですよねー! いやぁ、安心しました!」
「しかし、です」
ほっと胸をなでおろす和樹に、弁護士は今度は釘を刺し始める。
「しかし、なんですか?」
「これはあくまで和樹さんのおっしゃることが事実だった場合の話です。また、佐藤さんが今後も継続して、大量の出処不明の金貨を換金し続けるつもりでも、話は別です」
弁護士は机の上に両手を組み、和樹を見据えた。
「古物営業法や犯罪収益移転防止法により、買取業者には本人確認や取引記録の保存、そして『疑わしい取引』の行政庁への届出義務があります。今回、警察が動いたのも業者の届出が発端でしょうな」
(買取財宝本舗!! 裏切ったのか!?)
裏切ったも何も貴金属買取業者の正当な自衛策である。
「今後も同じような取引を繰り返せば、業者は間違いなく即座に通報するでしょう。
そして警察も、内偵捜査を本格化させる可能性があります」
「な、内偵捜査……」
弁護士の口から出た物々しい擁護に和樹は息をのむ。
「たとえば張り込み、尾行、交友関係の洗出し。そして、何か少しでも法に触れる部分があれば容赦なく逮捕と家宅捜索に踏み切るでしょう。別件逮捕と言えば分かりやすいですか?」
「別件逮捕!? いやいや、俺は超絶善良な一般市民ですよ!?」
「善良かどうかは関係ありません。警察とはそういう組織と思ってください」
「そんな……で、でも売ったものが正当なもので、海外からの密輸でなければ起訴まではされないですよね?」
「まあ、そうですが……海外の渡航などを行うのであれば、それが証拠として採用された例もあります」
「そんな……」
「もしまだ金を保有されているのであれば、一括でまとめて売ってしまうくらいしか現状では方法はありませんね」
その後、もし逮捕された場合などに備えたこの弁護士事務所の連絡先や、深夜早朝などに逮捕された時には当番弁護士という物を呼ぶようになどのアドバイスを受けた後、和樹は弁護士事務所を後にした。




