第25話 警察「きちゃった❤」
「おーだーめいど♪ おーダメイドぉ~~♪ 俺、専用の清楚系美少女エルフ~~♪」
鼻歌交じりに日本の自宅マンションに帰還した和樹。
時刻は夜。カス子に逃亡された時の怒髪天な気分は霧散し、新しい奴隷への期待で胸と股間をパンパンに膨らませていた。
「いやー、数週間後が楽しみすぎる。……おっと、そうだ忘れるところだった」
和樹は自分の手の甲に浮かび上がっているタトゥーを見つめた。
ナーロッパでは、看板の文字が日本語に変換されて見えたり、現地の言葉が流暢な日本語として聞こえたりするというご都合主義的翻訳が発生していた。
そこで和樹はこう思ったのだ。
(これ、日本側でも使えるんじゃね?)
そのため日本に帰還したら実験をしようと思っていたのだった。
(えーとスマホスマホ……)
和樹は放り投げていたスマホを取ると、ブラウザで適当に英語サイトのページを見る。
(おぉ! 翻訳機能を使ってないのに、読める、読めるぞ! 日本語で!)
和樹の目の前には、雑に上書きされるような見た目で、異世界と同じように英語ページが翻訳されていた。
「そういやこれって、しゃべるのはできるのか?」
気になった和樹は、追加の検証してみることにした。
和樹は一旦スマホをテーブルに置くとパソコンを立ち上げ、以前フリマアプリで売ろうとしてやっぱりやめたVRゴーグルを引っ張り出し、グローバルなコミュニティが広がる『VRチャット』にダイブしてみる。
『Fu[bleep]k! Fu[bleep]k!?【やあ、ご機嫌いかが?】』
適当な海外サーバーのワールドに入り、目の前にいた外国人らしきアバターに話しかけてみた。
『Fu[bleep]k? Fu[bleep]k!【んあ? おはん、南部訛りツェぇな? 同郷でごわすか?】』
話しかけた美少女アバターから、野太い声でなぜかエセ薩摩弁みたいな返答が返ってきた。
「……おおおおお!?」
エセ薩摩弁なのは置いておいて、一応日本語に変換されたと言う事実に驚く和樹。
逆に、和樹が発した言葉も相手には母国語(しかも話しかけた相手と同じ訛り)として伝わっているらしい。
その後、この南部住みのアメリカ人(薩摩弁翻訳)と話しながら色々実験をしたところ、翻訳のルールのようなものも見えてきた。
「なるほどな!あの異世界ドアの鍵を持っている状態なら機能するわけか」
タトゥーの状態でも、物理鍵の状態でも鍵に触れていれば翻訳は機能する。
だが扉やドアノブに触れていても特に翻訳は機能せず、また鍵が目の前にあっても触れていないければ翻訳は機能しないようだった。
「てことは基本鍵はタトゥー状態にしておいたほうが便利だな?」
これはとんでもない発見だった。
異世界貿易で億万長者になってFIREした後は、この翻訳機能さえあれば通訳なしで世界中を飛び回り、遊び歩くことができるのではないか。
「便利度で言えば、金稼ぎよりこの翻訳機能の方が一番すごくないか……!?」
付属品の意外な付加価値に気づいた和樹はテンションが上がる。
『Fu[bleep]k?【どうしましたのカズキ?】』
『Fu[bleep]k【いえ、ちょっと仕事の利益が確定したんですの】』
『Fu[bleep]k?【あぁそれは固まるのも無理はありませんわね】』
マイクを外してカズキがしばらく沈黙していたせいか、途中で会話に入ってきた自称ドバイ出身の猫耳アバター(阿◻︎寛Voice)がお嬢様言葉で和樹を覗き込んでくる。
異世界翻訳スキルによって何語でも喋ることが可能な和樹の元にはい、つの間にかいろんな国のユーザーが集まって万国井戸端会議みたいな様相になっていた。
そんな状態にテンションの上がった和樹は、夜通しVRチャットにのめり込み……。
気づけば、二徹した挙句、朝になっていた。
☆
「うっ……頭痛ぇ……気持ち悪っ……」
徹夜明けの朝。
和樹は二日酔いでズキズキと割れるように痛む頭を抱えながら、フラフラとマンションのエントランスを出る。
日差しがしょぼしょぼの和樹の視界に刺さり一歩歩くごとにHPが削られる。
「良い酒は酔わないって嘘じゃん……。めちゃ頭痛いんだけど?」
飲み過ぎれば良い酒だろうと二日酔いになるのは当たり前だ。
和樹はそのまま近くのコンビニで朝食用のサンドイッチとウコン入りの二日酔い薬を買うと、そのまま来た道を戻る。
「ん?」
そうして頭を抱えながら歩いていると、前方から歩いてきたスーツ姿の中年男性が、和樹の進路を塞ぐように立ち止まった。
すっ。
すっ。
道を譲ろうとした和樹に対し、男も同じように動き和樹が通り過ぎるのを妨害する。
「?」
「佐藤和樹さんですね?」
怪訝な顔をする和樹にその男性は和樹のフルネームをよび、
「え?」
「浅草警察署の者ですが。少しよろしいですか?」
縦開きの手帖を見せてきた。
「……へ?警察……?」
近くで殺人事件でもあったのかな?などと考える和樹に対し、私服警官の男性は本題を切り出した。
「先日、あなたがインターネット上の複数の貴金属買取店に送った、大量の純金コインについて、お伺いしたいことがありましてね」
「――ッ!?」
和樹の心臓が、ドクンと跳ねた。
「端的に言いますと、犯罪収益移転防止法の関係で確認をしたく……あぁ、あくまで、確認、ですよ?」
(チーレム金貨!)
カス子と帰還した後、速攻で売りに出した数千万円相当の純金。
貴金買取業者というのは法令上は古物商というものに該当し、古物商法というもので警察の管理下に置かれている。
その主な目的は盗品等の防止だが、もう一つの大きな目的として、犯罪収益の移転防止というものもあった。
そしてその犯罪収益の移転によく使われるもの、それが金である。
冷静に考えれば、突然数千万円もの謎の純金コインを何度も換金しようとすれば、マネーロンダリングや盗品売買を疑われて古物商経由で警察に通報されるのは当然のことであった。
「立ち話も何ですから、署までご同行願えませんか? ……あくまで任意ですが」
任意とはいうものの、私服警官の言葉は「拒否権などない」という強い圧を伴っていた。




