第17話 自分を売る女(直球)②
そうしてカサンドラにエスコートされるがまま、奴隷商館の重厚なドアをくぐる和樹。
奴隷という高単価商品、しかも鉱山奴隷などの一山いくらの奴隷ではなく、容姿の整った『そういう』奴隷を取り扱う商館だからか、石鹸の取引をした商館に引けを取らない煌びやかな内装をしていた。
その中にいる一人の男にカサンドラは声をかけた。
「エフペケはんにつないでくれはる?」
「お客様のお名前とご用件をお伺いしても?」
「カサンドラや。追加証拠金を持ってきたって伝えてや」
「少々お待ちを……こちらへ」
カサンドラに声をかけられた事務担当と思われる男は戸棚から本を取り出してぺらぺらとめくると、一瞬だけ眉間をピクリと動かしたかと思うと、そのままカサンドラと和樹を個室の方に案内する。
そして、男が部屋から出ていったと同時に、カサンドラはすらすらとテーブルに備え付けてあった紙とペンで何かを書き始めた。
――奴隷契約内容
・契約額:チーレム金貨200枚
・期間:20年
・貞操権(一般性癖範囲)
・妊娠権
・私有財産保有可能
(ほ、本当にあの内容だ!!)
カサンドラが書いているのは、これからカサンドラが受け入れる奴隷契約の内容だった。
同時翻訳で内容が目に入って来、実感がわいてきた和樹は生唾を飲む。
「あ、カズキはん、もうチーレム金貨出してもろてもええ?」
「お、おう」
そして、カサンドラに促されて、リュックの中から金貨を100枚ずつに分けて入れた袋を二つ取り出す和樹。
「よかった……ホンマにあった」
その中身を確認し、数枚の金貨を追加して太ももの上にそっと袋を置いてカサンドラがほっと一息を着いたところでドアがノックされ、一人の初老の女性が入ってきた。
「あ! エフペケさん! ごきげんろよしゅうよって!」
「……カサンドラ、証拠金を持ってきたって言ってたけど、本当かい?」
「ほんまやでエフペケさん!」
「昨日みたいに、一部だけじゃあだめだよ? 全額じゃないとだめってのは分かってるかい?」
「あんだけ粘ってもけんもほろろやってん、理解しとるで! ここに至ってはうちも腹を括った!」
「奴隷契約までは覚悟したって? でもアンタ程度――」
「――はい金貨204枚!」
ドサッ! バンッ!
エフペケの言葉を遮るようにカサンドラはテーブルの上に金貨袋とともに先ほど書いていた契約内容を乗っける。
「ほーん。じゃあ早速数えさせるよ」
「えぇで! ちゃぁんと数えてや!」
「紙も一緒に出したってことは、奴隷契約もここでやるのかい? チーレム金貨1枚だよ」
「せやからチーレム金貨を1枚足しとるやろ? 一緒に頼むで!」
エフペケはチェック係りの人と思われる、受付でカサンドラが声をかけた男を呼び出し、その場で数えさせつつ、カサンドラが先ほどまで書いていた書類の内容を確認する。
「ずいぶんなお大尽様を捕まえてきたみたいだねぇアンタ」
一通り書類の内容を見終わり、何やら魔法陣が書かれたでかい印鑑のようなものを押しつつそう言うエフペケ。
「エフペケ様、確かにチーレム金貨204枚ありました」
「そうかい」
「これでウチの『鉱山娼婦ルート』はなしよな!? 借金完済や! な!?」
(ん? 鉱山娼婦?)
何やら不穏なワードが出たことで怪訝な顔をする和樹をよそに、カサンドラとエフペケの会話は進む。
「……明日の朝には地下鉱山の男たちの慰み者として送られるものとばかり思ってたが。本当に悪運だけは強い女だよ」
「ほな証拠金債務書の魔法印の無効化はよ! あれあるだけでほんまおちつかんねん!」
「あぁわかったよ。ここに書類はある」
カサンドラに催促され、椅子の脇に置いたカバンから一枚の紙を取り出すエフペケ。
――信用取引証拠金債務強制執行書
・証拠金請求額:203枚
※上記債務を履行しない場合、以下の奴隷契約を執行する。
・期間:300年
・貞操権(無制限)
・性交ノルマ1日5件未達時四肢切断執行
・妊娠堕胎権
・私有財産保有不可
(えっぐ!)
そこには和樹に提示した条件をはるかに上回る過酷な条件が記載されていた。
えぐすぎて和樹の脳裏に浮かんでいた『あれ? もしかして最初100枚利幅取ろうとしてたこいつ?』と言う気づきが吹っ飛んでいった。
「じゃあとりあえず先にお前さんが書いた書類にサインしな。そこの旦那もこいつの隣にサインね」
「はいはい~~! ほら、カズキはんも早く!」
「あ、あぁ」
あまりの内容にドン引きしていたせいで反論も出てこず、カサンドラが書いた奴隷契約書にサインをする和樹。
「はいよ。これでお前さんは自分で持ってきた奴隷契約の成立と、その代金を証拠金に充当したことで破産に伴う奴隷契約は取り消しとなったよ。原本はこっちで保管しとくかい?」
「あ、はい。お願いします」
よくわからないが魔法的なあれを維持する必要があるのかな?と思った和樹はそのまま促されるまま同意する。
そして奴隷となったカサンドラは、
「やったー!!! 間に合ったぁーー!!!」
立ち上がって歓喜の顔を浮かべていた。
「えっと、カサンドラ?」
「いやーカズキはんとの取引でまとまった元手ができたから、信用取引で突っ込めるだけ突っ込んだらえらい目に合ってなー」
「信用取引……」
「絶対固い小麦相場やってんホンマになんでやってな。カズキはん買うてもらえへんかったら高額破産やしこの通り美少女やろ? 鉱山でハードプレイ含めNGなし娼婦として300年ルートやってん! いやぁ九死に一生! カズキはんは命の恩人や!」
つまり、和樹はカサンドラの信用取引ロスカットで生じた追証金のほぼ全額を弁済し、元々の条件よりもずっと穏当な条件で奴隷としてカサンドラを買ったということだった。




