第14話 詳しく話を聞こうか(前のめり
リチャードに連れられて前回カサンドラにボられたのと同じ個室に入る和樹。
バンッ!
「はい!情報料です!!! さあ! 今すぐ詳しい話を教えてもらいましょうかリチャードさん! ハリーハリー!! 今すぐに!」
部屋に入るなり、和樹は流れるようなしぐさで椅子に座ると、ジャージのポケットから取り出したナデポ銀貨をすべてテーブルにぶちまけてから、テーブルの上で手を組んで前のめりでリチャードに催促をする。
その鼻息は荒く、完全に性欲にのまれた童貞の姿がそこにはあった。
「……はいはい、そんなに焦らなくても奴隷ってのはそうそう頻繁に売り切れるもんじゃねえよ。落ち着け?」
「俺好みのロリ顔銀髪巨乳美少女が売り切れたら責任取ってくれるんですか!?」
「お前育ちが良いのか悪いのかよくわからねえ奴だな……」
恐らく初見の行動や(この世界の)世間知らずっぷりからそれなりにいいところのお坊ちゃんとあたりをつけていたであろうリチャードは微妙に困惑しつつ、和樹がテーブルにぶちまけた銀貨のうち三枚だけを指でつまんで腰の皮袋に仕舞う。
「情報料としてはこれで十分だ」
「情報料が足り無かったとか言って俺の銀髪ロリ巨乳ねこみみ美少女を紹介できる店がないとか言ったら俺キレますよ」
「属性増えてねぇか? 安心しろ、亜人はそんなに人気はねえからどこの店でも手に入る」
「そうなんです?」
「俺は新人の案内人つったろ? お前みたいな町にとって金づるになる商人を、わざわざ奴隷売買程度で騙したりしねぇよ」
「まあ、ならいいですけど」
「……さて、何から話したもんかね」
「もちろん、そのえっちな……じゃなかった、この大陸の奴隷制度の詳細についてですよ! えっちなことは本当にでき……いや信頼できる奴隷の確保とかができるのかがですね!」
「部屋に入った途端駄々洩れな欲望垂れ流しておいて、今更取り繕おうとするとかお前の頭どうなってんの?」
「おとこのこですんで!」
「話が進まねぇし気持ち悪ぃから脳みそから性欲を少し抑えろ」
「うす」
「さて、じゃあまず前提からだがな」
性欲の前に感情と理性がバグってる和樹に対しツッコミを入れつつ、リチャードは足を組んで面白そうにニヤニヤと笑いながら語り始めた。
「このナーロッパ大陸における奴隷の基本は『債務奴隷』だ。犯罪奴隷なんかもいるが、それを含めて債務に対しての義務として奴隷契約がかかっている。基本は市場に出回る大半は借金が返せなくなって身売りしたか、親の借金のカタに売られた連中だな」
「なるほど」
(ふむふむ。つまりは借金のカタに売られた没落貴族のお嬢様とか、貧村のエルフとかそういうのか。優しくして惚れられるパターンだな!)
和樹の脳内ではすでに、薄幸の美少女が鎖に繋がれて涙ぐんでいるところにナデポとニコポをきめて「キャー素敵! なんて優しい人! 抱いて!」という展開が組まれていた。
もちろん『清楚系で処女だが和樹にだけはぐいぐい来る肉食系』という、『清楚系AV女優』のような矛盾だらけの設定付きだ。
「で、奴隷は購入する際に『魔法奴隷契約』ってのを使って、主人の隷属下に置かれる仕組みになってる」
「魔法奴隷契約……逃げたり逆らったりできないってやつですね?」
名前から何となくあたりをつけた和樹に対し、リチャードは頷く。
「あぁ、その通りだ。主人の命令には基本は絶対服従。危害を加えることもできなくなる。ただし、何でもかんでも無限にかけられるって訳じゃねえ」
「生殺与奪は全部主人のものって感じじゃないんですか?」
「どんな重罪犯の奴隷を想定してんだおめぇ!? んなわけねえだろ!?」
和樹のあんまりにも倫理観の無い奴隷概念に思わずツッコミを入れつつ、リチャードは続ける。
「債務奴隷つったろ。いわゆる本来人間が持つ権利を売り払って債務を返すってのが債務奴隷の基本的な仕組みなんだよ。例えば労役とかな。そういう権利の集合体と期間を掛け合わせて魔法奴隷契約を行うのが債務奴隷って仕組みなんだよ」
「なるほど……」
(ナーロッパのくせに中世の奴隷よりずっと倫理的じゃん。もうちょっと倫理観無くても良かったのに)
現代人にもかかわらず倫理観がない感想を抱く和樹。
(テンプレのファンタジー中世な無法地帯の奴隷というよりは、魔法で縛られた超ブラックな年季奉公に近いのかもしれないな)
無法地帯なのは和樹の脳内である。
「案外しっかりした制度なんですね。てっきり『奴隷は人にあらず! 物だ!』みたいなノリだと思ってました」
「お前、ナーロッパ大陸を何だと思ってるんだ?」
「だって奴隷って言うから……」
「まあ一定額以上の負債を抱えた破産者とかは、自分で権利の切り売り範囲を選べなかったりするが、そうじゃない場合は権利の切り売りも奴隷になるときの意志ありきだ」
「そうそうそういうの! やっぱり主人に害を加えようとすると首輪が爆発するとかそういうのあるんです!?」
「牢屋に入ってるわけでもねえのに何で首輪つけるんだよ。ってか、お前がいた地域の倫理観どうなってんの?」
和樹の倫理観が特段終わってるだけなので一緒にしないでほしい。
「奴隷制があるナーロッパがそれ言います?」
「……とにかく、そういう権利の切り売りがナーロッパの奴隷だ。続けていいか?」
「うっす」
「で、そういうもろもろの制約だが当然ながら同じ権利でも値段の高い低いはある。例えば魔法使いとかの『仕事の価値が高い物』は当然ながら労働の価値が高くなるから同じ一年でも高い金額をつけられる。あとは――」
そこでリチャードは言葉を区切り、和樹の顔を覗き込むようにしてニヤリと唇を吊り上げた。
「容姿の良い女の場合は、貞操権――つまり『性的奉仕』を契約条件に入れることが多い」
「――ッ!!(ガタッ)」
性的奉仕というリチャードの言葉に和樹は思わず椅子から腰を浮かせた。
「話が進まねぇから座れ」
「うっす」
「娼婦は原初の職業って言うだろ? そういうこった。そして魔法奴隷契約は拒否はできねえ。命令を拒否しようとしたら余計勝手に身体が動くんだとよ」
(催眠モノみたいだな奴隷契約魔法。まあエロ漫画とかでよくある催眠もファンタジーちゃファンタジーだけど)
「す、素晴らしい……なんてすばらしい仕組みシステムなんだ……っ!」
「おいおい、よだれ垂れそうになってるぞ。……で、ここに容姿のいい女を確保することに定評のある奴隷商会への紹介状がある。今ならお前の商品を高値で買ってくれるだろう化粧品に強い商会の紹介状とセットで売ってやる」
「買います!!」
「まいど。銀貨3枚な」
和樹の即答を受け、リチャードはテーブルの上からさらに銀貨を3枚とり、代わりに和樹に2通の紹介状を渡す。
一方の和樹の脳内は既にどんな美処女奴隷が商館に居るかで頭がいっぱいだった。




