第12話 いざ、二度目の異世界交易
意気揚々と、和樹は軽い足取りでナーロッパの裏路地に降り立つ。
そして、三度目にして慣れだした異世界ドアの仕様に基づき、ドアから鍵を抜き取ってタトゥー化すると、石鹸がぎっしり詰まった重いキャリーワゴンのハンドルを持ち直して表通りへと歩み出た。
「ん? ちょっと涼しくなった?」
前回来た時は気にならなかった気温の差に和樹は気づく。
日本は今6月。暑かったり急に気温が下がったりの乱高下をする季節だが、ナーロッパの気温は涼しかった。
(まあ、異世界なんだしそういうこともあるか)
別に日本と同じような気温で連動してるわけでもないだろうしな、と考え直した和樹はそのまま前回訪れてボられた交易ギルドへと足を運んだ。
そしてギルドの重厚な扉を開け、和樹はキョロキョロとホールを見渡すと、見覚えのあるガラの悪いおっさん――案内役のリチャードの姿を探す。
「お、いたいた」
前回と同じようなテーブル席で真昼間からビールを煽りながら飲んだくれてるリチャード。
そんなリチャードを見つけた和樹は、意気揚々と近づいていった。
理由は簡単。
ギルド公認の優良商館は基本的に一見さんお断りらしく、紹介人が必要とのことだった。
そして和樹が『よさそうだなここ』と目星をつけた商会は代々は指定紹介人にリチャードの名前があったのだ。
つまり、リチャードはそういう世話役をすることによって収入を得ている人物らしかった。
「リチャードさん!」
「んあ? なんだぁ…………あー、あぁ! カサンドラにぼられたカズキじゃねえか!」
「その節はお世話になりました」
「今回はずいぶんと気合入ってるじゃねえか。そのちっちゃい荷車みたいのなんだ? 便利そうだな」
「いやー、また仕入れてきましてね。あ、これも暗黒大陸産です」
「おーそれはご苦労なこって。しっかし、あんだけボられたからもうニューモンの街には来ねえかと思ってたが……意外だなぁ」
「いや、買った冊子の商会での取引まだ試してないですもん。来ますよ」
「あー……? あぁ、そういえば買ってたか。でもほかの街でも取引したんだろ? わざわざここに来る必要あったのか?」
「……? いや、別にほかの街には行ってないですけど?」
「あぁん? じゃあお前、往復に二か月もかかんのか!? 普通の飛び石商人の倍じゃねえか! 沿岸部のドンイから仕入れてると思ってたが、結構内陸から仕入れてんのか?」
「二か月?」
「この前ぼられたのがちょうど二か月前だろ? ショック過ぎて時間の感覚忘れたのかお前?」
キョトンとする和樹に、リチャードは怪訝な顔をしながら突っ込む。
「あーそうですね……何せ初取引であれだったもんで」
(もしかして日本とナーロッパで時間の進み方が違うのか?)
そんなリチャードに適当に返しつつ、和樹は内心で先ほどの気温の違和感の正体にあたりをつける。
日本も乱高下する気温とはいえなんとなくヨーロッパっぽい雰囲気を感じるこのナーロッパ大陸で急に気温が下がるのは違和感があったが、二か月も時間が経ったのなら季節が変わっていても不思議ではない。
(とすると日本の1週間がこちらの二か月ってことか)
「しっかりしろよ? ただでさえ飛び石商人は大陸をまたぐ関係で時間差にやられるって聞くからな。注意しておいた方がいいらしいぜ」
「そういえば飛び石商人ってなんです?」
前回もリチャードの口から出たその単語。
意味が分からずスルーしていた和樹だったが、今後の取引のためにはここで聞いておいた方がいいだろうと思い、和樹はリチャードに尋ねる。
「なんだお前、同業者のことなのに知らねえのか? まあ、暗黒大陸の連中は自分たちのことをそうは呼ばねえって聞くしな」
そしてリチャード的には暗黒大陸出身の商人からは良く聞かれる質問だったのか、不審に思うこともなく和樹に説明をしだす。
「まずお前を含む大陸間で交易をする商人って移転魔法を使って移動するだろう?」
「えぇ、まあ(この世界魔法あるのか!)」
「で、そうやってワープを繰り返して移動する様が水面を飛ぶ飛び石に似てるから、こっちの大陸ではそういう商人を『飛び石商人』って呼んでんだよ」
「たしかに良い得て妙ですね」
「だろ? で、飛び石商人は商品は個人で抱えられる範囲の物だし、移転のためのマナ補給ポーションにはコストも結構かかる。だから必然的に高級品が多くなる。そして暗黒大陸とナーロッパの往復は大体1か月だ」
「あー……それで2か月ギルドに来なかったからこの街に見切りをつけて他の街に行ったと」
「そういうこった。でもまさか暗黒大陸の内陸部まで行ってたとはなぁ。態々時間をかけてそこに行くってこたぁかなり珍しい商品があるのか?」
そう言うとリチャードは木製のビールジョッキを机の端に追いやりズイっと和樹に肩を寄せてきた。




