第11話 とはいえ儲かりまくり
ナーロッパから日本に帰国してから数日後。
初回取引で相場の半分で商品を売る羽目になった和樹はさぞへこんでいるかと思いきや……。
「うっひょひょほよっよあひゃえあはああっ!!」
そんなことは全くなく、和樹は半ば奇声じみた歓喜の声を上げていた。
控えめに言って有頂天というやつである。
その理由は簡単。
――振込1|カ)カイトリザイホウホンポ 1,940,514円
「ひゃくまんえーん! ひゃくまんえーん!! 実質半日労働でひゃくきゅうじゅうまんえーん♪」
和樹のネットバンクの取引履歴に表示される約194万円の入金履歴。
そう、ナーロッパとの取引で得たチーレム金貨8枚を、配送買い取り業者に査定に出した結果、無事純金として評価されて買い取り代金が入金されたからだった。
確かに、和樹は新人狩りの悪徳商人カサンドラに騙され、相場の半額以下の代金で(向こうの世界から見れば)危険を冒して運んできた商品を買いたたかれた。
それだけならまだしも、取引直後にギルドの信用を落とさないためにと、リチャードという商人に指摘され、損したという事実迄突き付けられた。
普通の商人であれば大きな機会損失に半月は寝込むこと間違いなしである。
そして和樹も指摘された直後は膝から崩れ落ちで嘆き悲しんだ。
それはもう嘆き悲しんだ。
が、和樹は商人でも無ければもしもをずっと追うような性格でも無かった。
合ったかもしれない機会損失よりも今の大金なのである。
「あひゃひひゃひゃうひひゃああ!! 原価数万が194万えーん!!! 機会損失とかどうでもいいわ! ……あの腹黒エルフは絶許だけどな! 次会ったら絶対あのデカい乳叩いてキャーンいわせてやるからな!」
カサンドラへの恨みはもちろん持ち続けているが、それはそれとして大金への歓喜の方が上回っていたのだった。
「っていうかあれじゃね? これ、量増やして数回繰り返すだけで夢のFIRE生活まっしぐらじゃねー!? うっは俺の人生ハジマッタな!」
反省とは痛いときにするもの、痛さより気持ち良さの方が圧倒的に上回っている和樹の脳内辞書に反省という二文字は一切存在しなかった。
「ってか冊子があればボられることもないし実質ノーダメじゃん! ひゃぁ異世界ちょろぉぉぉお♪」
代わりに慢心の二文字があらゆるページに差し込まれる。
「うひょろおべあひゃうへぇちょろぴー♪」
ベッドで踊ったり床をゴロゴロしたりと奇行の限りを尽くす和樹。
「よしよし、この調子でガンガン稼ぐぞ……!」
ひとしきり誰もいない部屋で歓喜を発散し終えて落ち着いたのか、和樹は急に冷静になるとスマホをベッドに放り投げた。
「さて、じゃあ……行きますか」
そして、ベッドのわきに置かれたキャリーワゴンのハンドルに手をかける。
ワゴンの中には、大きな麻袋にギュウギュウに詰め込まれている石鹸が山積みになっていた。
ワゴンや麻袋と一緒に様々な石鹸を通販でまとめ買いしていたのだった。
(悪徳エルフ商人カサンドラの反応はガチだった。それに相場表も石鹸の方が高い。つまり石鹸の方がコスパがいいってことだ)
転んでもただで起きない和樹はカサンドラの反応から、より需要があるのは石鹸と見込んで、今回は石鹸一本足勝負に洒落込む目論見だった。
「さーて、待ってろよナーロッパ! 俺のFIREのための踏み台になれ!」
和樹は右手のタトゥーをフリックして鍵を出現させると、鍵と同時に出現した異世界ドアを勢いよく開け、鼻歌交じりに二度目の異世界と足を進めた。




