大切な幼馴染の関係
夜遅く、満天の星空の下、ユウは夜の散歩をしていた。本来なら明日の勇者の試練を受けるため、ゆっくり身体を休めるべきだろう。しかしいよいよ自分が勇者になるのだという興奮から寝つけず、ゆっくり散歩することにしたのである。
そして今、里外れの大きな湖のほとりにやってきていた。ここは聖地レセドの絶景スポットの一つ。夜になると蛍が飛び交い、さらに月の光が湖をキラキラ照らし幻想的な風景になるという。肩の力を抜きリラックスするにはもってこいの場所だ。
ただこの湖のほとりには先客がおり。
「フェイ、こんな時間に会うなんて、めずらしいな」
「いつも通り早く寝ようとしたんだけど、興奮しちゃってかなかなか寝付けなくてね。ちょっと夜の散歩をして、気分を落ち着かせようかなーって」
フェイは恥ずかしげに目を伏せながら説明を。
「ははは、オレとまったく同じだな」
「ユウくんも? よかった。小さな子供みたいでちょっとはずかしいなと思ってたけど、仲間がいたんだね」
フェイはほっと胸をなでおろす。
「ははは、それもしかたないさ。オレたちはずっと回廊の試練を受け、勇者になることを夢見続けてきたんだ。それはもう恋焦がれるほど、熱烈にさ。これで気持ちが高ぶらないわけないってな」
「そうだね。でもこうなってくると今朝の件で、アリアちゃんのことはしゃいでかわいいなって思ったのを、謝らないとだね」
「いや、あれはちょっと早くないか? まあ、アリアらしいといえばらしいか。中身はまだまだ子供だし」
「ユウ~! だれが中身はまだまだ子供だって~!」
笑っていると、アリアの声が。彼女はユウへと詰め寄り、指を突き付けながらほおを膨らませてくる。
さらに後ろのほうから、デューナも近づいてきた。
「おっ、ウワサをしてたらきたな」
「こんばんわ、アリアちゃん、デューナちゃん」
「フェイとユウもここにいるということは、みんな同じだったみたいですね」
「ははは、結局全員、寝つけなかったわけか」
「ユウ、話をそらすな~!」
三人で笑ってると、アリアがユウの腕をクイクイ引っ張りながらにらんでくる。
「ふふふ、アリアは頭お花畑ですし、子供っぽいのはまぎれもない事実でしょう」
「ははは、だよな」
「ちょっと! アリアの中身はどっからどうみても、しっかり者のお姉さんでしょ! ね~、フェイ」
「――あはは……、そ、そうだね……」
アリアの同意に対し、フェイは困った笑みを。
「フェイの反応がすべてを物語ってますよね」
「――そ、そんなはずは……」
アリアががっくり肩を落とし、ショックを受けだす。
「そんなことよりも、いよいよ勇者の試練が明日ですか。なんか感慨深いですね。しかもこの幼馴染四人でっていうのがまた」
デューナは胸をぎゅっと押さえながら、ユウたちを見渡した。
「そうだね。小さいころから、遊ぶときも修行のときもずっと一緒。勇者へのあこがれを分かち合い、苦楽を共にしてきた。今でもまぶたを閉じれば、みんなとの思い出が鮮明に浮かんでくるんだよ」
「ははは、性格もバラバラなのに、よくもまああれだけ一緒に居られたもんだよな。気付いたらみんなで集まっててさ。バカ騒ぎもいっぱいしたし」
「そのバカ騒ぎの発端のほとんどは、アリアの突拍子のない一言に巻き込まれてだったような気がします。あれがしたい、これがしたいって無茶苦茶なチャレンジに、いろいろ苦労させられましたよ」
みんなで子どものころを振り返りながら、しみじみとかたり合う。
あまりの懐かしさと楽しい思い出に、自然とほおがゆるんでしまっていた。
「なによ~、言い出しっぺは確かにアリアだったけど、みんなもまんざらでもなさそうに楽しんでついてきてたじゃない。とくにデューナとか、目を輝かせて一番にくいついてきてたしね~」
アリアはデューナをビシッと指差し、不服そうに抗議する。
「――うっ、それはみんなとなにかするのが楽しかったからでぇ、えへへ~」
デューナは手をもじもじさせて、テレくさそうに視線をそらす。
「いつもそんなふうに素直だったらかわいいのにね~」
「くぅ~、アリアちゃんからかわないでよぉ~」
アリアのいたずらっぽい笑みに、デューナははずかしさにもだえだす。
「あはは、まあ、みんなのおかげで勇者の前日譚として、申し分のない幼少期を過ごせたのは確かね♪」
「そうだな。まさか勇者になる前から、こんな濃密で忘れがたい日々が過ごせたなんて。うれしすぎる誤算だったよ」
輝く星々を眺めながら、しみじみと思う。
ユウが思う転生のパターンだと、勇者になって旅に出てからが本番。いうなればまだユウの冒険譚は始まってすらいない。だというのにこの充実感。もうこの日々だけでも転生した甲斐があったといえるほど、幼馴染たちと過ごした時間が愛おしく思えてしかたがなかったのだ。
「えへへ、このステキな思い出があれば、この先、どんな苦難が待ちわびていても乗り越えていけそうだよね!」
「ははは、だな!」
「あはは、そうね~!」
「――は、はい……」
三人で希望を胸に笑いあっていると、デューナがうつむいてしまう。
「デューナ、どうしたんだ?」
「――みんなと離れ離れになるなんていやだよぉ……、これからもずっとずっと一緒にいたい……」
デューナはスカートの裾をぎゅっとしながら、震えた声で告白する。
「デューナ、あんたそこまでアリアたちのことを」
「思うに決まってるよぉ! ワタシにとってアリアちゃんもフェイちゃんもユウくんも、かけがえのない大切な幼馴染なんだからぁ~!」
デューナはアリアに抱き着きながらも、涙声で切実にうったえた。
「こんなに一緒にいて楽しく素を見せられる親友がワタシにもできるなんて、まるで夢のような体験なんだもん! そんなみんなと離れ離れになるなんて、考えるだけでも胸が締め付けられるよぉ! 勇者の試練の日が来ず、このままずっと一緒にいたいとさえ思うぐらいなんだからぁ~」
「アンタはいつもクールぶってるけど、ほんと甘えん坊さんなんだから……」
アリアはデューナの頭をよしよしとやさしくなでる。
「みんなのことすっごく大好きだから、しかたがないよぉ!」
「はいはい、いつもこんなに素直なら、かわいくてしかたないのにね~」
「――ぐすん、だから一つわがままを聞いてください。もしワタシが勇者になった暁には、みんなワタシのパーティに入って一緒に世界を救う旅に出てください!」
アリアになだめられていたデューナは、意を決し心からの願いを口に。
「デューナちゃんのパーティに?」
「はい、みんなの力量は申し分なく、戦力のバランスもすごくいい。お互いを知り尽くしているからこそコンビネーションだって抜群です。これほど理に叶ったパーティはなかなかありません。ぜひとも世界を救う勇者のパーティメンバーに、スカウトしたいです。――いえ、それは建前で、本当はただ幼馴染のこのメンバーともっと一緒にいたいよぉ! 冒険をして楽しいこと、辛いことを分かち合いながら笑いあっていたい! だからお願い! これが最後でいいから、ワタシのわがままを聞いてぇ!」
デューナは万感の思いを込めて、頭をバッと下げてくる。
「わがままを聞いてね~。でもそれデューナだけずるくな~い?」
「――ぐすん、アリアちゃん?」
「そんなわがままを許されるなら、アリアもしたい! アリアが勇者になった暁には、みんなアリアのパーティに入ってね! その代わり、世界を救う最高のさいっこうの勇者の旅路を味合わせてあげるから♪」
アリアは両腰に手を当て、ウキウキで宣言する。
「おいおい、デューナもアリアもずるいぞ。そんなわがままをいうからには、逆にされる覚悟はもちろんあるよな? オレが勇者になったら、世界を救う旅に付き合ってもらうぞ」
「えへへ、じゃあ、わたしもわがまま聞いてもらおうかな。楽しい旅にするためにも、みんなにはぜひついてきてほしいんだよ。ううん、デューナちゃんたちのわがままも聞いてあげるから、もう強制でいいよね♪」
フェイはいたずらっぽく微笑みながらウィンクを。
「ユウくん……、フェイちゃん……」
「ははは、確かにあの勇者だもんな。そんな栄光を勝ち取ったなら、お祝いに強制でわがままを聞いてもらっても罰は当たらないだろ」
「なになに~、これって結局、勇者になった人のパーティに入るってこと~? あはは、なんかしんみりして損したかも~」
「ははは、だな。これからも長い付き合いに、なるってことだもんな」
「えへへ、でも本当にこうなってよかったんだよ。みんなならお願いすればついてきてくれる気はしていたけど、もし断られたらと思うとなかなか声をかけられなかったから」
「ありがとぉ、みんなぁ。これで心置きなく勇者になって冒険にでれるよぉ」
デューナは嬉しそうに涙を払いながら、心から安堵する。
「デューナ、このエモい空気の中、爆弾発言をぶち込んでくれるじゃない」
「ふふふ、ワタシが勇者になるのは決まってることなので」
「決まってるのはアリアだから! みんなちゃんとアリアのパーティに入ってよね!」
「ははは、オレが勇者になるんだから、今のうちに夢を見ていればいいさ。それぐらい快く許そう」
「ごめんね。こればっかりはさすがに譲れないんだよ。代わりにわたしが世界を救うから」
みんなで自分こそが勇者になるのだと宣言し合う。
そして。
「ははは」
「「「あはは」」」
夜の湖のほとりに、ユウたちの仲よく笑う声が響くのであった。




