フェイの姉
ユウたち四人はあれから里長である、ライナスの屋敷へたどりつく。
里長の屋敷とあってほかの家々より大きく、内装も高い家具などが置かれ威厳に満ちていたといっていい。
そして現在ユウたちは、彼の執務室で話を聞いているところであった。
「はるか昔、邪神が現れ世界に混沌をまき散らしていた。人々は抵抗したが、圧倒的な力を持つ邪神と配下の魔物たちに苦戦する一方。滅ぼされそうになったまさにその時、女神さまが勇者を遣わし、人類の反撃が始まった。そして激闘の末、邪神をなんとか封印するまでにいたったのだ。こうして人々は平和を勝ち取り、女神さまの加護のもと繁栄を続けてきたという」
初老のライナスがかつての歴史を重々しくかたっていく。
彼の後ろには、手伝いにきている一人の若い女性が待機していた。
「だが50年ほど前から邪神の封印が解け始め、次第に魔物たちの活動が活発になっている。被害もいたるところで出ており、このままでは人類は再び混沌の時代に引きづり下ろされることになるだろう。しかし希望はある。女神さまは邪神の封印が解けたときの対策をしてくれていた。それこそ勇者の隠れ里である聖地レセドだ。レセドには勇者の回廊と呼ばれる場所がある。みなも知っての通り、この里の者の中から勇者にふさわしい若者が現れ、回廊の試練を受け力を得るという予言があるのじゃ。そしていよいよその時が来た。今まで閉じていた勇者の回廊の扉が開き、四人の若者、ユウ、フェイ、アリア、デューナ、お主らが招かれたのだから!」
ライナスは希望に満ちた目でユウたちを見ながら、熱弁する。
そう、実は数週間ほど前、ユウ、フェイ、アリア、デューナの手にあざのようなものが浮かび上がったのである。それこそ勇者を選定する勇者の回廊に入る通行書。よってユウたちは回廊に入り、勇者の試練を受けにいくのであった。
「試練の決行は明日の朝じゃ。心の準備はできているかの?」
「はい、わたしたちは回廊の試練を受け、勇者になることをずっと夢見て修行してきました。心の準備はとっくにできています」
代表してフェイが応え、みんなで力強くうなずく。
「頼もしい限りじゃ。ホッホッホッ、それにしても感慨深い。お主らのがんばりは小さいころから見てきたからのう。その非凡な才能、勇者へのあこがれ、どれをとっても大人顔負けで、きっとこの中の誰かが勇者になるだろうとみな期待していた。お主らこそまさにレセドの誇りじゃ。四人もの英傑を送り出せ、里長のワシも鼻が高いのう」
ライナスはふさふさのあごひげをさすりながら、得意げに笑う。
「さてワシからの話はこれくらいにしておくか。あとの説明はセレナくん、頼んだぞ。ワシは明日の準備をしに行くとしよう」
「はい、おまかせを」
ライナスはセレナにあとのことを任せ、執務室をあとにした。
「改めて勇者の試練への挑戦権おめでとう! ライナスさんも言ってたけどみんなの成長を見守ってきた身として、感慨深いわね。こんな立派になっちゃって」
セレナはポンと手を合わせ、ユウたちの成長に感動しながら微笑む。
彼女はフェイの姉のセレナ。歳は22才であり、やさしくおちゃめな女性である。小さいころから幼馴染メンバーを見守りめんどうを見てくれ、ユウたちにとっても本当の姉のような存在であった。
「ははは、セレナさんには、ほんと小さいころからお世話になったな」
「はい、いろいろ相談ごとにも乗ってもらいましたし、魔法のこともどれだけ教わったことか」
「あはは、おしゃれや料理とかにもくわしくて、もうアリアの女子力の先生だもん!将来はセレナさんみたいなステキな女性になりたいな~!」
「えへへ、わたしの自慢のお姉ちゃんだからね! 妹としても鼻が高いよ!」
フェイは両腰に手を当て、小さな子どもみたいにえっへんと胸を張る。
彼女たちの両親は、二人がまだ小さいときに亡くなってしまったという。なので姉のセレナがフェイをずっと世話してきたのだ。それゆえフェイのセレナに対する大好きっぷりはすさまじく、日ごろから甘えまくっているのである。
「ありがとう。フェイも私の自慢の妹よ!」
「えへへ」
セレナになでられ、フェイはくすぐったそうに目を細めた。
「フェイってセレナさんの前だと、急に子どもっぽくなるというか甘えん坊になるよね~」
「だってお姉ちゃんのこと大好きだし、心から尊敬してるもん。ああ、お姉ちゃんがわたしの姉で本当によかったよ。おかげで好きなだけ甘えられるんだから!」
「みんなウチの妹、かわいすぎないかしら!? こんなにいい子に育つなんて! 愛おしすぎて抱きしめたくなるわ!」
セレナは感激しながら、フェイをぎゅーっと抱きしめた。
「美しい姉妹愛だ」
「そうですね。見ててほほえましい気持ちになります」
「フェイ、なにが食べたいかしら? お祝いにお姉ちゃんがウデをかけて好きなものなんでも作ってあげるわよ」
「わーい!」
子どものように両手を上げて喜ぶフェイ。
「いいな~、アリアもセレナさんの手料理食べたい!」
「もちろんみんなの分もつくるわよ! リクエスト受け付けるから、なんでも言ってね!」
「お姉ちゃん、わたしも料理手伝うよ!」
「うーん、フェイのお手伝いはちょっと遠慮しとこうかなー。気持ちだけ受け取っておくわね」
目を輝かせながら手を上げるフェイに対し、セレナは困ったように笑ってごまかした。
「じゃあ、アリアが手伝う! セレナさんと一緒に作るのすごく勉強になるもんね~」
「あら、アリアちゃんなら助かるわ。料理がうまくて教えがいもあるしね」
「アリアちゃんだけずるい」
「だってフェイって基本なんでもできるのに、料理はダメダメだからね~」
アリアはやれやれと肩をすくめて首を振った。
そう、フェイは基本なんでもうまくこなせる秀才なのだが、料理だけは壊滅的にヘタなのだ。小さいころから練習で作った料理をたまに持ってきてくれるのだが、そのどれもがマズくみんななにかしらの理由を作って回避しようとするのであった。
ちなみにアリアは料理が得意であり、セレナからもお墨付きをもらっているほどという。
「むー、わたしもアリアちゃんみたいに料理ができるようになって、お姉ちゃんに褒められたいんだよー」
「そうねー。フェイはせめてレシピ通りに作ろうとしてくれたら」
「えー、お姉ちゃんみたいにアレンジしたほうが、よりおいしくなるでしょ?」
「それでいつも失敗してるからねー。そういうのはもっと料理スキルを上げてからにしようかー」
セレナは困った笑みを浮かべて、やさしく諭す。
もはや見なれた光景であった。
「にしてもこの中で一番ものぐさなアリアが、料理上手なんてな」
「はい、ワタシもレシピ通りなら普通に作れますが、二人みたいにいろいろアレンジするのはまだまだ難しいですね」
「日ごろから女子力みがいているからね~! 料理も乙女のたしなみだもん!」
アリアは髪をかきあげ、かわいらしくウィンクを。
「アリアちゃんはきっと将来いいお嫁さんになるわね」
「だってさ~、ユウ、聞いた~? アリアすっごく将来有望みたい! 狙うなら今のうちかもよ~」
アリアがニヤニヤしながら、ユウを肘で小突いできた。
「――おっと、いけない。楽しくおしゃべりもいいけど、今はライナスさんの指示をこなさないとね。じゃあ、さっそく試練の場である勇者の回廊について説明するわね。特殊な空間内に広がる勇者のためのダンジョンらしいわ。中には試練のための敵が配置されていて、それらを倒しながら最奥を目指す流れみたい」
セレナが勇者の回廊について説明し始める。
聖地レセドの街外れには、回廊の教会という建物があった。言い伝えではここから勇者の回廊への扉が開き、時期がくれば勇者になるであろう若者を招くといわれていた。
「だから当日みんなには公平を期すためにも、一斉に入ってもらう予定よ」
「質問です。勇者の回廊は何人想定で作られているんですか? 一人、二人ぐらいだと、この人数でなら楽勝でそのダンジョンを突破するかもしれないですよ」
「勇者の回廊の中はそのときの受ける人数や実力といった状況に合わせて、ダンジョンの構造や敵の数が変わるそうよ。四人に挑戦権を与えた時点で人数はわかってるだろうし、あとは向こうがうまいことやってくれるはず。たぶん一斉に入っても、バラバラにされるんじゃないかしら」
「ちなみに中で協力とかしてもいいんですか?」
「とくに明言されていないから、協力も敵対も自由だと思うわ。ただ個人的に敵対はあまりしないほうがいいんじゃないかしら。仲がいいみんながぶつかり合うのは、見たくないからね」
「そうだな。それはさすがにやめとくか」
幼馴染たちに剣を向けるなんて、とてもできそうになかった。それにユウが勇者になるのは決まっているため、わざわざ誰かを脱落させる必要なんてないのだ。
「うん、敵対はなしにしとこう」
「だね~」
「はい、その方向でいきましょう」
「さて、ここからが大事なんだけど、最奥についたからといって勇者になれるわけじゃないわ。言ってしまえば最奥へたどり着くまでは前座。そこでようやく選定してもらう権利を獲得できる感じね。だから選定され認められたら、力を与えられ晴れて勇者になれるわ」
「選定ってなにか基準があったりするんですか?」
「その人物が勇者にふさわしいか、女神さまの寵愛を受けているのかを見るそうよ」
(女神さまの寵愛。転生するとき、この世界の命運を託され力をもらったことか)
実は転生するとき、世界を救う勇者の使命とあらかじめ力も与えられているのだ。おそらく勇者の選定はそこの部分を見るのだろう。
「いいこと思いついた! その選定だけど、みんなが最奥にたどり着いてから全員一緒に受けない?」
アリアが手をパンっと合わせ提案してくる。
「早いもの勝ちで選定を受けて、その人が勇者になったとするでしょ。そうするとあとでたどり着いた人って、本番の選定も受けられずに終わっちゃうよ。これまであんなにがんばってきたのに、それだとあんまりでしょ? もし早く着いていたら結果が変わったのかもしれないとか、悔いが残るはず。それならいっそのこと全員で受けて白黒着けたほうが、選ばれなかった人も納得できるんじゃない?」
「確かにな。たどり着いてもうすべてが終わってたなんて、拍子抜けもいいところだし。せめて選定のときのドキドキ感は味わっておきたいか」
「でしょ~! フェイとデューナは?」
「うん、いいと思うんだよ」
「アリアにしてはいい考えですね」
(これはこれで都合がいいしな。早い者順でいかれると、なにかの手違いが起こるかもしれない。全員で選定すれば、間違いなく選ばれるはずだ)
全員でアリアの提案に快く乗る。
これはユウにとってもありがたい話だ。女神の寵愛を受け勇者になることは決まっているが、その選定がどういう仕組みで行われているかはわからない。もし人為的なものであれば、女神の寵愛は受けていないがこの人物こそふさわしいと肩入れされ、ユウがついたころにすでに決まっていたなんて可能性もある。なので慢心はできずなるべく早く辿りつく必要があるが、全員一緒に受けるならそう慌てる必要もない。さすがに女神の寵愛を受けた者がその場にいれば、こちらを優先してくれるはずだ。
「もっとくわしく教えられたらいいんだけど、私たちも勇者の回廊についてはこれぐらいしかしらないの。だからぶっつけ本番みたいな感じでがんばってね。みんなのこと応援してるから!」
セレナはウィンクしながら、エールを送ってくれる。
こうして勇者の回廊の説明は終わり、屋敷でわいわいゆっくりな時間を過ごすユウたちなのであった。




