フェイの後光
ここは別名勇者の隠れ里と呼ばれる、聖地レセド。レセドには勇者に関する様々な逸話があるという。とくに有名なのは、この地に女神が勇者に託した力が眠っているというものだろう。そしてレセドから選ばれた勇者が現れ、この世界を脅かす邪神から世界を救うという予言があるのだ。ゆえにレセドでは、未来の勇者を育成する風習があった。それは腕利きの教官を集め、小さいころから勇者の候補生を鍛えていくというもの。なのでユウたちはこれまで勇者になるための様々な鍛錬をし、ずっと腕を磨いてきたのである。
アリアと一緒に里長の家に向かっていると、広場の女神の像前で祈りを捧げているフェイを発見する。
「フェイ~、おはよ~♪」
「よっ、毎日欠かさず女神さまに祈りを捧げて、フェイは本当にえらいな」
「そこらの教会の信者よりも、熱心だもんね。アリアなんて長くても一、二分なのに、フェイって毎回長いし、休日とかずっとやってるときもあるよね」
フェイの女神に対する信仰心には、感心せざるをえない。
彼女は雨の日でさえ、こうやって毎日祈りを捧げにくるのだ。しかもその一回一回が長く、長い時は一時間以上のときもあった。
「女神さまへの感謝の気持ちは、どれだけ祈ってもたりないほどだから。それに心の中で語りかけて、話を聞いてもらうときもあるし。時間なんてあっという間に過ぎちゃうんだよ」
フェイは祈るように手を組み、満ち足りたように微笑んだ。
彼女はユウたちの幼馴染であるフェイ。思わず目を奪われるほどの金色の髪の、凛とした少女である。誰にでもやさしく、誠実であり、幼馴染メンバーの中ではしっかりもののお姉さん的立ち位置であった。
「これだけフェイに慕われて、女神さまもうれしいだろうな」
「えへへ、そうかな。だとうれしいな~」
「ははは、きっとそうさ。――ふぁ~」
ふと大きなあくびが出てしまう。
「ユウくん大きなあくびだね」
「朝早くにアリアに起こされたんだ。もう少し寝てたかったのにさ」
「かわいい幼馴染が起こしに来てくれるという、最高のシチュエーションを味わっておいてなによそのいいぐさ~。も~、失礼しちゃう!」
アリアが両腕を組み、ぷいっとそっぽを向く。
「アリアちゃん、ユウくんを起こしに行ってあげてたんだね」
「興奮して朝早くに起きちゃったから、ユウを巻き添えにしようと思ってね!」
「わたしも起きてる時間だろうし、こっちに来てくれてもよかったのに」
「えー、だってフェイはいつもの朝の鍛錬中でしょ。そっちにいったら付き合わされて、朝からヘトヘトだっただろうし、さすがにそれはちょっとね~」
アリアはほおをポリポリかきながら、気まずそうに視線をそらした。
なんとフェイは早朝に起き、一人で朝の鍛練に励んでいるという。しかも休みの日にも毎朝欠かさず、日課としているから驚きだ。彼女の向上心には感服せずにはいられなかった。
「朝早くに身体を動かすの、とてもおすすめだよ! スッキリしていい一日のスタートが切れるのはもちろん、鍛錬に身が入ってより腕を磨くことができる。まさに一石二鳥だね!」
フェイがガッツポーズをしながら力説を。
「ははは、フェイってほんとすごいよな。毎朝鍛練を欠かさずがんばってるんだから」
「どおりでアリアたちの中で、一番強いわけね」
「ユウくんたちもつき合ってくれたらいいのに。小さいころは一緒に朝の鍛錬してくれてたよね?」
「小さいころはまだ元気があり余ってたからな。今じゃ勇者になるための修行でどっと疲れるから、朝ぐらいはゆっくりしたいんだよ」
「うーん、アリアもユウと同じかな~。おしゃれにも時間をかけたいしね~」
「朝の鍛練おすすめなんだけどなー」
乗り気じゃないユウたちに、フェイは残念そうに肩を落とした。
「フェイは大変とか思わないのか?」
「うんうん、これも立派な勇者になるためだと思ったら、ぜんぜん苦じゃないかな。むしろ楽しいぐらいだよ♪」
「ユウ、フェイがまぶしいんだけど~!?」
「奇遇だな、オレもだ」
フェイの屈託のないキラキラとした笑顔。その崇高な志も相まってかまぶしく見え、ユウたちは直視できなかった。
「フェイは本当にがんばってるとは思うけど、アリアだって修行中はまじめに全力でやってるしね~。怠けてるわけじゃないもん。遅れはとらないんだから!」
「ははは、そうだな。修行中は一切手を抜いてないし、むしろそこですべてを出し切っているほどだ。フェイの朝の日課には感服するが、それで勇者の座を譲るわけにはいかないさ」
しかしユウたちだって黙っていられない。
朝の鍛錬から逃げているからといって、決して勇者になるための修行を怠っているわけではないのだ。ちゃんとメインの修行時には全身全霊、周りから見たらやりすぎと思われるぐらい必死に取り組んでいた。それも当然のことだろう。将来勇者として世界を救わなければならないのだ。いくら勇者になるのが決まっているからといって、慢心などしていられなかった。
「もちろん、二人もわたしに負けないぐらい、勇者になるため必死に努力してるのはよく知ってるんだよ。おかげで追い抜かれないようにって、より修行に身が入ることができた。わたしがここまで強くなれたのも、みんなと切磋琢磨してきたから。本当に感謝してるんだよ。これからもよきライバルであり、同じ世界を救う志を持つ同士としてがんばっていこうね!」
フェイは屈託のない心からの満面の笑顔で、手を差し出してくる、
その純粋無垢な心のありように、後光を感じてしまうほどまぶしかったといっていい。
「ユウ、またまぶしいんだけど~!?」
「オレもだ。力量もそうだが、フェイは性格も王道勇者っぽいんだよな。誰にでもやさしく、純真で崇高で女神さまの信仰心も厚過ぎる」
「そうよね。フェイこそ本物の勇者じゃないのかって、時々思っちゃうぐらいだし。とはいえ勇者になるのはアリアなんだけどね!」
「だよな。勇者があまりに似合い過ぎてる。まあ、勇者になるのはオレなんだが!」
勇者らしさでは負けているのは認めざるをえないため、悔しまぎれに事実で対抗するしかない。
「えへへ、みんなそれぞれいいところがあるし、勇者にふさわしいよ。それにたとえ勇者に選ばれなかったとしても、これまでのがんばりは決してムダにはならない。この世界を救うために、必要なものだもん。だから胸を張って、それぞれの道を歩んでいこうね!」
「「うっ……」」
フェイの後光にも似たあまりのまぶしさに、目がくらんでしまうユウたち。
そうこうしていると、幼馴染の一人であるデューナがやってきた。




