幼いころの夢
「女神さま、ボクは勇者になって、必ず世界を救ってみせる!」
ここは別名勇者の隠れ里と呼ばれる、聖地レセドの入口の広場。清々しいほどの青い空の下、八歳のユウは崇高な志を胸に、女神像へと宣言する。
「ふーん、勇者にあこがれる男の子が、女神さまの像の前で誓いの宣言をする。なかなか絵になる熱い光景だけど、運命とは悲しいな~。ユウの願は叶わない。だって勇者となりその大役を果たすのはこの未来の美少女勇者、アリアなんだもん!」
すると銀色の髪の活発そうな、同い年の女の子。アリアが両腰に手を当て得意げにウィンクしてきた。
「ははは、いいきったな。どこからそんなすごい自信が湧いてくるんだ?」
「ふっふっふっ、まさに勇者になるべくして生まれた、この天賦の才がその証拠! 魔物たちなんてアリアにかかればちょちょいのちょい! 世界なんて軽く救ってあげちゃうんだから!」
「アリアはワタシやユウと、だいたい同じくらいの実力ですよね。しかもさらに優秀なフェイまでいるのに、よくそこまで自信満々に宣言できたものです」
栗色の髪のおとなしそうな、同い年の女の子。デューナがやれやれと肩をすくめ、ツッコミを入れる。
「うるさいな~。まだアリアは成長途中! すぐにフェイを追い越し、誰もが認める勇者になってみせるもん!」
「まあ、夢を見るのは自由ですよね」
「ははは、だな」
「こいつら~。ふん、なによ、ずいぶん余裕ぶって! 自分が勇者になるとでもいいたげに!」
ユウたちの微笑ましいまなざしに、アリアはぷいっとそっぽを向く。
「そう信じて疑ってないからな」
「はい、みなさんには悪いのですが、ワタシが勇者になって世界を救うので」
「結局あんたらアリアと同じじゃない! 人のこと言えないでしょ! まったく……、フェイ~、二人がいじめてくる~」
熱心に女神像へ祈りを捧げている、金色の髪の凜とした同い年の女の子。フェイにアリアが抱き着き、助けを求めにいった。
「アリアちゃん、どうしたのかな?」
「フェイ、あんなにアリアたちが騒いでいたのに、聞いてなかったの?」
「ごめんね。女神さまに祈りを捧げるのに夢中で」
「ほんとフェイは女神さまを崇拝してるね~」
「えへへ」
フェイはテレくさそうに笑う。
「今誰が将来勇者になって、世界を救うかって話をしててね!」
「そうなんだ。みんな安心して。わたしが勇者になって、この世界を救ってみせるから。女神さまの名にかけて、絶対にだよ!」
フェイが胸に手を当て、万感の思いを込めて宣言を。
彼女のまっすぐで澄んだ瞳には一切の迷いがなく、本気でそう信じ切っていたという。
「フェイもか~い!」
「え? え?」
盛大にツッコミを入れるアリアに対し、ちょこんと小首をかしげるフェイ。
それを見て笑うユウとデューナ。楽しくも微笑ましい幼馴染たちとの時間だ。
そんなユウたちみな、将来立派な勇者になることを信じて疑っていなかった。というのもこの聖地レセドから世界を救う勇者が現れると、はるか昔から言い伝えられているのだ。そのことを小さいころからおとぎ話のように聞かされ続け、輝かしい素質から勇者の候補生として育てられてきた。もはや勇者へのあこがれは日に日に増していき、自分こそがそうなるのだと子供ながら思いこんでしまうのもしかたがないことだろう。だがユウは違う。なぜなら本当に勇者になることを知っているのだから。
(そう、オレは女神さまに勇者の力を与えられ、この世界に転生させてもらったんだ。だからその期待に応えるためにも、立派な勇者にならないとな)
ユウは17才のとき、不運にも交通事故で亡くなってしまった。
だが女神はそんな哀れなユウの魂を導き、勇者の力を授けて転生させてくれたのである。どうかその力でこの世界を救ってほしいと。そんなユウは一年前まではまだ当時の記憶がなかったが、だんだん自分が誰だったのかを思い出していた。そして今は女神の願いをかなえるため、幼馴染たちと共に日々鍛錬に勤しんでいるのである。
(ははは、それにしてもほんと微笑ましいな。みんなあんなにも勇者になる気満々で。まるでオレみたいに確信してるようにさ)
ユウは心の中で笑ってしまう。
というのもみなユウと同じで、将来自分が勇者になることを知っているような面持ちだったのだから。勇者になるのは女神に選ばれたユウだけだというのに。その無邪気さが微笑ましくてたまらなかった。
そうこうしているとどこからともなく、少女の騒がしい声が響いてきて。




