ユウとリディア
ユウとリディアは街外れにある高台へと来ていた。
この場所からだとレセドの街並みや湖のほとりを上から見渡すことができる、地元の知る人が知る穴場スポットなのである。緑豊かな大地やキラキラ陽の光で輝く水面の湖など、その景色はまさに壮観であった。
「ここから里が一望できるんだ。なかなかの絶景だろ。小さいころはよくみんなでここにきて、ピクニックとかしたものさ」
「うん、見晴らしがすごくいい。空気が澄んでいて吹き抜ける風も心地いいし、さすが聖地と呼ばれるだけはある」
リディアはそよ風でなびく髪を手で押さえながら、目を細める。
小鳥のさえずりや、さらさら木々が風に揺れる音がするだけの心地よい静寂ゆえ、のんびりするにはもってこいの場所だろう。
「気に入ってくれた?」
「ええ、ここで一日のんびり過ごすのも悪くないかも♪ いいところ紹介してくれてありがとう。もう行っていいよ」
ご機嫌な彼女はユウの案内の役目は終わったと、微笑みながらねぎらいの言葉を口に。
「リディアは?」
「アタシはもう少しここを堪能してる」
「それならオレも」
「まだアナタに付き合わないとダメ? アタシ一人の時間が好きだから、そろそろ勘弁してほしいんだけど」
まだ一緒にいようとするユウに、リディアはジト目で抗議を。
「そんなつれないこと言わないでくれよ。ここであったのもなにかの縁。せっかくなんだし仲よくしよう」
「――はぁ……、うっとおしがられてるというのに、めげない人。それにこんな無愛想なアタシに付きまとうなんて、ほんともの好きにもほどがある」
「そうか? むしろ見る目があると思うけど」
「ッ!? さっきからよくそんなキザなセリフ、平然といえるね」
リディアは髪をいじりながら、気恥ずかしそうに視線をそらす。
「ただ思ってることをいってるだけなんだけど」
「――はぁ……、今日は災難な日かも。変な男の子に付きまとわれて、つかの間の休暇がおかしな方向に……」
そして彼女はがっくり肩を落とし、わざとらしく大きなため息を。
「そうか? そのわりにはオレと一緒にいるときのリディア、心なしか楽しそうだったけど」
「ユウの目は節穴?」
「いやいや、会ってすぐのころは警戒してるのか壁を感じたけど、次第に打ち解け始めたのか表情がやわらかくなって、普通に笑ってくれるようになってたぞ」
始めのほうはかなりそっけなく、近づいても少し距離をとられていた。しかし今では一見迷惑そうにしながらも楽しげであり、距離感もすぐ隣にいることを許してくれていたという。
「――そんなわけ……。アタシはユウの話しを適当に聞き流して……、うっ、なかった……?」
なにをばかなことをと否定しようとするリディアであったが、思い返し心当たりがあったみたいだ。あれ?っと首をちょこんとかしげる。
「ああ」
「くっ、たまたまよ! ユウの話がちょっと興味を引く内容だっただけで、心なんて開いていない!」
リディアは顔をカーッと真っ赤にして、そっぽを向く。
「どうしたの、アタシ!? こういう土足でふみこんでくるタイプ、嫌いなはずなのに。この子といるとペースが乱されまくるんだけど!?」
そして彼女は頭を抱え、なにやら取り乱し始める。
「それってもしかしてオレのこと」
「バカ、そんなわけない! アナタなんて全然、これっぽっちも気にしていないんだから~!」
「ははは、そういうことにしておくよ」
「く~」
リディアはスカートの裾をぎゅっとにぎりしめながら、恥ずかしさに打ち震えている様子。
「リディアのことが知りたいな」
「なに急に?」
「オレのことはもういっぱい話しただろ。だから次はキミの番だ」
「そんなこと急に言われても、なに話せばいいか……」
「なんでもいいよ。リディアの好きなこととか、趣味とか。そうだ。冒険者としてあちこち旅してるなら、おもしろい話とかいっぱいあるんじゃないか?」
「あー、あれ実は嘘。どちらかというと、ユウと同じ。辺境の地で、腕を磨き続けてきた。ただアタシの場合、そこに意義ややりがいなんてない。これが本当に正しいのかもわからないまま、ただ与えられた使命を果たすためひたすらに……」
リディアは気まずそうに視線をそらす。それから空を遠い目で見つめながら、自身の葛藤を告白してきた。
「ずっと兵器として生きてきたから、残念ながらおもしろみのある話なんて持ち合わせていない。ごめん」
彼女は悲しげに微笑んで謝ってくる。
「いや、こっちこそなんかわるい」
「ほら、アタシの話をしても暗くなるだけ。だからユウの話をもっと聞かせてほしい。アナタの幼馴染とのエピソードとか、ステキな話ばかりでわりと好きかも」
「それならいくらでもあるが、そんなただバカ騒ぎしてるやつでいいのか?」
「うん、アタシ周りに歳が近い子とかいなかったし、いつも一人で鍛練に励んでいたから。そういうのすごく新鮮で……。もしアタシもこの里出身でその幼馴染メンバーの中にいたとしたら、今とは違った楽しい日々が過ごせたのかも……」
リディアは瞳を閉じ、どこか幸せそうに口元を緩めた。
もしかすると自分がユウたち幼馴染メンバーの中に入り、みんなではしゃいでいる光景を妄想しているのかもしれない。
その姿を見ていると微笑ましさと、彼女の過去に対するいたたまれなさがこみあげてきてしまう。
「――はっ、その目やめて。それほどこれまでのアタシの人生が荒んでいたってっこと。だからちょっとうらやましいと思ったり、妄想するぐらいいいでしょ!」
ユウの視線に気づき、リディアは顔を赤くしながら開き直ってきた。
「――なあ、リディアにもいろいろ事情があると思うけど、もし今の自分の生き方に納得していないなら、全部投げ出してもいいんじゃないか?」
「え?」
リディアの現在の自分への葛藤、ユウたち幼馴染メンバーの関係をうらやましがる姿。それらを垣間見り、今の彼女の生き方をなんとかしてあげたい衝動に駆られたのだ。こんなリディアをこれ以上見てられないと。
「そしてリディアがしたいことをすればいい」
「――したいことっていっても……」
「そうだな。それを見つけるためにも、オレたち幼馴染で結成するパーティに入らないか?
あこがれてくれてたみたいだし、加入してくれたらみんなでワイワイ楽しく冒険できるぞ。
「え? アタシなんかが入って大丈夫なの?」
リディアが目を見開き恐る恐る尋ねてくる。
「リディアって修行してたっていうからには、腕が立つんだろ?」
「戦闘にはかなり自信があるけど」
「なら問題ない。戦力になってくれる人材なら、オレたちにとってもありがたい話だ。どうかその力を貸してくれ」
「――違う、危惧してるのは、人間関係の方。せっかく幼馴染でパーティを作ったのに、そこへいきなり新参者が入ってくるのはいろいろ思うことがありそう……」
「考えすぎだと思うが。それにちゃんと説得もするしさ。事情を知ったら、あいつらだって賛成してくれるはずだ」
「どうしてそこまでして、アタシのような得体のしれない人間を仲間に? アナタたちの関係に亀裂を生むかもしれないし、なにより使命を放棄したアタシがらみのやっかいごとが降りかかってくるかもしれないのに……」
仲間にすると多大な不安要素があるのにも関わらず、誘おうとするユウのことを理解できないとうったえてくるリディア。
「――そうだな。ほんとのことをいうと、自分でもよくわからない。でもオレはどうしてもリディアについてきてほしい。ほっとけないんだ。キミのそんなかなしそうな顔みたくないというか、できるなら笑っていてほしい。だからキミの手をつかまずにはいられないんだ」
確かに彼女の危惧は的を射ている。だがそれを聞いてもなをユウの意思はかわらなかった。自身から湧き出る衝動に従い、嘘偽りのない思いを告げる。そしてリディアの手を取り、まっすぐに見つめた。
「――遠い昔だれかにも、同じようなこと言われた気がする。その人も放っておけないからって、アタシのそばにいつもいてくれた。ちょっとうっとおしくもあったけど、そんな彼と一緒にいる時間は嫌いじゃなかった。――むしろ……、ううん、なんでもない……」
するとリディアは瞳を閉じ、懐かしげに微笑む。まるで心が満たされているかのように。
「そんな人がいたのか」
「うん、もうほとんど思い出せない、遠い遠い昔に……」
「――ええと、それでリディアはどうする? オレとしては仲間になってくれたらうれしいんだけど」
「――アタシ……、は……」
リディアはユウをまっすぐに見つめてくる。声は震えており、その瞳には迷いの色が。彼女の中でどうすればいいのか、心が揺れ動いているみたいだ。
だがそこへ。




