勇者の選定
少し先から神聖なオーラのようなものを感じる。まもなく勇者の回廊の最深部なのかもしれない。ユウたち三人は気を引き締めながら先へ進むと、広いフロアに出る。ずっと奥の方には大きな祭壇のようなものがあり、ここが最深部で間違いなさそうだ。しかし一息つく間もなく。
「ちょっと、ユウ、デューナ、あれ!」
「フェイ!」
アリアの指差す先には、フェイが戦っている姿が。
彼女はフードをかぶり仮面を付けている少女と、剣でつばぜり合いの状態であった。
「加勢しにいかないと!」
「ああ、いくぞ!」
「援護します!」
ユウたちはフェイの加勢へ向かう。
「はっ!?」
「うん?」
そこでふと敵の少女と目が合った気が。しかも相手はなにやら少しとり乱した様子であり。
「ッ!」
だがそれもつかの間、敵の少女はフェイを振り払い逃げていった。
おそらくフェイがここまで来たユウたちとは別ルートで、逆走していったという。
「あれ? 逃げちゃった? あれがこの試練場のラスボスとかじゃないの? アリアちゃんが華麗に倒してあげようと思ったのに~」
「追うべきなのでしょうか? 目的地はこのまま奥に進むみたいですが……」
「あの敵、すごく手強かったんだよ。あのまま続けてたら、負けてたかもしれない……」
「フェイにそこまで言わせるとは、そうとう強かったんだな」
ひとまず敵は逃げていったため、ユウたちは一息つく。
「あとあの子、これまでの試練場の敵となにか違ったような」
フェイはなにか思うことがあったのか小首をかしげた。
「なにかって?」
「まあ、退けたからいいじゃない! ほら、ゴールは目の前よ! アリアが一番乗り~!」
アリアがタッタッタっとはずむ足取りで、奥の祭壇へと駆けていく。
「アリア、ずるいですよ」
「おっと、フェイ、いこうぜ」
「そうだね」
いったん謎の敵のことは後回しにして、アリアを追い奥へと進む。
「ここがゴールか」
女神の像がまつられた巨大な祭壇の前にたどり着くユウたち。その神々しさは圧巻の一言であり、思わず祈りたくなるような気さえしてくる。
すると祭壇の床に刻まれた魔法陣が輝きだし。
「わぁ! なんか起動した!? 来る! 来ちゃうの~!」
「アリア静かにしてください! 今この歴史的瞬間を噛みしめてるところなんですよ!」
「とうとう夢にまでみた瞬間が。ははは、緊張してきたな」
「いよいよなんだね。このときをどれだけ待ち望んだことか……」
勇者の選定がいよいよ始まると、興奮を抑えられないユウたち。
そして魔法陣のまばゆい輝きが、フロア中を包んでいき。
(女の子?)
輝きが消えると、ユウたちの目の前に一人の女の子が。
彼女は白いドレスを着た、神々しい雰囲気をまとう見た目11歳ぐらいの少女である。その人ならざる精霊のような美しさは、思わず息を呑んでしまうほどであった。
「よくここまでたどりつきました。私は女神さまに遣わされた精霊エレノア。勇者の資格がある者に今力を授け……」
エレノアは手をユウたちの方へ向け、微笑みながら勇者の選定を始めてくれようと。
「え?」
だがふとエレノアが目を丸くし、固まってしまった。まるで信じられない光景を見たかのように。
(――こ、これは一体どうすれば!?)
精霊であるエレノアは、目の前に広がる現実に唖然とせざるをえない。
エレノアの役目は自分を目覚めさせた勇者の資格がある者に、力を授けること。なのでこのまま役目を果たせばいいのだが、問題が。なぜこの場に、四人もの人間がいるのだろうか。しかも全員から、勇者の資格となる女神からの寵愛を感じるという始末。こんなの想定外もいいことだ。ただこの場所にたどり着いた一人の人間に、力を授ければいいとずっと思っていたのだから。
「あの、つかのことお聞きしますが、勇者の選定を受けに来た方は?」
「「「「はい!」」」」
四人とも自信満々に返事を。
これが一人だけで、あとは付き添いとかなら話は簡単だったのだが。もはや頭を抱えるしかない。
「――で、ですよね……。うん? これは女神さまからのことづて!?」
ふと気づく。ゆらゆらと小さな光が落ちてきていることに。それに触れると、女神の声が脳内に聞こえてきた。直接の会話でなく、音声つきの手紙みたいな物のようだ。
「エレノアへ。少々予定を変更しました。本来なら一人の人物にすべてを託し、あなたの元へ来てもらうつもりでした。ですがその人物が、ちゃんとした勇者になってくれる保証はありません。うまく転生させられない場合もありますし、もしかすると途中で投げ出してしまったり、なにかしらのトラブルに巻き込まれたどり着けない可能性もある。そこで何人かの異世界人に、勇者を目指してもらうことにしたのです。これなら最悪誰か一人は、あなたの元へたどり着けるでしょう。もし万が一複数人来たときは、あなたがふさわしいと思う人物に力を授けてください。お願いしますよ」
(なるほど、そういうことですか。――って!? 女神様!? 四人も来てるんですが!? さすがにたどり着く方多すぎません!?)
女神のことづてを聞き、今の状況を把握する。そしてすかさず心の中で盛大にツッコミをいれた。
(私に選べと? 責任重大すぎません!? そうだ! 戦力で決めれば! くっ、だいたい同じぐらいの力量。しかも高水準で強い。みな勇者として十分やっていけるステータスを持ち合わせているなんて!?)
勇者の回廊のシステムから、四人の大体の力量を把握する。だがその結果に、愕然としてしまう。
これだけいればステータスにもかなりの差があるのではと期待したが、そこまで差はなかったのだ。さらに頭を悩ませるのは、よくぞここまで成長したと賞賛したいレベルだったこと。どれだけ鍛練を積んできたのか、その努力と苦労は計り知れない。それゆえ簡単に候補から外せられなかった。
(しかも全員、自分が選ばれると信じて疑っていない様子。実際、女神さまに託されているから、そうなりますよね。期待を裏切るのも心苦しいのですが……)
あと全員、勇者に選ばれる気満々の顔をしていたということ。女神の寵愛と使命を受けているから、自分以外ありえないと。おそらくこの様子だと、ほかの三人も自分と同じ立場だということを理解していない。あまりに現実離れした境遇ゆえ、ずっと自分だけの秘密にしてきたのだろう。
その結果がこの事態に。みながみな、ここから勇者となって責務を果たすのだという気概が、ひしひしと伝わてきていた。その夢と希望に満ちあふれた少年少女たちの心を折るなど、残酷にもほどがあった。
(女神さま! いったいどうすればいいんですか!?)
もはや心の中で叫ばずにはいられない、エレノアなのであった。
(さっきからこの精霊、あわあわしっぱなしだけど大丈夫か? もしかしてオレが女神さまから託されてるのをわかっていないとか!?)
先ほどからエレノアの様子がおかしい。明らかに動揺し、途方にくれているかのようであった。
エレノアはユウのいぶかしむ視線に気付いたのか、平静を装い答えてくれる。
「ごほん、心配せずとも女神さまに託されていることは、気付いていますよ」
(よかった、これで間違って選定することはないよな。あれ?)
胸をなでおろすも、ここで気になることが。
今のエレノアの発言に、ほかのみんなも心から安堵しているようだったのだ。しかしそれはおかしい。ユウのように女神に託され転生されていなければ、ピンとこないはず。これだとみんなも心当たりがあるみたいではないか。
「なるほど。やはりみなさん、それぞれ気付いていないんですね。――はぁ……、これはまた……」
エレノアは大きなため息をつき、頭を抱えだす。
「この中に女神さまに使命を受け、異界から遣わされた人がいます」
不思議に思っていると、エレノアが核心へと触れていく。
(いよいよか! よし、ここはかっこよくキメないとな!)
どうやら選定を始めるみたいだ。となれば首をかしげている場合ではない。エレノアが盛り上がるような前振りをしてくれているため、きっちり応えなければ。
「それは……」
(今だ!)
タイミングを計り、一歩前へ。得意げに名乗り出ようと。
「オレだ」
「アリアよ!」
「ワタシです!」
「わたしなんだよ!」
次の瞬間、声高らかな宣言が重なった。なんとこの場にいる全員が、一斉に名乗りを上げたのだ。
「「「「え?」」」」
あまりの予想外の出来事に、目をきょとんとして固まるユウたち。
「「「「え? え~~~~~~!?」」」」
そしてようやく事態を把握し、ユウたちの驚愕の声が響き渡るのであった。




